記事・インタビュー
希望する働き方・生き方を考えたうえでの医局選び
山本 先生 :医療はチームワークなので、働き方についてもチーム全体の意識合わせと協力が必須です。自分がどんな働き方をしたいかを医局に意思表示をして、それが受け入れられるかどうかでしょうか。
稲葉 先生 :そうですね。その時、医局への伝え方に工夫も必要だと思います。「これはできません」ではなく、「こういう経験を積んで、こんなキャリアを歩みたい、そして今はこういう条件であれば勤務が可能です」とネゴシエーションするみたいな。もしどうしても自身の生活状況と勤務先の働き方が合わなければ、医局を辞める選択肢もあります。究極的に言えば、医局に所属しなくても医師の仕事はできるので働くこと自体を諦めないでほしいと思います。
山本 先生 :医局のカラーもそれぞれ異なりますし、専門科によっても違う。医局員の人数が多ければ希望はかないやすいですが、全てがそうとは限らないですよね。
後藤 先生 :医局の話はすごく興味深いです。というのも、私は7年目まで医局に入っていなくて。初期研修を常滑市民病院で終えた後、そのまま後期レジデントも同院で行い、医局に入るタイミングを失ったとも言えますが、今思えば型にはめられたキャリアを歩むことへの抵抗だったようにも思います。実は医師5年目の1年間、プロバスケットボールチームで選手としてプレーしていたんです。
稲葉 先生 :えっ? 仕事を休んでではなく、両立ですか?
後藤 先生 :そうです、医師とバスケットを並行してやっていました。病院勤務が終わってから夕方に体育館に行き、練習が終わったらまた病院に戻るという生活で。その時にある企業から、産業医として働きながらバスケットをやらないかというお誘いがあり、心が動いたのですが、当時のメンターの先生が医師とバスケットの二足のわらじを応援してくださっていたこともあって、病院で働き続けることに決めました。プロバスケットを辞めた後は別の病院に移り医者一本で働いていましたが、ある教授が私のことを経歴も含めておもしろがってくれて「うちの医局に来たかったら、いつでも歓迎する」と言ってくださったんです。それで、今に至るという感じです。ですので、私の場合は、偶然の縁に導かれての医局選びでしたね。
山本 先生 :そういう、いい縁に恵まれることもあるのですね。
稲葉 先生 :卒後すぐに入局しなくてもいいのですもんね。私はなるべく早く大学院に進みたいと思っていたので、初期研修後に入局という選択肢になりましたけど。
山本 先生 :私は母校の医局にそのまま入りましたが、稲葉先生は京大卒業後、東大の医局に行かれましたよね。
稲葉 先生 :本当は京都に残りたかったのだけど、会社員の夫の就職先が東京に決まって。医師のほうが場所を選ばず仕事ができると思ったので東京に移ることにしました。医局選びに際しては、研究内容に興味があった2つの医局を見学して、最後は医局の雰囲気で決めました。東大の付かず離れずのちょうどいい距離感が居心地よく感じて。
後藤 先生 :私の中で医局選びは、バスケットのヘッドコーチとチームを選ぶ感覚と同じでした。自分はプレーヤーとしてコーチに何を求められているか。そしてこのチームならやりたいことができるかどうかを見極めることが重要だと思います。
山本 先生 :一口に医局と言っても、雰囲気も研究内容もそれぞれ違う。理想の医師人生を送るために、どの医局でどんな技術を身に付けて、どのような医師像を目指すかを考えるということですよね。私の場合は、初期研修を神戸市立医療センター中央市民病院で行いたいと思っており、ちょうど母校の京大の関連病院だったので、京大に入局しました。でも後藤先生のように、もし他に決定的な出会いがあったら、別の医局に入っていたかもしれないです。
稲葉 先生 :時代も変わってきて、入局も必須じゃなくなっていますよね。自分の行きたい病院で働くことも可能ですし。
山本 先生 :行きたい病院があっても、その病院の人事権が大学の医局だったりするとアプライしても行けないことはありますが、募集があれば外から入ることもできるので、昔より自由度は上がっていますよね。
※ドクターズマガジン2024年12月号に掲載されました。
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