記事・インタビュー
ハワイ大学医学部外科
東京ベイ浦安市川医療センター
Noguchi Hideyo Memorial International Hospital
NKP 研修委員会
町 淳二
「先生の施設の研修プログラムの達成目標は何ですか?隣の施設の目標と同じ?日本全体ではどうですか?」30年チョッと前のアメリカでの答えは「うちのプログラムのゴール・研修医の達成目標・卒業時点の臨床能力はOOXXです。隣の施設とは 無関係。違っていても外部から監査や干渉されることはないでしょう」。
日米の医療や教育(研修)を見ていると、スタンダード化の有無・差異に気付きます。アメリカは多民族国家でスタンダードを設定しておかないと大変な事態になりかねません。一方、日本では勤勉さとモラルによって、スタンダード設定や監査などしなくても秩序や活動(医療や教育を含む)が安定しているようです。今までは…?一方、昨今さまざまな分野でグローバル化や国際基準、海外からの日本侵入が進み、「黒船襲来」を感じるのは、海外から日本を見ている私だけではないはずです。スタンダードがありそれが実践・監査・認定するか否かで、研修方法や内容も「常識vs非常識」となります。
約30年前、アメリカでは医療・医師教育において大きな変革が起きました。その背景は、医療提供者・医師会などの医療団体が社会や国民に責任を持てるようにするためでした。個々の能力や努力には常に格差が生じます。そこで外部や第三者からの評価・フィードバック・改善規制の必要性が出てきます。少なくとも国際的にはこれらが必須・常識です。組織の質管理改善に第三者の監査・評価を受けることは、組織としては抵抗も多いのでしょうが、それをしないことは非常識となりえます。
1980年頃、アメリカでは医療や教育面で、ACGME(卒後臨床研修システムの標準化を監査認定)、Board-System(学会主導ではない各専門科の臨床能力の認定)、JC(病院の評価監査認定)、ER-System(独立した救急のプライマリ・ケアを全て診れるシステムとその認定)、といったシステムが次々に発足し動き始めました。自己努力だけに頼らず第三者の監査に権力を与えることでスタンダードを広く定着させ、提供する医療や育成する医師らの格差をなくすためです。そしてそのスタンダードは時代の医療のニーズの変化や社会・国民への責任から常に進化してきています。そして近年、このアメリカシステムの優位性を認識し世界がその導入に力を入れ始めています。極端に言えば「第三者からの評価」が強いられる時代になっています。
研修に関しての一例として、この10年位に起きたACGMEによるスタンダード改革を挙げると、Six Competencies の明確化があります。「医はサイエンスと同時にアートである」ことは認識されていますが、それを実践する医師育成にもサイエンス面ばかりでなく、 アート面も確実に教育し評価しないといけないはずです。医師個人レベルではこれらの能力をBoard-System が専門医認定として担当しますが、研修を提供するプログラムにはACGMEがSix Competencies 全ての項目を監査し、実施されていないと大学病院であろうと認可しません。このシステムで、アメリカの研修レベルは全米どこでも一定のスタンダードが保たれています。
研修医の労働基準もスタンダード化されました。これはアメリカ睡眠医学学会の出した「寝不足状態下の研修医は判断力や手技能力が減退するため医療ミスや患者へのリスクが高まる」というエビデンスなどを基に、医療と患者安全を第一目的として全米でスタンダード化されたものです。
このようなアメリカでは常識のスタンダードは日本の現状では採用されにくく、多分日本の非常識なのかもしれません。医療の安全にとって、それでよいのでしょうか。
グローバリゼーションの波は世界に広まっており、日本も逆らえない時代です。しかし、グローバリゼーションは日本のアメリカ化ではありません。日本には医療面など優れたシステムが多々あります。アメリカから見ていると、医のアート面など日本人に勝る民族はいないと感じます。このような日本の素晴らしい面を世界に発進し、日本の良い常識をグローバル化する時代になってほしいです。日本国内の現状に安住せず開国するには、世界を受け入れ、さらに自ら海外に継続的に出ていくことでしょう。医療でも教育でもスタンダードは 〝Never-ending, Ever-evolving〞 です。
【参考文献】
・www.acgme.org
・www.aasmnet.org
・ACGME 指導医と日本の卒前・卒後医学教育専門家との会談報告.吉村仁志.町淳二.日本医事新報 4559;32-35:2011
監修:岸本 暢将[聖路加国際病院アレルギー膠原病科(成人、小児)]
※ドクターズマガジン2012年8月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
町 淳二
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