記事・インタビュー
たかせクリニック
理事長<br/ >髙瀬 義昌
前号では、介護関係者にも理解可能なように「高齢者がなりやすい脱水症状」について書きましたが、もう少し医学的に低張性脱水(Na欠乏型脱水)についてアプローチしたいと思います。
まず、日野原重明先生にお許しを願って掲載させていただいた、『刷新してほしいナースのバイタルサイン技法―古い看護から新しい臨床看護へ』(日本看護協会出版会発行)の衝撃の表をご覧ください。ここで最も重要なことは低張性脱水においては「口渇がない」ということと、安易な「補水が悪化の条件!?」だということです。
高齢者で認知症があればさらに口渇を訴えることが少なくなるのは自明です。私が密かに尊敬している岩田光永先生の論文(高齢者熱中症の特徴に関する検討、日老医誌2008;45:330〜334頁)によれば熱中症疑いで救急救命センターを受診した高齢者25名の内、20名が入院(入院率80%)となり、そのうち12名が認知症だったとのことです。
脱水予防・治療に経口補水液が必要なことは前回お話しましたが、水分・塩分だけではなく適切な濃度のブドウ糖が存在する(ナトリウムとブドウ糖のモル比が1:1〜2)と下痢状態であっても水分が吸収されやすいということがポイントです。
いわば「体内の特殊ポンプは悪条件でも作動する」ということになります!!下の左の金子一成先生のラット腸管を用いた実験結果をご覧ください。小腸での水分・塩分の吸収速度が生食などと比べて経口補水液(ORS)で速いことがわかります(in vivo)。ですから、お茶は論外としても、経口補水液はその他の飲料と比べて、概念が根底から異なるということを内科・外科以外の研修医の皆さんにもご理解いただきたいと思います。水分だけを摂取すると血中ナトリウム濃度はさらに低下し、中枢神経症状がさらに悪化してしまうということになります。
さらに重要なことは、筋肉が水分と電解質の貯蔵場所であるということです。つまり、筋力維持・アップのためのリハビリテーションは転倒・骨折予防目的だけでなく、脱水予防の観点からも大切だということになるのです。
単なる脱水といえども、医療者がきちんと理解できていないと、救急車を呼ぶ頻度が無意味に増えてしまうことになります。これからは「医療者による医療的介入が、患者及び家族のQOL向上にどのように寄与し、医療費その他の社会コストの最適化にどのように貢献するか?」ということが医療活動の戦略立案のための最も重要なフレームワークの1つになると思われます。
筆者は昨年度より『教えて!「かくれ脱水」委員会』(www.kakuredassui.jp)という団体で活動しています。熱中症や脱水に対する経口補水液の有用性について啓発活動を行っています。(それ以前からもNHK他でも啓発活動に力をいれていますが…)東京都監察医務院のホームページ(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/)をのぞいてみると、それらの活動の甲斐あってか昨年、熱中症で亡くなった方の数が減少しています。
さらに「冬の脱水予防」についても引き続いて活動しています。是非応援してください!ではまたお会いしましょう!
※ドクターズマガジン2013年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
髙瀬 義昌
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