記事・インタビュー
たかせクリニック
理事長
髙瀬 義昌
【在宅医が教える看取りの常識・非常識】という題と【「自分の最後は自分が決める」自宅で穏やかな死を迎える方法教えます。】という副題で、文藝春秋の2012年9月号にセンセーショナルな一文を、敬愛する長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏先生が表されました。
この中で「ある程度の脱水は人生最期を迎えるにあたりQOLを維持することに問題となりにくく、なんでも点滴治療という日本の大多数の医療機関への警鐘から始まり、在宅医の選び方、施設の選び方、在宅医療からみた入院の適否、葬儀屋とのすり合わせ、しめくくりは診察後、24時間後に亡くなった場合、患者宅に行かなくても医師は死亡診断書を書くことができる。(医師法20条)」など、実際の看取りについての法律やとりまく社会状況は、ある意味おおらかで、在宅の看取りは変死扱いにならないこと、救急車を呼ぶとかえってややこしくなったりすることなど、実情に即した在宅医療の実践の姿について書かれておられますので是非ご一読をおすすめします。何気なく書かれていますがよく読めばその深い内容に気づかれることと思います。より詳しくは長尾先生の【「平穏死」10の条件〜胃ろう、抗がん剤、延命治療いつやめますか?】(ブックマン社刊)などを参考にされるとよいでしょう。
同じ流れはたかせクリニック顧問でもある中野一司先生の【在宅医療が日本を変える〜キュアからケアへのパラダイムチェンジ〜 ケア志向の医療=在宅医療という新しい医療概念の提唱﹈】(ドメス出版刊)も通じています。これらの本の主張の本質はわが国の高齢化対策の要としての「医療を支えるパラダイムが大きく変わろうとしている」、さらに言うならば、「大きく変わってきている」ということなのだと思います。「治す医療」から「治し支える医療」、「暮らしを支える医療」へということになるでしょう。
今や在宅医療の現場は日々激変しているのですが、病院の中にいるとそのことに気づきにくいと思われます。たとえば介護保険の要介護認定で大きなウェイトをしめる「主治医意見書」の記載に関しても「病院の医師」と「在宅医」とでは大きな隔たりがあることはいなめません。病院の外来診察の場ではなかなか患者の現状を把握できず、特に認知症も診察室の中ではわからない症状も多くあるので、どうしても患者の症状の見落としがおきてケアマネージャーからするとどうしても記載してもらいたい精神症状や行動障害が抜けてしまって、要介護度が低く出てしまいます。
ある意味でいたしかたないとも言えるのかもしれません。必然的に、いろいろな介護サービスを利用できず、QOLが低下してしまったり、家族の介護負担が大きくなることで、「介護うつ」や「虐待」など別次元の新たな医療問題・社会問題が発生してしまうことも多くなってしまいます。同時に、在宅医が解決しなければならない応用問題も次第に幅広く、またヘビーになってきていることも事実です。「病院医と在宅医のこの差」は「技量の差」というよりはシステムの問題とも言えそうです。ただし、当然のことながら、各医師、個人個人のセンスにもよるということになりますが、このセンスの教育や伝承は簡単にはいかないことも自明です。厄介でクリアしなければならない問題が山積しているとも言えるでしょう。次回はこのあたりについて切り込んでいきたいと思います。
※ドクターズマガジン2013年9月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
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