記事・インタビュー

2019.02.04

(2)病院総合医とは何か? 〜病院で実践する総合診療〜

若手の家庭医/総合診療医、どーしてる?なにしてる?

このシリーズでは、多様な環境で働く若手の家庭医・総合診療医が、今考えていることや取り組んでいることを熱く語ります。
第2話では、「病院総合医」というキャリアをもっと皆さんに知ってもらうため、「病院総合医(≒病院で行う総合診療)とは何なのか、どんなことをしているのか」について紹介します。

私のこれまでの軌跡

私が初めて総合診療について知ったのは大学6回生くらいだったと思います。総合医療に関する学生向けの講演会が京都大学で開催され、そこで草場鉄舟先生(医療法人 北海道家庭医療学センター 理事長)のお話を聞きました。正直なところ、何が自分をわざわざ京都大学まで足を運ばせたのかはあまり覚えていないのですが、「疾患だけではなく広い視点で患者、家族、地域を診る総合診療医」にぼんやりとした憧れがあったのかもしれません。その後も医師国家試験が終わった翌日には北海道家庭医療学センターの各診療所に見学に行ったりしていました。ただ、専門医としての総合診療医をそれほど意識していたわけではなく、初期研修は天理よろづ相談所病院で行いました。

初期研修では、疾患だけでなく患者さんの背景を考えて診療することを徹底して教えられました。そんな指導を受けながら、さまざまな領域の疾患を診るだけでなく、きちんと患者さんを診ている総合内科の先生方に憧れ、そのまま同院で後期研修、その後スタッフとして総合内科に進みました。そして現在は洛和会丸太町病院の救急・総合診療科で病院総合医としての研鑽を積んでいます。

「病院総合医」とは何なのか?

「病院総合医」の定義は現時点でははっきりしていません。診療科の名称としては病院ごとに異なるかもしれず、「内科」のところもあれば「総合内科」「総合診療科」などあり、実際の仕事もバラバラでしょう。そんな病院総合医ですが、具体的な働き方のイメージとして、日本プライマリ・ケア連合学会(以下、JPCA)の、私も所属する病院総合医委員会が提唱する「病院総合医に期待される医師像」※が挙げられます。

(1)内科系急性期病棟診療+病棟を管理運営
(2)病院一般(総合)外来や救急外来で独立診療
(3)病院の運営や管理に貢献
(4)総合診療領域の教育や研究でも地域社会に貢献

※ 日本プライマリ・ケア連合学会 病院総合医委員会HPより https://pc-hospitalist.jimdo.com/病院総合医での期待される医師像/

一例として私は今、後期研修医4-5人で形成される救急・総合診療科のチームリーダーとして働いています。当院は専門科が少ないため、総合診療科が担当する入院患者は多岐に渡ります(図1参照)。今年度から日中の救急外来は外科系医師に手術に集中してもらうため、外科系疾患も診るようになりました。また夜間の内科救急当直はすべて総合診療科で回しています。

(図1)救急総合診療科の入院疾患群

チームリーダーという立場上、実際に患者さんを診るというよりは後期研修医の指導が主になってきましたが、指導内容は多岐に渡るので勉強が欠かせません。Biomedicalな医学知識だけではなく、患者さんを全人的に診るためのPsycho-Socialな知識も伝えられるよう頑張っています。また、病院の関連グループホームへの往診や地域の在宅医師の会への出席、そして住民の健康増進のための講演なども、病院として行う機会があります(私は禁煙について話しました)。最近では専門医プログラムの構築や多職種で形成される病院横断的な委員会(感染管理やNSTなど)に参加する機会も増えてきました。

では、このような場所で一人前の病院総合医として働くために必要な能力とは何でしょう? 先述の病院総合医委員会が提唱する「修得すべき中核的能力」は下記6つを挙げています。同委員会では、これらを「家庭医の後期研修のゴールに上乗せする能力」としており、私も家庭医の能力は病院総合医に大切であると考えています。

(1)内科を中心とした幅広い初期診療能力
(2)病棟を管理運営する能力
(3)他科やコメディカルとの関係を調整する能力
(4)病院医療の質を改善する能力
(5)診療の現場において初期・後期研修医を教育する能力
(6)診療に根ざした研究に携わる能力

私は上の6つに加え、家庭医療の要素をイメージしながら、日々働いています。勉強と実践は内科的知識に留まらず広く(医学教育、医療人類学、病棟運営、プログラム管理、病院経営、多職種連携 等)、非常にやりがいを感じています。

ただ、私の考える病院総合医の最も重要な要素は「病院や患者のニーズにアメーバのように対応できること」です。アメーバというのは自分を柔軟に変化させるイメージです。救急外来を診る人がいなければそれを担当し、専門科がいなければその領域をカバーする。そしてどの科も“うちの科ではない”という患者さんがいれば担当する。病院総合医にはそうした姿勢が求められます。いろんなお鉢が回ってきてストレスがたまることも時々ありますが、それも「患者さんのため!」と笑って目の前の困っている患者さんに向き合いましょう。

病院総合医のキャリア構築を目指して

学会内外で勉強会や病院総合医に関する研究

現在私はJPCA 若手医師部門の中で病院総合医チームのリーダーをしています。主な活動としては、学会内外で勉強会を開いたり、病院総合医に関する研究を行ったりしています。全国の病院総合医とつながりを持ち勉強していくのは非常に楽しいです。チームのVision & Missionは「病院総合医(病院での総合診療)の価値を社会に発信し、これを志す若手の道標になる」としています。

病院総合医は、患者さんのためにできることに枠を設けず、自分を成長させることができる楽しい仕事です。ただ、十分なキャリアパスが示されてこなかったこともあり、これまでは各自が独力でキャリアを切り開いてきたところが大きいと思います。私はこの学会で病院総合医の価値を示し、病院総合医を目指してくれる若手にキャリアパスを示す活動をしていきたいと思っています。同じような思いの方がいらっしゃれば、ぜひ一緒に活動をできればと思います。

facebook 日本プライマリ・ケア連合学会 専門医部会若手医師部門

<プロフィール>

長野 広之

長野 広之(ながの・ひろゆき)
洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医員
総合内科専門医

大阪府出身。2011年大阪大学医学部卒業。2012年より天理よろづ相談所病院(奈良県)で初期研修、同内科ローテイターコースで後期研修を修了し、その後、総合内科 医員として勤務。2017年より洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医員として勤務。日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師部門 病院総合医チームリーダー、病院総合医委員会メンバーとして、病院総合医の教育やキャリアパスづくりに取り組んでいる。

「若手の家庭医/総合診療医、どーしてる?なにしてる?」

  1. (1)私にとっての家庭医とは 〜家庭医への軌跡と未来〜
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長野 広之

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