記事・インタビュー
CMECジャーナルクラブ編集長
武蔵国分寺公園クリニック院長
名郷 直樹
名郷直樹先生の「医療界 常識の非常識」は今回が最終回です。一年にわたり、ご愛読ありがとうございました。(編集部)
がんと言えば早期発見、早期治療が重要、それ以外にないというのが世の常識だろう。多くの進行がんの患者さんが、もっと早く検診を受けていればというような後悔の念を抱いているかもしれない。事実、大腸がん、乳がん、子宮がんなどの検診で、がんの早期発見の効果が示されている。ただ、乳がん検診では、確かに乳がん死亡を減らすことが示されているのだが、乳がん以外のがんの死亡が増加している危険もあり、全体としての効果は疑問な点もある。そこで、今回は卵巣がんの検診について、最近になって意外な結果が示されたので紹介しよう。
この研究は、卵巣がん検診を希望する55〜74歳の女性7万8216人を対象にしたランダム化比較試験(Randomized controlled trial:RCT)であるが、年1回のC –125(腫瘍マーカー)と経腟超音波による検診を受診した3万9105人と受診しない3万9111人で、卵巣がんによる死亡率を比較した、質の高い研究である。
この研究において、卵巣がんの発見に関しては、検診群で20%多く、早期発見という点では成功しているように見える。しかしその早期発見が、卵巣がんによる死亡の減少につながっているかどうかと言えば、卵巣がんの死亡を減少させるどころか、増加させているという驚くべき結果になっている。平均12・4年間の追跡により、検診を受けていない群では1万人年当たり2・6人の卵巣がん死亡が、検診群では3・1人に増加したというのである。相対危険でいうと1・18で、統計学的有意差は認めていないが、少なくとも卵巣がんの死亡が減ったとは言えない結果である。
あらゆる医療行為は、診断や治療のために害を及ぼす危険をはらんでおり、その害を上回る効果があるような方法でなければ、全体としては効果があるという結果が出なくても、決して不合理なものではない。早期発見により卵巣がんの死亡が減る分に対して、がんと誤診された場合や、あるいは、あまりに早期に発見され、その人の予後を左右しない臨床的には問題とならないものまで治療することにより、かえって死亡率を高めてしまった可能性がある。
この例にみる通り、早期発見の効果を検討してみると明らかでないというような事例はそれほど珍しいことではない。細胞診による肺がん検診も、RCTでは効果が示されていない。前立腺がんも個々のRCTで効果を示したものもあるが、RCTのメタ分析ではその効果はむしろ不明確になっている。この研究は卵巣がん検診のRCTの最初の報告であるが、現在日本でも卵巣がん検診のランダム化比較試験が続行中で、結果はまだ発表されていないとある。その結果が待たれるところである。
【参考文献】
Buys SS, Partridge E, Black A,et al;. PLCO Project Team. Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA. 2011 Jun 8;305(22):2295-303. PubMed PMID: 21642681.
※ドクターズマガジン2011年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
名郷 直樹
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