記事・インタビュー
広島市立安佐市民病院 循環器内科 主任部長
土手 慶五
私は、広島市の中心部から15㎞の500床病院に20年間勤務している循環器内科医です。本稿では、20年間の地域医療定点観測からみえてきた、地域医療のステークホルダーとしての住民、医師、行政の精一杯の行動様式を考察し、問題提起させていただこうと思います。
地域住民は二つの医療を求めて受療行動を起こす。一つは、医療から介護までつなぎ目のない地域保健福祉としての医療、診療所の裏が自宅になっていることを信頼の証と要望されるお医者さんが展開する医療。もうひとつは「イザの時にはお願いしますよ!」の医療。神の手が喧伝され、医療技術、医師密度に顕著な地域差が出れば、中山間部の住民もイザの時には大都市の病院を頼るし、家族も「一度大きい病院(500床以上の病院か)でみてもらった方がいいのでは」となる。この二つの医療に費やす交通移動時間が同一のところは地域とは呼ばない。もしかしたら二つの医療に大差はないかもしれないことを医師は認識しているが、イザという時には医師だけでなく患者、家族も同時に偏在する。さらにこの偏在に輪をかけるように健康福祉局の行政担当者が2〜3年で入れ替わる。
手術難易度が高い術式を施行している病院ほど医師密度は高い。地域中核病院は、若い医師が集まらなければ運営はできない。溌剌としたエネルギー、すなわち、夜間の当直手術に耐えうるエネルギーは、大都市のイルミネーションに集中するごとく新技術、匠の技術にあこがれる。
県行政あるいは大学が地域に配置し2〜3年で転勤する予定が着任時に判明してしまっている医師と、イザの病院とが密に連携する仕組みが必要である。地域の医師とイザの病院の医師が同一母体で勤務できるように行政の垣根を越えなければならない。表のごとく人口20万以上の医療圏の数と人口20万以上の行政都市の数はアンバランスである。さらに、日赤、JA、済生会、国、県、市など独立した経営母体をもつ500床以上の病院群を県行政で指導するのはまず不可能。医療圏を統括する医師会、大学、行政による地域医療推進機構に大きな期待が寄せられる所以である。
研修医派遣制度ではなく熟練医師の派遣制度を変えるのが優先だ。全ての医療圏を、最先端医療を若い先生に供給しうる人口20万以上の広域医療圏とし、広域医療圏の中心に、医学部教授が陣取り、地域に臨床教授を配置する。教授はすべて自ら周辺に出陣する。医学部教授は周辺大病院で手術を指導し月100万円程度の「地域診療手技向上手当」をえる、臨床教授はより周辺の中小病院診療所にでかけて「地域医療支援手当」をえる。財源は、その医療支援による病院収入、医師確保代を考慮すれば簡単に捻出できる。プラチナ世代が、地域に出向している間、若い先生が入れ替わり大病院で研修する。患者さんも地域で診察してくれた主治医とイザの病院で再会し、主治医のつながりが継続され持続可能な安心が担保される。
私はこれらの視点から二つの小さな一歩をはじめた。20年間同一の病院に勤務すると、65歳で治療した患者さんも85歳になり、中山間部から通院が困難となる。「先生、安心じゃけ〜月に一度くらい私たちの町にきて」の声に後押しされ、月に一回、山間部の病院で外来診療をはじめた。臨床研修制度により、紹介状をくださる医師が自治医大の卒業生に大きくシフトした。その丁寧かつ高水準の紹介状に感服し、彼らとの交流を深めるために、山間部に勤務する若手医師との交流会(芸州ネット)をたちあげ広域医療圏での診療体制を模索している。
※ドクターズマガジン2011年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
土手 慶五
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