記事・インタビュー

2024.07.12

医療機器の開発ストーリー①「リング型パルスオキシメータ」

案件番号:24-AX003 施設・自治体名称:X Detect株式会社

はじめに

民間医局の新企画「医療の“あったらいいな”デザイン工房」は、会員医師の皆さまが臨床現場で感じる“あったらいいな”をお聞かせ頂き、企業がその実現へ第一歩を踏み出し易いように、当社が知財や競合状況などを調査し、3者で効率的に事業性の検証を進める仕組みです。「医工連携の0→1プラットフォーム」になるように…と工房を始めた所、早速、先生方から150件程の“あったらいいな”をお寄せ頂き、また工房に関心を寄せて下さる企業も100社を超えました。そこで、これからこの場を借りて、工房での取組みを随時ご紹介してゆきたいと思います。申し遅れました。私は民間医局で事業開発を担う、金井真澄と申します。

 

さて、その初回としてご紹介したいのが、「リング型パルスオキシメータ」を開発し医療機器(クラスⅡ)の薬事認可を取得したベンチャー企業(2022年設立)の取組みです。当社の工房に寄せられる関心には、ものづくりでもハード・ソフトの両方がありますが、そのいずれの開発においても重要なのがデータ…特にリアルワールドデータ(RWD)と呼ばれる「医療分野で日常的に収集される健康状態や医療提供に関するデータ」が注目されており、その一つである「ウェアラブルデバイスからの各種データ取得」は日進月歩で技術が進化しています。そんな注目分野で既に医療機器の認可を取得し、他にも今後、多様な機器を支えるデータを取得する可能性を秘めた製品の“開発ストーリー”を取り上げることで、皆さまにとって“工房”を少しでも身近に感じて頂ければ…と考え企画しました。

では早速、クラスⅡ医療機器の指輪型パルスオキシメータ「バインスタ®リング2 VR200」の新開発にたどり着いたX Detect株式会社の代表取締役社長、劉 勝前 様にお話を聞いてゆきましょう。

X Detect株式会社 HPへ

ちなみに今回取り上げる製品は、来る日本睡眠学会※(第48回定期学術集会:2024年7月18日(木)~19日(金)@パシフィコ横浜ノース)にて、東京慈恵会医科大学附属病院の耳鼻咽喉科学教室から、太田陽一朗先生が「終夜睡眠ポリグラフ検査と比較した“バインスタリング”スクリーニング検査における有用性の検討」と題して発表をされますし、同社が出展するブース31にて体験もできますので、ぜひ実際に試してくださいませ(私も居ます)。

※第48回定期学術集会:2024年7月18日(木)~19日(金)@パシフィコ横浜ノース
https://www.c-linkage.co.jp/jssr48/index.html

インタビュー

 金井 :劉社長、今日は宜しくお願い致します。まずは、開発のきっかけとなった臨床課題を教えて下さい。どうして睡眠時無呼吸症候群(SAS)に着目したのですか?

 劉社長 :超高齢化が進行する日本では、国民医療費が過去最高となり、このままでは国力が落ち、医療の質が維持できなくなるので、厚生労働省が2019年に健康寿命延伸プランを策定されました。そこで健康維持の3要素(食事,睡眠,運動)を考えた時、最も可視化が難しく、技術を必要としているのが睡眠だと思いました。そこで注目したのがSASで、それは事故や生活習慣病に繋がり影響が大きい一方、現状ではその多くが見過ごされていて、我々の技術が活かせると思ったからです。

 金井 :なるほど。私も報道で、ドライバーによるSASが原因の死亡事故をよく目にします。それに様々な疾患(※)の合併リスクが、健常者と比べて2~4倍にもなるそうですね。法規制が厳しくなり、助成金も設けられて、社会全体の関心が高いことが覗えます。でもなぜ現状では、その多くが見過ごされているのですか?
(※高血圧症,狭心症・心筋梗塞,慢性心不全,不整脈,脳卒中,糖尿病)

 劉社長 :日本では、2019年に各国の推計から900万人が中等症以上と報告されましたが、このうち実際に治療を受けているのは50万人未満と言われています。これは現状、正確な検査をするには時間がかかり、身体への負担も費用も大きいので、(肥満や日中の眠気など)自覚症状ある人だけに限られていることが、主な原因と考えられます。そこで我々は、SASスクリーニング検査を正確かつ手軽にして、(自覚症状がない人も含め)あらゆる人が検査できるようにすべく起業し「バインスタリング2」がセンシングしたバイタルデータをベースとするSASスクリーニング検査サービスを開発しました。

 金井 :今度の睡眠学会(冒頭でご紹介)で太田陽一朗先生から、既存の精密検査と比較した有用性の発表がある指輪型の医療機器(クラスⅡ)ですね。私も付けてみましたが、指のサイズに関係なくフィットして、装着も極めて簡単です。ではこの機器が、既存の検査と比較してどれほど手軽なのか、ご説明頂けますか?

 劉社長 :はい。でもその前に、有用性についてもう少し整理すると、現状では自覚症状ある人は【①スクリーニング検査→②精密検査→③治療】という流れで進みます。学会で太田先生が発表されるのは、我々のリングと②精密検査を比較した有用性です。ですから①のスクリーニング検査と比べると、さらに有用であることを念頭に置いて頂けると幸いです。さて手軽さですが、現状の①は、指先を圧迫するので違和感が強いのに対し、我々のリングはほぼ装着を意識しないと思います。測る対象が睡眠ですから、装着で眠りが浅くなっては本末転倒です。

 金井 :確かにもう慣れました。違和感は全くありません。それで測定した後、結果が出るまではどのくらいかかるのですか?

 劉社長 :データ自体は秒ごとに取得しておりクラウドに同期したらSASのスクリーニング検査結果は3分でPDFファイルとして出力できます。さらに結果に応じて、精密検査診療先もご案内できるようになっていますよ。

 金井 :それは手軽ですね。SASに自覚のない人も気軽に取り組めそうです。ちなみにこれは、今のところどんな場所で使われているのですか?

 劉社長 :まずは社会問題となっている運送業界から、タクシー会社やトラック事業者に導入されています。また健診センターにも導入が決まりました。大学,在宅診療やSAS専門クリニックへの導入が始まっています。この記事をお読み頂いている先生や、学会での発表・31番ブースで知って下さった先生方から、まずはお試しで使ってみて頂けると嬉しいです。

 金井 :ちなみにそこでの実感として、自覚がない人のうち、どの位がSASを疑われるのですか?

 劉社長 :3割程ですね。

 金井 :そんなに!自覚がなくてもほぼ3人に1人は…という感じですね。それは社会的な影響が大きそうです。ところでこの製品は、他にも様々な計測ができると聞きました。どんな項目を測れるのですか?

 劉社長 :「脈拍数」と「SpO2」の2つは医療機器認証取得項目ですが、他にも「表皮体温」「呼吸数」「歩数」「カロリー」「睡眠分析」「心拍変動HRV」を測定や算出ができます。今後はこれらの活用を、先生方と探ってゆけると嬉しいですね。プログラム医療機器(SaMD)等の開発における基礎データとして、ご活用頂けるかと思います。

 金井 :工房としても、大きな可能性を感じます。さて、今日のお話を通じて「バインスタリング2」が、身体への負担をかけずに、SASを正確に測定できる、唯一の医療機器であることがよく分かりました。7/18~19の睡眠学会で、多くの医師に知って貰えるといいですね。今日は貴重なお話を、どうも有難うございました。

そして当社の「デザイン工房」としても、これを機に「データ活用」に関心をお持ちの先生を改めて認識したく、こうしたテーマ(リアルワールドデータ活用,SaMD開発など)にご興味ある先生は、以下のボタンから、簡単なアンケートにお答え頂けると嬉しいです。(所要時間5分程)

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お答え頂ければ今後、「デザイン工房」から謝礼付のインタビューやアンケート等をご案内させて頂きますので、ご興味の程をアンケートでお知らせくださいませ。

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