記事・インタビュー
亀田総合病院
リウマチ膠原病内科
松井 和生
生物学的製剤の登場は、関節リウマチの日常診療を大きく変えました。”Non erosive era”、すなわち、強い炎症を沈静化し、骨関節破壊の進行を阻止することが可能な時代となりました。リウマチ学の教科書のゴールド・スタンダードKelly’s Textbook of Rheumatology の著者であるGary S Firestein 先生は16世紀に描かれたH.Bosch の絵画”快楽の園”になぞらえて”Garden of erapeutic Delights”とも述べています。
では、関節リウマチの治療で有効な治療は何でしょうか。答えは、生物学的抗リウマチ薬、生物学的製剤でしょうか。それともメトトレキサート(Methotrexate, MTX)でしょうか。
最近のSystematic Literature Review によると、生物学的製剤単独でMTXよりも有効性が高いという報告は意外に多くありません。MTX無効例を対象にした試験では、生物学的製剤はMTXと比較して高い有効性を認めました。しかし、MTXを使用したことのないMTX naïve の患者を対象にした試験では、単剤でMTXよりも高い有効性を認めた生物学的製剤は1剤しかありませんでした。つまり初回治療で比較すれば、MTXと生物学的製剤の有効性はほぼ同等です。一方、生物学的製剤とMTXと併用した時には、単独で使用した場合と比較して高い有効性を認めており、併用療法が最も有効であることも示されています。
従来、関節リウマチに対する生物学的製剤の有効性を検証した試験は、いずれも疾患活動性、年間の関節破壊進行(yearly progression)が高い症例を対象としていました。しかしながら、これらの試験の選択基準に該当する患者は日常診療では5〜30%にすぎません。例えば、発症からの期間が短い症例、中疾患活動性の症例では、アプローチは異なるはずですが、あまりデータはありませんでした。しかし、最近、こうした症例も対象とした臨床研究や日常診療のレジストリー研究の結果が公表され、MTX、生物学的製剤をはじめとする薬剤の有効性・安全性が明らかにされてきています。関節リウマチの評価をまずしっかり行い、ケースにより柔軟に治療を選択し、患者と方針を共有することは大切な点です。
どの薬剤を選ぶか以上に、治療目標を持ち、定期的に評価し、活動性があれば治療調節を行うことも重要です。2004年の欧州リウマチ学会で最初の結果が発表されたオランダのBeSt 試験は、治療戦略に関するユニークな研究です。この研究では3ヶ月毎に疾患活動性を評価し、低疾患活動性を達成できなければ、治療薬を変更・追加する4つのプロトコールを作成し、比較しました。その結果、最終的にいずれの戦略でも目標を達成した割合には差がありませんでした。さらにBeSt 試験では6ヶ月間低疾患活動性が維持出来ていれば、生物学的製剤、そしてMTXを減量・中止することが可能なことも示しました。
最後に、医学生・研修医の方には、関節リウマチの治療では、まずMTXの使い方を学んでいただきたいと思います。MTXは、他の従来からある抗リウマチ薬とは区別して、関節リウマチ診療のカナメとなる薬剤として位置づけられ、”anchor drug”と呼ばれています。その理由は、MTX単剤で高い有効性があり、さらに併用により生物学的抗リウマチ薬との効果を高め、しかも長期の安全性が確認されていることによります。2010年の欧州リウマチ学会は、そうした理由から、活動性の関節リウマチ治療の初期治療にMTXを使用することを推奨しています。
【参考文献】
Pincus T., et al. Clin Exp Rheumatol. 2003; 21(5 Suppl 31): S179-85.
Visser K., et al. Ann Rheum Dis. 2009; 68(7): 1086-93.
Smolen JS., et al. Ann Rheum Dis. 2010;69(6):964-75.
Nam JL., et al. Ann Rheum Dis. 2010;69(6):976-86.
日本リウマチ学会MTX 診療カガイドライン策定小委員会. 関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2011年版 岸本暢将. 岡田正人. 関節リウマチの診かた、考えかた. 2011.
監修:岸本 暢将[聖路加国際病院アレルギー膠原病科(成人、小児)]
※ドクターズマガジン2012年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
松井 和生
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