記事・インタビュー
はじめに
今回は、民間医局「医療の“あったらいいな”デザイン工房」が紡ぐ開発ストーリーの第5弾。いつも多くの方にご覧頂き、また読後アンケートから沢山ご意見も頂き、有難うございます。
さて今回は、話題の「生成AI」を取上げます。ちなみに今年6月の調査によれば、医師の凡そ2割しか生成AIを継続利用していないそうですね。(2024/07/23 ケアネット記事) そこで、ここではデザイン工房らしく、医工連携に役立つように…と特別に開発されたAIをご紹介しますので、工房をより深く楽しむツールとして使いこなして頂ければ幸いです。申し遅れました。私、事業開発(新企画)の金井真澄と言います。
そんな趣旨で今回は、「生成AI」をテーマに皆様と考えてゆければ……と思い、「発想AI」という製品を取上げます。お話を伺うのは、医工連携に長く携わって来られた柏野 聡彦様と、ユーザー代表として(第2弾にご登場頂いた)株式会社マイクロンをお招きしました。
柏野 聡彦様
インタビュー
<< 開発の経緯 >>
金井 :では柏野さん、まずこの「発想AI」を開発するに至った経緯を教えて下さい。
柏野さん :私は長く医工連携に関わってきました。その中で、全国の多くの企業から聞かれる声は「自社も医療に貢献したい。しかし、自社技術をどう活用すればよいのかが分からない」というものです。そもそも自社技術の活用イメージが湧かないと最初の一歩を踏み出しにくいのです。医療分野に参入しようとする企業の多くが抱える悩みといえます。
金井 :なるほど。医療は敷居が高いと感じて敬遠する企業もありそうです。それはもったいないですね。
柏野さん :はい、おっしゃるとおりです。そこで、そうした企業に対しては「自社技術の活用イメージの調べ方」をお伝えしてきたのですが、生成AIが登場したときに、自社技術のキーワードを入力すれば医療分野での使いどころを教えてくれるAIがあったら便利と考えて、「技術の使いどころ発想AI」を開発し、リリースしました。
金井 :なるほど。自社技術から医療分野での活用イメージを発想しやすくなるのは助かりますね。一方、医療機器の開発では医療現場のニーズから発想することが重要といわれていますね。
柏野さん :はい。医療機器の開発は先生方の臨床ニーズからスタートします。私たちも臨床ニーズマッチング会等を通じて1,000件を超えるニーズに携わらせていただきました。「臨床ニーズ」というのは、現在の医療現場が抱える問題点や限界など、ひらたくいえば「臨床現場の困りごと」の情報です。ここで問題になることは、臨床ニーズの情報は必ずしも技術的なキーワードを含んでいないということです。技術者にとっては開発のイメージが湧きにくいのです。
金井 :マッチングをするためには企業側が臨床ニーズを理解できないといけないわけですが、医療者と企業とをつなぐ共通言語がないということですね。
柏野さん :まさにそのとおりです。このコミュニケーションギャップを何とかせねば!…と思いました。そこで、臨床ニーズのキーワードを入力したらどんな開発をしたらよいかを提示してくれる「コンセプト発想AI」をつくったのです。
金井 :臨床ニーズの情報から「開発すべき製品のイメージ」や「自社技術とのかかわり」を発想しやすくなるということは、企業にとっては非常に助かりますね。発表された先生にとっても助けになりそうですね。
柏野さん :ありがとうございます。
金井 :ちなみに、この記事の冒頭でもご紹介した通り、医療における生成AIの活用はまだ進んでいないようなのですが、その理由はどんなことだと思いますか。
柏野さん :理由は大きく3つあると考えています。すなわち、1)AIを使える場面が分からない、2)AIとの対話の仕方が分からない、3)使い始めるきっかけがないという理由です。
金井 :それぞれ簡単に教えて頂けますか。
柏野さん :はい。まず、1)については、医工連携における生成AIの使用場面として「自社技術の使いどころを検討する」、「臨床ニーズから開発コンセプトを検討する」という2つの場面を提案し、それぞれの使用場面に特化したAIを開発しました。「技術の使いどころ発想AI」と「コンセプト発想AI」です。
2)については、AIとの対話の仕方を知らなくても使えるように「対話フリー」なAIを開発しました。
そして3)については、全国でセミナーやワークショップを開催することで「きっかけづくり」をしています。「しっかり使うきっかけ」があることは非常に重要です。
今回は、民間医局の「工房」とコラボさせていただいて、多くの医療者や企業の皆さまのきっかけづくりができたらと考えています。この記事を読み進めていただき、読後にアンケートで「デモ希望」とご回答いただけますと幸いです。
金井 :特に「対話フリーなAI」という点について、もう少し詳しく教えて頂けますか。
柏野さん :多くの生成AIでは対話型が強調されています。対話型ということは、良い回答を得るには良い質問をしないといけない。要は「質問力」が問われ、それなりのハードルがあるわけです。そこで、そのハードルをできるだけ下げられるよう、対話をしなくてもよい「対話フリー」をめざして設計しました。技術や臨床ニーズを簡単な表現で入力するだけで、大量の関連情報が整理されたヒントが一気に手に入るという仕組みになっています。
<< 発想AIの使い方 >>
金井 :では今日は、医師が臨床ニーズを入れて使う想定で「コンセプト発想AI」について、深く伺いたいと思います。まずこれはどうやって使うのでしょう(※スマホでもPCでも)。
柏野さん :まずカンファレンスパーク(https://cpk.jp/)からコンセプトAIに入って頂き、「ニーズ追加」ボタンからニーズを簡単に入力します(※BASICは無償でご利用可能)。
柏野さん :例えば、以下のようなニーズを入力したとしましょう。最初は簡単な記述で構いません。
柏野さん :そうするとまず、最上部にこのような「関連データ表示ボタン」が表示されて、各ボタンを押せば、関連する【検索結果・画像・データ・報告書・論文】を閲覧できます。AIを使う大前提として知っておいて頂きたいのは、「AIがくれるのは答えでなくヒント」であること。だからこうした機能でファクトチェックを行うことがとても重要です。ちなみに発想AIはGoogleのGeminiをベースにしていますので、世界の信頼おけるデータを検索できますし、常にアップデートされた情報を入手することができます。
柏野さん :その下にニーズの「背景と問題点」が表示されます。これはご専門の領域であればご存じのことばかりかもしれませんが、短時間で文書としてまとめられるわけですので、時間と労力を節約できるという意味があります。専門外の領域の場合にはさらに有用かと思われます。
柏野さん :そして次の「達成すべき課題」あたりから、先生方には馴染みが薄いかもしれない技術のキーワードが出てきます。さらに下の「ソリューション(機能・構造・外観・デザイン・使い方)」や、その開発に求められる「要素技術」等に含まれるキーワードを使うことで技術者との対話のギャップを減らし、先生のニーズをよりいっそう的確に企業に伝えられると期待されます。
柏野さん :ちなみに最近リリースした機能で、この「ソリューションの機能・構造」にイメージを付加できるようになりました。可視化できると発想がさらに膨らみますよね。
柏野さん :これは「イメージ発想機能」と呼んでいて、使い方はこんな感じです(動画でご覧下さい)。
◆コンセプト発想AIで「高齢者の薬の飲み忘れを防止するシステム」を出力させた結果
https://x.com/KashinoToshi/status/1848033473350746407
◆コンセプト発想AIで「パン職人の職業性喘息を予防したい」というニーズをいれてみた
https://x.com/KashinoToshi/status/1848044075305615708
柏野さん :また臨床ニーズに基づく発明の発明者として、先生が「特許取得」することもあり得ますので、その可能性もいくつか、このように概略を迅速に示してくれます。
柏野さん :さらに先生方の関心事として「学術的価値が高い研究課題」についても、こうしていくつかの案を示してくれますので、論文テーマの候補として参考にしていただけるのではないかと考えています。
柏野さん :この他にも、先生がご自身で開発を主導されるのであれば、「ユーザーと収益モデル」「ステークホルダーへのプレゼン案」など、ビジネスづくりのための情報も表示されますので、ご活用いただけるかと思っております。
金井 :なるほど。あの僅かな入力で、ここまで詳細かつ整った情報が出力されるのですね!世間では、生成AIへと指示を出す手法(プロンプト)の専門家が多々生まれていますが、「発想AI」には、柏野さんが長年培ったご経験を予め組み込んでいるから、先生方は特に意識せずに使えるということですか。
柏野さん :その通りです。「対話型」のインタフェースでここまで整った情報を出すのは至難のわざだと思います。それが数十秒でできてしまうので、ぜひ多くの先生方にご活用いただき、先生方がおもちの「臨床現場の困りごとの情報(医療機器等の開発ニーズ)」を、できるだけ労力をかけずにスムーズに技術者にお伝えいただけたら…と考えています。
金井 :そうですね。「デザイン工房」には、先生方から多くの“あったらいいな”が寄せられていますので、私が(それを深める壁打ちの壁役として)既に利用しています。加えて先生方ご自身にもお使い頂けたら、もっと多くの“あったらいいな”に気付けるかもしれませんね。
<< ユーザーの視点 >>
金井 :ではここで、実際に業務上で「コンセプト発想AI」を多用しておられる、㈱マイクロンの視点も伺ってみたいと思います。普段は、どういう使い方をされているのですか。
(㈱マイクロンの詳細は、医療機器の開発ストーリー②「医療機器プログラム(SaMD)」をご参照)
マイクロン :私たちは、海外で承認されている医療機器プログラムを日本に導入する支援を行っています。薬事申請支援はもちろん、医療機器業界との懸け橋となるINDICATEプログラム(https://microncro.com/archives/works/indicate/)も提供しています。INDICATEプログラムでは、その製品に関係する日本の状況を把握するために、ニーズ起点で網羅的に整理できる「コンセプト発想AI」を利用しています。この「コンセプト発想AI」により、これまで半日以上かけていた予備調査があっという間に完了します。AIにより多角的な視点で調査され、そこから深堀する項目が選び取ることができるため、調査時間が短縮され大変重宝しています。
金井 :使っていて、特に便利だと思う機能を教えて頂けますか。
マイクロン :最上部の「関連データ表示ボタン」から、論文を参照できるのが便利ですね。普通に探すと膨大な時間を要するので助かっています。あとは「ニーズ調査方法」もよく参考にしています。医師にインタビューする際の項目として、とても上手く纏まっていると思います。
金井 :確かにそうですね。「デザイン工房」でも企業から依頼され先生方へインタビューを行っていますので、参考にしてみようと思いました。また、先生方がそうした機会の事前準備をする際にもご活用できそうです。逆に気になる点等あれば、折角の機会ですからどうぞ。
マイクロン :情報漏洩に関するセキュリティー面の確認で、入力情報がAIの学習に使われたりしますか。
柏野さん :いえ、その点については「入力した情報はAIの学習に使わない」という有償契約をGoogleと結んでいますので、安心してお使いいただければと思います。
マイクロン :良かったです。もう一つ「更新」ボタンについて伺いたいのですが、これを押すと全く別の回答が得られるのですか。前の回答と重複があるかどうかを確認したいです。
柏野さん :「更新」は「少し違った視点から整理しなおす」ボタンですので、重複はあります。より自分が“理解しやすいまとめ方“に整えるボタンとして、ご活用いただければと思います。
<< 発想AIの現状と今後 >>
金井 :本当に「わずかな入力で大きなヒントを得られる」ようになっていますね。ここで得たヒントが、専門家である先生方の知見と結びつけば、私が取組む「デザイン工房」の大きな推進力となってくれる気がします。最後に「発想AI」は、どの位使われているのですか。
柏野さん :まだリリースしたばかりですが、早速、多くの方に使っていただいています。ただ改善できる点も多いかと思いますので、ぜひこれを機に先生方にもまずはお使いいただき、ご要望や改善点などをアンケートからご教示いただけますと、とても助かります。
柏野さん :もう一つ参考情報をご案内させてください。浜松医科大学において令和6年4月1日、産学官連携実施法人の、株式会社はままつ共創リエゾン奏(かなで)が設立されました。国立大学として初めて学内組織の産学連携部門を廃止して外部法人化された画期的な法人であり、わが国の医工連携の重要拠点となるものです。その設立記念祝賀会がつい先日(2024/9/27)ありまして、その記念講演として「【医工連携×発想AI】医療ヘルスケア分野の開発コンセプトの構築に発想AIをどう活かすか?」と題した講演をさせていただく機会をいただきました。私どものコンセプト発想AIを先生方の研究活動シーンでさまざまにお使いいただけると嬉しく思います。
◆浜松医科大学産学官連携実施法人「株式会社はままつ共創リエゾン奏(かなで)」 設立記念祝賀会を行いました|国立大学法人 浜松医科大学 (hama-med.ac.jp)
https://www.hama-med.ac.jp/topics/2024/30260.html
以上いかがでしたか? 先生方が臨床の現場で、“あったらいいな”を考える際の“良き相棒”になってくれそうな気がします。さて民間医局「医療の“あったらいいな”デザイン工房」では、この記事を読んだ感想やご意見等をお寄せ頂きたいと思いますので、ぜひ以下のアンケートにお答えください。
尚、ご回答頂いた先生は「デザイン工房のパートナー医師」と認識させて頂き、今後、先生方の臨床課題に関心ある企業から、私が受託する(謝礼付き)調査・共同開発等を、次々と打診させて頂こうと思いますので、どうかお楽しみに!
メディカル・プリンシプル社 事業開発 金井真澄
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