記事・インタビュー
CMECジャーナルクラブ編集長
武蔵国分寺公園クリニック院長
名郷 直樹
今回は、咳、頭痛と並び最も多い訴えの一つである腰痛の話題である。腰痛で医療機関にかかるとまず単純X線写真、さらには念のためにMRI、みたいな患者さんが多くいる。私自身も高校1年以来、腰痛で長く苦しんだ一人であるが、今回の研究結果を見るにつけあまり検査をしなくて良かったと振り返っているところだ。そう書くと既にどんな研究かわかってしまうわけだが、今日は腰痛に関する2つの研究を紹介したい。
最初に紹介する研究は、今から10年以上も前にイギリスで行われた研究だ★1。平均10週間以上続く腰痛患者を、腰椎の単純X線を撮るグループと撮らないグループに分けて、痛みがどちらで長引く かを検討しているのだが、X線写真を撮ったグループのほうで痛みが長引いたというのである。
X線写真を撮ると、症状と関係なくても、骨の変形やずれなどが発見される。そういう時に、「ここちょっと変形してますね」とか、「背骨にずれがあるかもしれません」などという説明を患者さんにすることが多い、それを聞いた患者さんは、ついそれが気になって、腰に注意が集中することで痛みが長引いたりするかもし れない。
ただこの研究では、X線写真を撮ったグループのほうが、満足度は高かったということで、あながち無駄な検査ともいえないが、逆に言えば、それは効果がない医療を喜ぶように患者が医者にしつけられたひどい状況ともいえる。
上記のような単純X線でなく、MRIで検査すれば問題ないと考える人がいるかもしれない。医療従事者はさておき、患者さんの多くはそう考えるに違いない。そこで次はMRIに関する論文である。
確かにMRIは非常に優れた検査で、非常に細かい異常まで見逃さずにとらえることができる。しかし、この見逃さないというところに落とし穴があるということを明確に示した研究がある。
その研究は、腰痛のない98人の正常者を対象にして、腰椎のMRIを撮影し、臨床症状がないことを伏せた上で、放射線の専門医が読影して、どれくらいの割合で異常を指摘するかを検討している★2。結果は驚くべきもので、まったく症状のない大人で60%以上に異常を指摘したというのである。見落としが少ない半面、これほどの偽陽性を生む可能性があることは、検査のたびによくよく考えるべきことではないだろうか。
軽症な腰痛で単純X線写真を撮ったり、MRI検査をすると、症状とは関係のない、意味のない異常を指摘して、患者を憂鬱にさせているだけかもしれない。そういう恐ろしい可能性を、この2つの研究結果は示している。
【参考文献】
1.Kendrick D, Fielding K, Bentley E, Kerslake R, Miller P, Pringle M. Radiography of the lumbar spine in primary care patients with low back pain: randomised controlled trial. BMJ. 2001 Feb 17;322(7283):400-5. PubMed PMID: 11179160; PubMed Central PMCID: PMC26570.
2.Jensen MC, Brant-Zawadzki MN, Obuchowski N, Modic MT, Malkasian D, Ross JS. Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain. N Engl J Med. 1994 Jul 14;331(2):69-73. PubMed PMID: 8208267.
※ドクターズマガジン2011年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
名郷 直樹
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