記事・インタビュー
近年、エボラ出血熱やMERS、ジカウイルスなどの危険な感染症が世界で流行し、日本でもこうした脅威に対し、更なる感染症対策が必要になりました。
日本の感染症対策の現状や、国内初のBSL-4に指定された「国立感染症研究所」についてご紹介します。
国立感染症研究所BSL-4指定までの経緯と感染症対策の現状
バイオセーフティーレベル(BSL)とは
感染症の研究をするための研究所には、そこで扱うことのできる病原菌に応じて「バイオセーフティーレベル(BSL)」と呼ばれる格付けがされています。
「バイオセーフティーレベル」には4段階あり、「レベル1」は病気を起こす可能性が低い微生物など。「レベル2」は重篤な事態には至らないものの、感染を引き起こすインフルエンザウイルスなど。「レベル」3は重篤な感染を引き起こすが、人から人へは伝染せず、治療法も確立された狂犬病ウイルスなど。そして「レベル4」は、生死にかかわる重篤な事態となり、人から人へ感染し、治療法や予防法が確立されていないエボラウイルスなどです。
この「バイオセーフティーレベル」は世界共通で、研究や実験にはそれぞれのレベルに応じた設備が必要となります。
日本のBSL-3とBSL-4の実験施設
日本で現在、封じ込め実験室となるBSL-3に対応している施設は、全国に12か所(うち1か所は運用停止中)あります。
最高度の安全実験施設であるBSL-4に対応している施設は、東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所・村山庁舎と、茨城県つくば市にある理化学研究所・筑波研究所の2か所です。
国立感染症研究所がBSL-4施設に指定された経緯
実は国立感染症研究所のBSL-4への運用が許可されたのは2015年8月7日と、つい最近のことです。それ以前は現在の理化学研究所と同じく、設備は整っているものの、BSL-4としての運用は停止されており、BSL-3での運用をしていた施設でした。
BSL-4施設の整備は1981年のことで、既に30年以上が経過しています。しかし、安全面を不安視する近隣住民からの反対により、国立感染症研究所のBSL-4での稼働は実質不可能という現状でした。
BSL-4での運用問題に直面するようになった契機は、2014年のギニアなど西アフリカで発生したエボラ出血熱の感染拡大です。世界では19か国、計40か所以上のBSL-4施設がある中、日本は、G7の中では唯一BSL-4で稼働施設がないという状況でした。
世界中がパンデミックの脅威にさらされる中、感染症対策で後れを取っていた日本にとって、BSL-4施設稼働が緊急の課題となったのです。
市民の中からも、感染症発生時の対処の遅れを心配する声や、予防策や治療法のない病原菌の研究が急務であるとの意見が出てきました。そのような状況から、安全対策に不安の声は残るものの、近隣市民の合意形成が図られました。
そして、2015年8月7日、国立感染症研究所がBSL-4施設として、ようやく国内初の指定を受けたのです。
感染症研究体制推進プロジェクト
2016年現在、感染症研究体制推進プロジェクトとして、長崎大学へBSL-4を設置するための協議が行われています。
長崎大学のBSL-4施設は、長崎大学・東京大学・大阪大学・慶應義塾大学・東京医科歯科大学・神戸大学・九州大学・北海道大学・東北大学の9大学の感染症共同研究拠点となる予定です。
また、BSL-4施設として指定されれば、全国の感染症研究者にも施設を開放し、共同研究を公募するなど、広く門戸を開くそうです。
BSL-4施設の設置には、地域社会からの受容が大きな課題となります。現在は感染症に関する公開講座や、住民説明会などを行い、地域の理解を得ようとしており、行政や長崎の議会とも協議を図っています。
BSL-4の安全対策問題
日本は地震や台風などの自然災害が多い国です。昨今は自然災害に加え、テロの脅威もささやかれています。
BSL-4施設の設置には、ヒューマンエラーはもちろんのこと、このような不測の事態に備えた安全対策が欠かせません。安全対策として、世界最高水準となる安全性確保の予算や、国との協力体制、感染症法に基づいた適切な指導や監督を行う人材確保などが必要となります。
新しいBSL-4施設の設置実現にはまだ多くの課題があるのが現状です。
海外で頻繁に起こるようになった未知のウイルスによる感染症。パンデミックの脅威は日本も例外ではありません。
2015年にようやく国立感染症研究所のBSL-4施設が運用できるようになり、現在新たなBSL-4施設設置も協議されている日本は、ようやく先進国の水準に追いついてきたと言えるでしょう。
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