記事・インタビュー

2024.12.13

手術から創薬へ:製薬企業で臨床経験を生かすやりがい

案件番号:24-C011 医療機関名:ヒューマンダイナミックス

手術から創薬へ:製薬企業で臨床経験を生かすやりがい左から、株式会社ヒューマンダイナミックス 堤 康行さん、田中 智子先生

約20年もの間、多くの医師たちのキャリアチェンジを支援し、製薬企業やCROへの紹介を行ってきたヒューマンダイナミクス社。今回は、小児外科の臨床現場から製薬会社に転職後、クリニカルサイエンスの仕事に従事する田中医師に取材をし、転職の理由や仕事のやりがい、力を入れている取り組みなどについてお話を伺いました。

<今回お話を伺った方>

田中智子先生

田中 智子(たなか ともこ)先生

京都府立医科大学医学部医学科卒業後、京都府立医科大学附属病院などで消化器外科および小児外科医として勤務。また、京都府立医科大学大学院へ入学し分子標的薬を用いた小児がんの基礎研究に従事し、医学博士を取得。大学院終了後は、名古屋大学やあいち小児保健医療総合センターなどで小児外科医療に携ったのち、医薬品開発の重要性を認識したこともあり武田薬品工業株式会社に入社する(日本開発センター所属)。現在は、小児も含め、消化器および炎症性疾患を対象にした臨床試験の立案や実施を担当している。

Q:現在、担当しているお仕事の内容を教えてください。

田中智子先生

 田中 先生 

現在は、武田薬品の「日本開発センター」でクリニカルサイエンスの仕事をしています。クリニカルサイエンスは主に、医学知識をもとに新薬の開発全体の計画や臨床試験の試験実施計画書(プロトコール)のデザインを検討する業務です。治験の早い段階で医学専門家のKOL(キーオピニオンリーダー)に相談し、意見を確認することも欠かせません。PMDA(医薬品医療機器総合機構)との治験相談などへの対応も重要な役割で、試験デザインや臨床パッケージの妥当性を確認し、開発計画や試験デザインを確定します。臨床試験の成績が得られたら有効性、安全性や薬剤のリスクベネフィットバランスを検討して、PMDAに承認申請を行う流れです。

治験責任医師などに試験デザインの説明をしたり、問い合わせの回答を用意したりもしますが、治験実施施設への訪問やモニタリングは、主にCRO(医薬品開発業務受託機関)が担当しています。

Q:先生はなぜ、臨床医から製薬会社での勤務を選ばれたのでしょうか?

 田中 先生 

医大生だった頃、小児外科の授業で臍帯ヘルニアや横隔膜ヘルニアといった手術なしには生きられない病気をもって生まれる子供がいることを知りました。手術でしか治療できない一方で、手術すれば何十年も生きていける可能性に魅力を感じて小児外科医になりました。手術で元気に帰っていく患者さんの姿には大きなやりがいを感じていましたが、手術では救えない患者さんも多く、また命は助かっても普通の暮らしが難しくて苦しむ患者さんもおられて、無力感を感じることもありました。そんななかで、内科的治療に目を向けてみると学生時代には治らないと習った病気にも次々に治療薬が出てきており、その飛躍的な進歩に興味を持ちました。手術はマクロな治療である一方、薬剤はミクロな治療であり、薬剤によって手術では届かないアプローチができるのではないかと考えたのが、製薬会社に転職したきっかけのひとつです。

Q:臨床開発業務に、どのような魅力ややりがいを感じていますか?

田中智子先生と堤康行さんのインタビュー

 田中 先生 

かつて私自身が診ていた患者さんのような方々に届くことを思いながら薬剤を開発できることだと思います。自分が患者さんを直接治療するわけではありませんが、自分が担当した薬剤について、かつての同僚から実際に患者さんに使用された感想を聞くこともあり、開発した薬剤が全国あるいは全世界の患者さんのところに届くことには大きなやりがいを感じます。

また、会社では医師は少数派ですので、臨床経験を踏まえて医師としての視点で意見を言うことも大切だと思っていて、開発中の薬剤がいずれ世に出たときにどのように使われるのかをイメージしたうえで開発に取り組めることもやりがいのひとつです。

そうした意味では、臨床の感覚は保っておきたいという気持ちがあり、上司に相談して、今は週に1回手術の手伝いに行っています。普段はほとんど在宅勤務で、手術の前日に出社して仕事が終わったら病院へ行って泊り、翌日は会社の仕事はお休みして丸一日手術に入らせていただく、という働き方を続けています。同僚たちも手術日は会議を入れないようにするなど配慮してくれて、本当にありがたいです。こうしたフレキシブルな働き方が出来ることや、それを応援してくれる同僚に恵まれていることも武田薬品ならではと思います。

Q:担当プロジェクトに関する専門知識以外に、製薬会社での勤務で必要とされる知識やスキルには、どのようなものがありますか?

 田中 先生 

製薬会社での勤務には、医学的な知識に加えてGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)や会社のSOP(標準業務手順書)などのルールの理解が重要になります。これらは臨床現場では学ぶ機会がなく、内容はおろか名称さえも知らなかったので、入社後に勉強しました。今でも勉強中です。

また、製薬会社では異なる専門知識を持つ人々と協力しながら意思決定を行うことも必要です。全員が納得できる方針を見つけるためのコミュニケーション能力や調整力も欠かせません。病院では、医師の判断で治療方針を決定することが普通でしたので、意思決定のプロセスなど会議の進め方に戸惑うこともありますが、その都度なるべく多くの方の意見を聞いたり、会議とは別に専門的な知識について担当の方に教えていただいたりしながら進めています。

さらに、武田薬品は内資系企業ではありますが、グローバル開発が中心で海外の担当者と会議をしたり英語を使う機会も多いので、英語力も必須だと思います。

Q:それらを習得するために、どのような研修やトレーニング制度がありますか?

田中智子先生

 田中 先生 

SOPやGCPに関する知識は、ウェブのトレーニングツールが用意されており、空いた時間に自分のペースで学習することができます。でも、実際にはウェブでのトレーニングだけで理解を深めることは難しく、経験しながら、時には失敗もしてスキルを磨いていくことが多いです。私は武田薬品に入社するまではずっと病院で臨床か研究をしていたので、入社時には製薬の経験はゼロだったわけですが、周りの方たちは経験豊富で、幸いなことに相談しやすい方々ばかりなので、躓くことがあればいつも解決策を一緒に考えてくれます。コミュニケーションスキル、ピープルマネジメント等もウェブトレーニングが用意されていますし、希望によっては集中的なコースへ参加することも可能です。

英語のプレゼンについてはほとんどがサイエンスベースの話なので、臨床時代に学会発表や論文で学んだ医学英語も役に立っていると感じます。また、トレーニングとは違うかもしれませんが、私の部門では、日頃から日本と海外の垣根を低くしておくことで業務上のやりとりもスムーズに進められるよう、海外のメンバーとの定期的な1on1も取り入れられており、より意思疎通しやすい関係づくりができる環境が整っていると思います。

Q:社内公募にて海外勤務のポジションにも応募できる制度があると聞いていますが、先生はどんなキャリアプランを考えていますか?

 田中 先生 

はい、社内の他部門や海外のポジションに応募できる制度があります。私自身は、まだクリニカルサイエンスのスキルを磨いて成長したいという思いが強く、現時点では他部門への応募は考えていません。でも、いずれ、別の働き方や部門でのキャリアを考えるようになるかもしれません。実際、同僚が新しいポジションに挑戦している姿を見て、そういった選択肢があることには魅力を感じていますし、自分で自分のキャリアについて考えて望む方向に進めていけるということ自体、素晴らしいことだなと思います。

上司は、日本にとどまらず海外の部門で働くことにもサポーティブで、社内外の会議等での海外出張もありますし、弊社の開発拠点のひとつであるボストンへの短期アサインメントなども勧めてくださるので、タイミングが合えば挑戦したいと思っています。キャリアプランを考える際は、いつでも上司とも相談できますし、周りの方のキャリアの進め方を見たり聞いたりするのもいつも新鮮です。

Q:臨床開発部門での仕事の他に、小児外科医としてのバックグラウンドからの取り組みもされていると。どのような背景からこの活動に取り組むようになったのですか?

 田中 先生 

小児外科医として10年以上勤務するなかで、子どもたちの検査や処置の難しさやご家族の負担など、小児医療の大変さを実感してきました。成人医療とは大きく異なるところだと思います。また、使える薬剤も成人と比べて限られていましたので、今のように薬剤を開発する側として小児医療に関われることはとても幸せなことです。ですが、臨床と薬剤開発とでは、同じようにより良い医療環境の構築を目指してはいても、その進め方には少しギャップがあることも一方で感じます。もちろん薬剤開発は厳格な規制下で行われますので厳密な管理が必須であることは理解していますが、臨床で感じていた小児医療の難しさや小児特有のご本人やご家族の負担の大きさを企業へも伝えていきたいなと考えています。そこで、まずはほとんどの治験で頻繁に行われる検査のなかの血液検査について取り組みを始めました。治験では、有効性や安全性の確認、また薬物血中動態の把握などのために血液検査を行います。薬剤のプロファイルを正しく知るためには、臨床で治療方針を決めるための採血量や回数よりも多くが必要となることもしばしばです。血液検査から得られる所見は治験のなかでも大切なデータですので、適切なデータをとることは担保しつつ、患者さんの負担も減らしていきたいと考えています。

Q:その課題解決のために、具体的にはどのような検討や働きかけをされていますか?

 田中 先生 

まずは、実際の小児採血の大変さを同僚に知ってもらうことから始めました。小さなお子さんでは成人の採血とは採血方法も違いますので、採血の動画を見てもらったり、採血に伴う問題点をお話したりすることで、「こんなに大変だったとは知らなかった」と言って取り組みを応援してくださる方が増えてきました。今は、そのなかでも有志で一緒に取り組んでくださる方とグループで活動しています。こういう患者さんのための取り組みをサポートしてくれることも、武田薬品の好きなところです。社内向けには、試験デザインを計画するときに採血の回数や量を減らすためにとりうる方法をまとめて公開しました。実際に小児治験を担当した方たちからもアイデアを募ったのですが、臨床時代には知らなかったアイデアも出てきたりして、私自身も勉強になることがありました。また、試験デザイン作成者の採血量や頻度を減らす意識を高めるために、試験デザインを計画する際のチェックリストにも採血に関する項目を追加しました。ほかにもいくつか取り組んでいることがありますが、小児用医薬品の開発促進については国としても施策がとられているところですので、製薬業界全体にも波及させていけたら嬉しいなと考えています。

Q:製薬会社での勤務を考えられている臨床医や医学生の方々に、一言コメントをお願いします。

 堤康行さんと田中智子先生

 田中 先生 

医学部に入ると、将来は病院で働くと決まっているように感じる方が多いのではないでしょうか。私自身、臨床医として働くことに疑いをもつことなく働きはじめ、自分のキャリアについて深く考えることは少なかったように思います。企業に転職して初めて医師のキャリアには多くの選択肢があることに気づきました。私は開発部門にいますが、基礎研究やビジネス部門など、社内の様々な部門で医師が活躍しています。
製薬企業での仕事では、目の前の患者さんを直接治療することはできません。ですが、自分が関わった薬剤が多くの患者さんの治療に貢献できる可能性があるという大きな魅力があります。グローバルで活躍できる機会も多く、海外とのやりとりや出張などを通じて、国際的な視野を広げることもできます。企業への転職でキャリアの選択肢が広がることで、ご自分の可能性に気づくことができるはずです。

<インタビュアー>

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堤 康行(つつみ・やすゆき)
株式会社ヒューマンダイナミックス
代表取締役社長

 

ノバルティス、イーライリリーおよびCROのパレクセルで、主に臨床開発とメディカルアフェアーズ部門に所属し、約30年間にわたり各部門の企業医師と業務を共にする。製薬企業およびCROでの業務内容のみならず、近年の製薬企業動向や雇用条件も含めたクローズ情報に精通。その確かな経験と豊富な情報をもとに、製薬業界への医師転職サポートを行う。

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