記事・インタビュー
研修医時代から心に残る言葉 心理的安全性の確保が大事

稲葉 先生 :研修医の時にかけてもらった言葉で一番心強かったのは、お子さんを持つ女性の先輩医師からの「育児も、臨床も、研究も、全部欲張っていいからね」です。私はもともと欲張りな方ですが、それでもはっきり言葉にして言ってもらったことで、「欲張っていいんだ」と背中を押された思いがしました。若い先生たちにも、キャリアもプライベートも諦めてほしくないと思います。
山本 先生 :これまでの経験で、「困ったら何でも相談してね」と言うだけでは不十分だと感じています。普段、どんなに優しく「相談してね」と門戸を開いていても、本当に大事なことほど相談してもらえなかったりします。ですから、相談する前の段階、困る前の仕組みづくりが必要だと思っています。これは部長に相談する、こういう内容は〇〇先生にアドバイスをもらう、とルール化しておくと組織が円滑に回っていくような気がします。
稲葉 先生 :相談すること自体を不安に思わなくていい。相談すると〝二軍扱い〟になってしまうとか、評価が下がるんじゃないかと思わなくていいような、心理的安全性が確保された組織づくりが大事ですね。

後藤 先生 :一番近くにいる先輩方が耳を傾ける姿勢を示してくれるのは心強いですよね。私は他業種の友人が多いのですが、政治、法律、飲食、アパレルなど非医療者の方からもらうアドバイスが自分の仕事に良い影響を与えていると感じます。例えば、一つの制度を作るのに政治がどんな役割を果たしているのかは、社会の一員として知っておいた方がいい。医療は社会を構成する歯車の一つなので、多角的に物事を見る必要があります。若い先生たちにも、ぜひ医学以外の分野からも学び、迷ったときの判断の軸をつくっていただきたいです。
「やりたい」と「やりがい」を両立 3科の魅力とは
稲葉 先生 :産婦人科医は私の天職だと思っていますが、外科、循環器内科も医師の花形でカッコイイ。みんな一度は憧れるのではないでしょうか。もし体が三つあったら、消化器外科や循環器内科もやりたいくらいです。
後藤 先生 :分かります。私も診療科を絞るのに苦労した身なので。
山本 先生 :外科の魅力は、何といっても最先端のテクノロジーを使えること。手術支援ロボットの保険適用範囲は広がっていますし、国産のロボットも開発され、人間の手でできなかったことが簡単にできるようになっています。医療技術の進歩を最前線で目撃し、実際に触れることができる。それが自己満足で終わるのではなく、誰かの命を救うことにつながるのが何にも代えがたい魅力です。実際に、研修医とロボットのシミュレーターを操作してみると、皆さん関心を示すので、そういう点で訴求力のある診療科だと思っています。だからこそ〝外科は大変だ〟という固定観念を打破しなければならない。
稲葉 先生 :具体的なことは分からないままイメージだけで大変そう、自分には無理、と思う人も多い気がします。
山本 先生 :私が所属する病院は、手術日が月・水・金の週3日で、自分の専門の手術がない日もあります。もっとたくさんの手術を毎日やっていた時期もありますが、今はこのペースが仕事のリズムとしてちょうどいいです。研究や教育、企業や市町村での講演、学会の委員会の仕事やボランティアの啓発活動など、多様な仕事をやりたいと思っているので。循環器内科の魅力はいかがでしょうか。
後藤 先生 :魅力はやはり、生きる死ぬに直結する重要な臓器である心臓を扱うため、内科外科問わず多くの先生から頼ってもらえるところです。また、「もう無理かも」と思ったところからリカバリーし、社会復帰するところまで見守る中で、患者さんと大きな喜びを共有できる、そんなやりがいもあります。循環器内科としての今後の課題は、心疾患の再発をどう防ぐか、社会全体として増加が見込まれる心不全をどうコントロールしていくかです。社会の大きな問題と向き合えるのが循環器内科の魅力です。

稲葉 先生 :産婦人科は、まず何より赤ちゃんの誕生に携われる唯一の診療科としての魅力があり、妊娠を希望する方の願いをかなえることもでき、がんを治療することもできる。子宮頸がんについては、予防するHPVワクチンがあることを伝えていくのも大事な仕事と考え、私のライフワークになっています。産婦人科は通いづらいイメージが根強くあり、通院すべき人に医療が届いておらず、生理痛をがまんしてQOLを下げている女性が少なくありません。市民に啓発して受診につなげることで、女性のつらい症状を良くしたい、そして希望の人生を送ることを応援したい、それが私のやりがいであり、開業をした理由です。虫歯ができたら歯医者に行くのと同じくらい、産婦人科への通院が当たり前の世の中にしていきたいです。
※ドクターズマガジン2024年12月号に掲載されました。
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