記事・インタビュー
武蔵国分寺公園クリニック
院長
名郷 直樹・五十嵐 博
メトホルミンは肥満2型糖尿病患者でスルホニル尿素薬やインスリンよりも糖尿病の合併症、総死亡を減少させる効果があり(UKPDS34研究)、安価で低血糖などの副作用も少ないため、2型糖尿病の第1選択薬とされていますが、致死率の高い重篤な合併症である、乳酸アシドーシスとの関連が取り沙汰されていました。日本糖尿病学会の「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation」では、乳酸アシドーシスの高リスクとされる、① 腎機能障害患者(血清クレアチニン男性1.3㎎ /㎗、女性1.2㎎/㎗以上)、② 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者、③ 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、④ 高齢者(特に75歳以上)では使用を避けることとされています。しかし、メトホルミンは本当に乳酸アシドーシスの原因なのでしょうか。
メトホルミン内服患者の乳酸アシドーシスの罹患率は10万人年当たり9人と非常にまれですが、1)メトホルミンを内服していなくても10万人年当たり10人と同程度の罹患です。
2)2010年には、2型糖尿病患者を対象とした臨床試験とコホート研究(計347研究)のメタ分析が発表されています。
3)メトホルミン内服患者7万490人年、非メトホルミン内服患者5万5451人年の追跡で、乳酸アシドーシスの発症は認めませんでした。乳酸アシドーシス罹患率の95%信頼区間の上限は、メトホルミン内服患者で10万人年当たり4.3人、非メトホルミン内服患者で5.4人でした。5万48人の2型糖尿病患者を対象としたコホート内症例対照研究でも、乳酸アシドーシスの発症はメトホルミン内服患者で10万人年当たり3.3人、スルホニル尿素薬内服患者で4.8人と、メトホルミン内服患者で多いわけではありませんでした。
4)それでは、腎機能障害のある患者でのメトホルミンの使用についてはどうでしょうか。1万9691人の動脈硬化性疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象としたコホート研究では、推定糸球体濾過量(eGFR)30〜60㎖/min/1.73㎡の中等度の腎機能障害患者でも補正後ハザード比0.64(95%信頼区間0.48〜0.86)と、非メトホルミン群に比べ、メトホルミン群で有意に死亡率が低いという結果でした。
5)ただし、血清クレアチニン6.0㎎/㎗以上の高度の腎不全患者1万2350人を対象としたコホート研究では、中央値2.1年間の追跡で、総死亡はメトホルミン内服患者で53%、非メトホルミン内服患者で41%と、メトホルミン内服患者で有意に多くなっています(補正後ハザード比1.35、95%信頼区間1.20〜1.51)。
6)メトホルミンを内服している2型糖尿病患者7万7601人を対象としたコホート研究では、乳酸アシドーシスの発症は、腎機能正常(eGFR>90㎖/min/1.73㎡以上)、軽度の腎機能障害(eGFR60〜90㎖/min/1.73㎡)、中等度の腎機能障害(eGFR30〜60㎖/min/1.73㎡)、高度の腎機能障害(eGFR≦30㎖/min/1.73㎡未満)の患者でそれぞれ、10万人年当たり7.6、4.6、17、39であり、有意差は認めないものの、中等度以上の腎機能障害患者で多い傾向となっています。
7)メトホルミンと乳酸アシドーシスの関連は現時点でははっきりしておらず、乳酸アシドーシスの発症は非常にまれです。だからといって高度の腎機能障害患者や、併存疾患で全身状態が低下した患者に対するメトホルミンの使用が推奨されるわけではありませんが、軽度の腎機能障害の患者に対しては、もっと使用されてよい薬剤なのではないでしょうか。
【参考文献】
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Lancet Diabetes Endocrinol . 2015 Jun 17. doi: 10.1016/S2213-8587(15)00123-0. [Epub ahead
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7 Richy FF, Sabidó-Espin M, Guedes S, et al. Incidence of
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24879835.
※ドクターズマガジン2015年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
名郷 直樹、五十嵐 博
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