記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】耐性菌対策に病院の力量が反映される時代

社会医療法人敬愛会中頭病院感染症内科部長
新里 敬

 最近、多剤耐性アシネトバクター、多剤耐性緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌による院内での集団感染について、マスメディアが過熱気味に報道を行った。警察まで介入する事態に、私は言葉も出なかった。ついに、耐性菌で病院の運営や経営が脅かされる時代が到来したのである。

 耐性菌による院内感染には、耐性菌の発生、人や環境の媒介、院内への拡散という三段階がある。

 まず、耐性菌の発生については、抗菌薬を使用する限り耐性菌の出現は避けられない。108〜109に一個の割合で耐性変異株が出現し、抗菌薬が継続的に使用されるほど、その耐性変異株が選択されるからである。ここには抗菌薬濫用あるいは治療戦略の問題がかかわっている。

 選択された耐性菌は患者の分泌物や排泄物中に存在する。それを媒介して他の場所に運ぶのは、医療従事者(医師、看護師、コ・メディカルなど)や患者本人、その家族である。また、医療服や種々の器具(白衣、聴診器など)も、微生物伝搬の媒体となる。

 そこで、耐性菌を一定の場所に封じ込めることが必要になってくる。そのために医療・検査器具やリネンなどの洗浄・消毒・管理、院内清掃の充実、場合によっては空調や換気の整備までがなされなければ、院内への耐性菌の拡散を防ぐことは難しい。耐性菌が拡散してコンプロマイズドホスト(易感染宿主)である入院患者に感染した場合、生体防御能や免疫力の低下と相まって、感染症を発症することになる。

 実際に院内感染症が発生した場合、とるべき対策は主に三点。

 一つは適切な治療。最初はエンピリック治療で開始となるが、院内や地域における耐性菌に関する情報がなければ適切な抗菌薬の選択は行えない。有用なのは、院内の分離菌薬剤感受性情報(antibiogram)で、細菌検査室のある病院では提示されていることだろう。自らの病院や地域でどのような耐性菌がどういう頻度で発生しているのかを医師が把握できるよう、検査室はその情報を周知する必要がある。起炎菌が多剤耐性菌であれば、治療に使える薬剤が限られているか、国内に存在しない可能性が高く、外国からの個人輸入に頼るしかない場合もある。

 二つめは拡散防止のための感染予防策である。微生物に応じて、空気感染、飛沫感染、そして接触感染の予防策が施される。通常、耐性菌と称される菌は一般細菌のことが多く、標準感染予防策と接触感染予防策を施す。

 三つめは院内の発生動向の把握である。ここでは、院内感染対策チーム(ICT)と細菌検査室が重要な役割を果たす。ICT、あるいは院内感染対策担当医師・看護師(ICD/ICN)は、各部署からの情報を素早く把握し、院内にアウトブレイクの徴候がないかどうかを監視する。細菌検査室は培養検査結果等を参照して、特定の部署に耐性菌が多く分離されていないかどうかの把握に努め、その徴候があれば、ICT(ICD/ICN)に報告する。アウトブレイクの徴候を把握した場合には、病院として早急に、隔離・トリアージ、部署閉鎖、治療、検査や手術の中止などの対応策を講じる。

 厚生労働省は、先ごろ、多剤耐性アシネトバクター感染症を感染症法上の5類感染症に追加し、全国の基幹定点医療機関に報告を義務づけることを決めた。ただ、その治療薬が国内に存在しないという状況は未解決のままであり、治療薬の緊急承認などの対応がいまだなされないのは腑に落ちない。本来ならば、国内外でそのような感染症の発生が報告された時点で、即座に対応しなければならないはずなのだが──。

 治療薬を容易に入手できない現状で現場の私たちにできるのは、耐性菌をつくらない、伝搬しない、拡散させない、という自衛手段を講じることである。その成否は抗菌薬の適正使用、標準感染予防策の徹底、院内をあげての感染対策にかかっており、このいずれが欠けてもうまくいかない。そこで重要な役割を果たすのが、医療従事者や関係者への教育だ。医師や看護師だけではなく、病院や施設に従事するすべての職種に、感染対策にかかわっていることを自覚してもらう必要がある。また、患者、その家族、そして見舞客に対しても、感染対策への協力を求めることになる。

 患者の安全管理の中でも、感染対策は重要な柱のひとつ。その柱をしっかりと構築するために、人材の確保や育成、物品の確保や整備、及び、職員への感染対策の教育とその実践はなされているだろうか。耐性菌時代に対応した新たな病院運営戦略が、今、まさに求められている。

※ドクターズマガジン2010年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

 

新里 敬

【Doctor’s Opinion】耐性菌対策に病院の力量が反映される時代

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