記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】東京都の救急医療事情

医療法人順江会 江東病院 副院長
三浦 邦久

 私は江東病院副院長である傍ら、現在東京都医師会救急委員会委員および東京消防庁救急相談センター副医長としても働いている。

東京消防庁にある救急相談センターは、急な症状を電話で聞き、救急車で医療機関に搬送した方がよいか、救急車を利用しなくてもすぐに医療機関で受診した方がよいか、それとも翌日の受診でよいかを短時間で判断している。この救急相談をすることによって都民が適正な医療機関に掛かってもらうことができ、かつ適切に救急車が利用されることになったと私は確信している。

救急相談センター運営は東京都医師会、東京都福祉保健局、東京消防庁で行っており、定期的にこの3機関の代表者と救急医療の有識者が集まって、現在行っている救急相談内容などを検討し、電話対応について改善点があるか話し合い、これまで以上に良い制度にしようと各機関が助け合っている。しかし、救急車を出動してもすぐに適切な医療機関を選定できない場合もあるのが実状である。

そこで東京都は、東京都福祉保健局が主体で2009年8月31日から「東京ルール」という制度を作った。東京都を12に区分した地域医療圏に、都から認められた病院を地域救急医療センターとして置く。「東京ルール」では病院が選定するまでに救急隊が現場到着から20分以上掛かった場合か、5医療機関に連絡をとったが病院受け入れの選定ができない場合、地域医療センターが対応できる病院の選定を行っている。

一つの医療圏の中に地域医療センターを原則二つ置き対処しているが、中には輪番制をとり対応している地区もある。また、現在東京都全ての医療圏で、地域救急医療センターが固定か輪番制で行っているが、なかなか参画できなかった地区もあったのは事実である。

その理由の一つとして、東京都が抱える救急医療現場の現状を理解しなければならない。東京都の二次救急を支えているのは、全体の約7割にあたる私的病院である。近年救急車出動件数が増えているが、その急患に対応する救急告知病院は徐々に減っている。

救急告知病院の看板を下ろす病院が増えている原因の一つとして、救急医療に対して加算される保険点数が低いことがあげられる。50床以下の病院では、当直医、看護師などの人権費を現状の保険点数から捻出することが難しいこともあり、救急告知の看板を下ろす病院は少なくない。

また、夜間緊急手術を行う場合に私的病院で麻酔科医などの手術に必要なスタッフ確保が難しいことも、夜間緊急手術を行える病院が少なくなってきた誘因の一つである。特に東京都は医療の専門性を要求してくる患者が多く、外科医のみで麻酔及び手術を行う施設は少ない。

このような事情から、無理をして夜間緊急手術を行う二次救急指定病院は限られてくる。夜間緊急手術を行えない病院は、行ってもらえる病院を必死に捜して、行ってくれる二次救急指定病院や救急救命センターへ転医させる。このような苦労をするのであれば、救急をやめてしまう病院もある。また、頑張って救急医療を行っている二次救急指定病院は、その病院に患者が集中してしまい医療スタッフが疲弊して辞めてしまうケースや、救急医療をやり続けることで病院経営が逼迫するケースもある。

このような現状の中で、2011年8月末時点で東京ルールに参画しているのは71病院である。東京ルールにまだ参画していない病院が輪番として参画する場合、院長が医療スタッフに説得して東京ルールに参画しても病院経営上のメリットは少ない。しかし全ての二次救急指定病院が夜間祝祭日の救急医療を拒むとしたら、救命救急センターはさらに疲弊してしまい、東京の救急医療は崩壊してしまう。

各病院ができる範中で精一杯救急医療を行えば、東京ルールに該当する患者は減り、各医療機関の疲弊具合が減るのではないか。その為には全ての医療機関が行政に救急医療の関する保険点数を上げるように訴え続けていかなければならないと私は思う。

現在、救急医療に力を入れている病院は院長及び医療スタッフの急患患者を助けたいというモチベーションのみで行っているが、このままの人員及び報酬であればいつか疲弊してしまう。そのためには、早急に救急医療の現状を改善していかなければならない。

※ドクターズマガジン2011年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

三浦 邦久

【Doctor’s Opinion】東京都の救急医療事情

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