記事・インタビュー
東海大学医学部内科講師
総合内科専門医 感染症専門医
米国内科学会上級会員
柳 秀高
市中肺炎に対して、しばしば推奨されている推測治療としての抗菌薬の組み合わせに第三世代セファロスポリン/アンピシリン・スルバクタム+マクロライドがあります。第三世代セファロスポリンではあってもセフタジジムでは肺炎球菌をカバーしていませんので、この場合はセフトリアキソンかセフォタキシムにすべきです。グラム染色でグラム陽性双球菌を認め、尿中肺炎球菌抗原が陽性であるなど、肺炎球菌と確信している場合、髄膜炎が無く、重症で無ければペニシリンGが第一選択薬です。一方、痰が取れない、前もって抗菌薬が投与されていてグラム染色で微生物が見えないなどの場合には、推測治療として上記のような肺炎球菌を主にカバーするβラクタムと、非定型肺炎をカバーする薬剤の組み合わせが選択されることもまれではありません。この場合は培養検査が帰ってきたら特異的治療に速やかに変更します。
しかし、ガイドラインに載っているような治療でも必ずしも上手くいくとは限りません(表1)。咳、痰、呼吸困難、酸素化障害、肺浸潤影があっても肺炎で無くて、非感染性疾患である血管炎のことも有り得ますし、また好酸球性肺炎やCOP(cryptogenic organizing pneumonia)、あるいは肺胞上皮癌のこともあります。また、本当に肺炎であっても膿胸やARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome:急性呼吸促迫症候群)を合併した場合には特別な介入を行わなければ患者は良くなりません。胸水が10㎜以上あれば積極的に穿刺しますし、穿刺した胸水が膿であれば速やかにドレナージするべきです。また、ARDSであれば通常は気管挿管の上で肺保護換気を考慮します。市中肺炎として入院して2-3日経った後に悪化するという場合には、院内肺炎の合併も考える必要があるでしょう。しかし、耐性菌に対して抗菌薬を変更すれば良いという場合はむしろ少数派で、非感染性疾患や合併症を探すことがまず重要と感じています。
一方で、耐性菌の問題も近年は問題となることが増えているようです。最近の入院歴、透析、長期療養型施設、ICU入室を必要とする場合、などが耐性菌の一般的な危険因子と思われており、また、進行したCOPDや気管支拡張症などは特に緑膿菌の危険因子と考えられています(これは医療関連肺炎というカテゴリになりますが)。日本の結核の有病率を考えると、市中肺炎と思われていた病変が実は活動性結核であったということは稀な事態ではありません。暴露歴(米国南西部の砂漠でコクシジイデスに感染など)、免疫不全状態(HIVでニューモシスチス肺炎、好中球減少症でCT上結節陰影があり、Haloサインを伴うアスペルギルスなど)などを手がかりに少々毛色の変わった微生物について考えていくことも基本的かつ重要なことです(表1)。
このように考えると肺炎の治療がうまくいかないとき、というのはかなり広い分野に対応する力が求められると言えます。
参考文献
1) Sialer S, Liapikou A, Torres A. What is the best approach to the nonresponding pat ients with community-acquired pneumonia. Infectious Disease Clinic of North America 2013;27:189-203.
※ドクターズマガジン2013年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
柳 秀高
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