記事・インタビュー

2024.07.25

医療機器の開発ストーリー②「医療機器プログラム(SaMD)」

案件番号:24-AX003 施設・自治体名称:株式会社マイクロン

はじめに

民間医局の新企画「医療の“あったらいいな”デザイン工房」では、会員医師の皆さまが臨床現場で感じる“あったらいいな”をお聞かせ頂き、企業がその実現へ第一歩を踏み出し易いように、当社が知財や競合状況などを調査して、3者で効率的に事業性の検証を進めています。そして先日、この取組みをさらに加速させる為に、医療機器プログラム(SaMD)の開発支援で多くの実績を持つ株式会社マイクロン(https://micron-kobe.com/)と協業し(※)、医師主導で医療の質を高めるSaMD(Software as a Medical Device)の開発を促進させるプラットフォームを、共同で立ち上げることになりました。

※ニュースリリース:
https://www.cri.co.jp/news/005158.html

そこで今回この場を借りて、SaMD開発に成功した先駆者の経験をご紹介するだけでなく、これからSaMD開発に取組もうとしている先生方や、こんなSaMDがあったらいいな…と悶々とされている先生方の想いとも照らし合わせ、「今、SaMD開発に何が必要なのか?」を浮き彫りにできればと考えています。申し遅れました。私は民間医局で事業開発を担う、金井真澄と申します。

さて本日、そんな趣旨でお話を伺うのは、北海道大学大学院医学研究院の放射線科学分野で、画像診断学教室を率いる工藤與亮(こうすけ)教授です。先生が開発した自作プログラム「PMA」で株式会社マイクロンと協働し、医療機器認証を取得して上市、そしてそれがその後の開発にどう繋がったのか?…という一連のストーリーを、紐解いてゆければと考えています。なお本日は話を深める為、製造販売のパートナーでもある株式会社マイクロンにご同席をお願いしています。

工藤 與亮 教授

1995年 北海道大学 医学部医学科 卒業
2008年~2011年 岩手医科大学 先端医療研究センター 講師
2013年~2019年 北海道大学病院 放射線部 准教授、放射線診断科長
2019年~現在 同大学大学院 医学研究院 放射線科学分野 画像診断学教室 教授

インタビュー

 金井 :では工藤先生、まずは開発された「PMA(Perfusion Mismatch Analyzer)」についてお聞きします。これはどんな機能を持つプログラムなのでしょうか。

 工藤教授 :これは急性期脳梗塞における脳血流の自動解析プログラムで、血管内治療(機械的血栓回収療法)の適応患者の選択支援にも使用できます。MRIの灌流画像(毛細血管の組織血流)と拡散強調画像(水分子の拡散運動)の異常領域を比較し分析評価するプログラムで、具体的には虚血ペナンブラ(可逆的虚血で救済可能な領域)と虚血コア(不可逆的梗塞で救済不可)の領域をカラーで示すことができます。

 金井 :この開発に至った臨床課題を教えて下さい。どんなきっかけで開発を始めたのですか。

 工藤教授 :開発を開始した当時(2000年前後)からCTやMRIによる脳血流解析の原理は確立されていたのですが、各機器メーカーの解析ソフトで同じ画像を解析しても違う結果が出ていたのです。私は元々、医学部学生時代から趣味でプログラミングには取組んでいたので、それを自作のプログラムで検証を始めたのが最初でした。だから何か喫緊の臨床課題に迫られて行動したというより、好奇心とそれを満たす喜びが原動力だったと思います。放射線科医とプログラマーですので、今で言う“二刀流”ですね。

 金井 :確かに!ちなみにこれを開発されたことは、その後の研究にも活きていますか。

 工藤教授 :そうですね。元々DICOM画像を様々に分析したかったのですが、当時はDICOM画像の読み込みすら大変だったので、ライブラリーを自作しました。これがPMA開発にも活きましたし、17O標識水をMRIの同位体ラベルとして用いるという別のプロジェクト(※)にも活きました。そういう意味で、教室の画像処理研究プラットフォームとして機能しています。

※北海道大学「リサーチタイムズ」記事:
https://www.hokudai.ac.jp/researchtimes/2021/04/1mri.html

 金井 :さて、では次に先生のPMAが、2019年に薬機法に基づく医療機器認証を取得した件について伺います。まず確認ですが、これは「承認」ではなく「認証」で、一定の基準に合致していたので治験は必要なかったということですか。

 マイクロン :はい。したがって当社との協働では、通常のCRO(開発業務受託)業務ではなく、製造販売業として医療機器認証の申請を行いました。加えて、販売のパートナーとしても機能しています。

 工藤教授 :その通りです。本当にしっかりした仕事をしてくれているので(北海道から遠いこと以外は…笑)全て満足で、信頼しています。私からも補足すると、PMAは2006年にフリーウェアとして公開して改善を重ねてきましたが、国内外で延べ2,000 人の登録ユーザさんがいらっしゃいまして、そのサポート対応に限界が来て、外部のプロにライセンスアウトしようと思い、イメージングCRO(画像解析を得意とするCRO)としてご縁のあった株式会社マイクロンにお願いしたのです。ですから今なお“絶えざる努力”を要するメンテナンスについても、とても助かっています。常に“想定しない使い方”をする人はいるもので、様々なユーザサポートや継続的なバージョンアップ、機能追加などが必要ですから。

 金井 :なるほど。では続いて先生の過去に遡ります。プログラミングは大学生時代からですか。

 工藤教授 :いえ、中学時代からですね。当時は“マイコン”と呼ばれた機種を使って、機械語やBASICから始めました。プログラムができるようになったことで、医師となった今では、医療とは別の視点を持つ複眼になれたと思いますし、プログラマーの方と話す時も、上手く伝わるようになった気がします。

 金井 :そうして実際にSaMDを開発された訳ですが、感じたハードルとその乗り越え方についてはどうお考えですか。

 工藤教授 :SaMD開発には大きく5つ、【機能を備え、それが有用で、不具合なく、結果もばらつかず、サポートも万全】であると、示さなくてはなりません。これらを全て、医師が十分にこなすことは難しいので、「信頼できるパートナー」が大事だと思います。そうした存在と上手く出会って交流し、信頼を醸成する上でも、医師がプログラムを学ぶ意義は大きいと思います。

 金井 :最後に、記事を読んでいる先生方に、メッセージをお願いします。

 工藤教授 :まず、医師にプログラミングを学んで欲しい。そうすると、今まで解決できなかった臨床課題を自分で解決できるようになりますし、企業や情報系の方々とも臨床課題解決の方法について上手く共有できるようになる。今はプログラミングもだいぶ敷居も下がっていると思うので、ぜひ挑戦してみてください。そしてそれが出来る人には、ぜひ趣味のレベルを超えて、仕事として挑戦して欲しいです。さらにはスタートアップする人が増えるといいですね。とにかく海外に負けて欲しくないのです。

 金井 :熱い言葉をありがとうございました。私もこの取材で火が点いたので、先生に教えて頂いた北大のプログラム「医療AI開発者養成プログラム(CLAP)※」に早速申込みました。1年コースで全てオンライン(しかも無料!)なので、ご興味ある方はこちらから。

※医療AI開発者養成プログラム(CLAP):https://ai.med.hokudai.ac.jp/

さて、これと照らし合わせる形で、民間医局の会員医師にもお話を伺いました。

福岡歯科大学病院の耳鼻咽喉科におられる、木村翔一先生です。先生は、医療者がプログラミングを自ら実装することで現場の課題解決を目指すプロトタイピングスクール「ものづくり医療センター(もいせん)※」で学び、SaMD開発にも興味があるとのことです。その視点からの不安や課題をお聞きしたいと思います。

※ものづくり医療センター(もいせん):https://moicen-forest.studio.site/

木村 翔一 先生

2016年 福岡大学 医学部医学科 卒業
2018年〜2023年 福岡大学病院 耳鼻咽喉科 助手
2019年~2022年 福岡大学 医学部医学研究科 病態構造系病理学専攻 博士課程
2022年 ものづくり医療センター受講
2023年~現在 福岡歯科大学 総合医学講座 耳鼻咽喉科学分野 助教

 金井 :まず、先生がプログラミングを学んだ動機は、何でしたか。

 木村先生 :過去に「もいせん」に参加されていた先生からお話を伺い、興味を持ったのがきっかけです。プログラミングに関しては全く初心者の状態で”入院”しました。(「もいせん」は病院を模しているので、入会することを”入院”、卒業を”退院”と表現しています。遊び心がありますよね。)

「もいせん」は、現場にいる医療者が「自身の直面する課題をテクノロジーで解決できるようになること」を目的に運営されている医療者向けプロトタイピングスクールです。そこで学んだ知識のおかげで、業務を効率化できるようになっただけでなく、それまで気づかなかった医療現場の課題が見えてくるようになりました。

 金井 :ある程度学んだお立場から、感じていること、そして今後の方向性など、教えてください。

 木村先生 :プログラミングを学ぶことで、これまで難しいと思っていた問題の中にも、技術的に割と簡単に解決できるものがあることに気づきました。一方で、一見単純に見える課題の中にも予想外の複雑さがあることも分かってきました。この経験から、医療現場を熟知する医師が技術的な知識も持ち合わせることで、エンジニアとより深い議論ができ、医療により大きな価値をもたらせると考えるようになりました。

 金井 :するとやはり、先生も将来的にはSaMD開発を視野に入れていると。

 木村先生 :SaMD開発は非常に興味深い分野だと考えています。ただSaMD開発に取り組むとなると、医師として「あったら便利」と思うアイデアや、プログラミングのような技術的スキルだけでなく、医療機器開発に必要なビジネス知識や規制に関する理解など、幅広い知識を身につける必要があると思います。だから民間医局に、「医療機器開発のアイデアやものづくり(プログラミング)を通して交流できる場」があったらいいな…と思いますね。

 金井 :それは魅力的なご提案です!もう少し詳しく聞かせてください。

 木村先生 :私が参加した「もいせん」では、医師が自ら実装することを目指して様々なものづくり(プログラミング)にチャレンジします。そしてプロトタイプができると、「これをどのように医療現場や市場に広めれば良いのか」というフェーズに入ります。そんな時は、もいせんメンバーや講師のエンジニアメンバーで、技術的な課題の解決だけでなく、市場性の判断や普及方法についても議論しているのです。このような場を、民間医局を通じて広げることができれば、より良い医療課題解決プロダクトが、もっと沢山生まれるようになるのではないか…と期待しています。

 金井 :とても良い案だと思います!それなら、市場性ある課題解決は企業の目に留まる一方、ニッチな課題も、それなりに解決されてゆく気がしますね。早速、検討したいと思います。

以上、いかがでしたか?「今、SaMD開発に何が必要なのか?」を浮き彫りにできたら幸いです。

ちなみに木村先生は、去る7/20に幕張メッセで行われた「日本在宅医療連合学会大会」にて、シンポジウム「AIを活用した組織運営と在宅医療領域での活用事例」で演者を務め、満員+立ち見の盛況でしたし、続く「もいせん」メンバーの運営によるワークショップ「90分でスピード開発!医療Xテクノロジーの扉を開く体験講座」も、当日予約に長蛇の列ができる程の大反響でした。まさに今、多くの医師がテクノロジーを使いこなそうとする“時代のうねり”が到来しつつあることを、私も実感して参りました。そうした熱気を、この記事からも感じて頂けたら嬉しいです。

さて、民間医局「医療の“あったらいいな”デザイン工房」では、これを機に「SaMD開発」、あるいはそこまでゆかずとも「プログラミング」に興味ある先生方を、改めて認識できればと思いますので、ぜひ以下のアンケート(所要時間:約5分)にお答えください。

アンケートはこちらから


尚ご回答頂いた先生は、工房で「SaMD開発パートナー医師」と認識させて頂き、今後(木村先生からご提案のあった)「プログラムを通じた交流の場」や、先生方の発案・アイデアに関心ある企業からの(謝礼付)調査・共同開発などを、次々と打診させて頂こうと思いますので、ぜひお楽しみに!

医療機器の開発ストーリー②「医療機器プログラム(SaMD)」

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