記事・インタビュー
「自分の診断が合っているのか分からない」「国試のために学んだことを実臨床につなげられない」「覚えることが多すぎてどこから手を付ければいいのか……」「将来の診療科を決められない」―。
仕事、勉強、専門科の選択、目指す医師像など、悩みを抱える研修医も多いのではないでしょうか。そんな研修医たちの「リアルな声」を聞くために、研修医やスキルアップを目指す医師がつながるサイト「民間医局コネクト」とのコラボ企画が実現!
今回は、民間医局コネクトが開催している研修医向けの勉強会「コネクトセミナー」(毎週水曜20時~)に参加されている研修医の皆さんにもご協力いただき、DOCTOR’SMAGAZINE 誌上初となる研修医座談会を実施しました。
ファシリテーター兼相談役には、獨協医科大学総合診療医学講座 主任教授の志水太郎先生をお招きしました。研修医200人から回答を得たアンケート※ を基に、研修医の皆さんが日々どんなことに悩んでいるのか、また、診療で実際にあったしくじり談や、失敗を乗り越えるための工夫など、さまざまなトークテーマで「リアルな声」をお届けします。
※ 実施期間:2023年7月28日~2023年8月6日 対象:民間医局会員 研修医1万4537人(うち200人が回答)
<座談会参加メンバー>
01 救急対応の悩み
志水 先生 :山田さんと伊藤さんと草野さんは研修1年目、松下さんと笠原さんは2年目。研修医を対象にしたアンケート※ では「適切な診断・治療が分からない」という悩みが一番多かったけど、みんなも同じような悩みはある?
伊藤 先生 :あります。特に救急対応での診断が難しいなと。ウオークインで救急外来に来た患者さんの低カリウム血症に気付かず、後から呼び戻しました。
山田 先生 :僕は救急外来で全身CTを撮ったのに、バタバタしていて体幹部だけを見て、頭部を評価するのを忘れてしまったことがあります。
笠原 先生 :私が後悔しているのは、研修医1年目の時に診た患者さんです。下痢と腹痛で救急外来に来て、血液検査をするとヘモグロビン値が異常に低くて。普段から貧血の薬を飲んでいたこともあり、特に下痢や腹痛の原因見当たらなかったので帰したのですが、数週間後に大腸がんの破裂で救急搬送されてきました。
志水 先生 :貧血の原因が大腸がんにあったかもしれないと。
笠原 先生 :はい。おそらく最初の救急外来時の下痢や腹痛とは関係がなかったとは思うのですが、もっと貧血に注意すればがんを疑えたかもしれません。今振り返ると、救急搬送が立て込んでいて落ち着いて判断する余裕がなくなっていたのだと思います。
松下 先生 :僕は、徹夜明けで診た腹痛の患者さんの虫垂炎を見落としました。先輩と2人で何度も画像を確認したのですが、どうしても虫垂が見えなくて。でも翌日になって確認したら虫垂炎でした。消化管だと思っていたものが虫垂だったんです。疲れていたからという言い訳はできませんが、忙しさや疲れは判断ミスにつながると反省しました。
志水 先生 :状況によって診断の精度に影響が出てしまうんだね。
笠原 先生 :はい。後からCT画像を見返して、急性腎盂腎炎に気付いたことも……。
草野 先生 :僕も、救急車が5台同時に来たときに、3枝病変を見逃してしまったことがあります。患者さんは動悸を訴えていたのですが、心電図の異常はなく、上級医と一緒に確認しても気付けなくて。結局、その患者さんは翌週、再搬送され、循環器内科の先生がエコー画像から診断して疾患が分かりました。
山田 先生 :ほとんどの病院では救急対応を研修医や若手の医師が担当しているから、専門医でなければ気付けない疾患もありますよね。
草野 先生 :そうなんです。循環器内科の先生からは「もしかしたら先週時点でも、ちょっと異変はあったかもしれないね」と言われたのですが、やはり経験値がないと難しいなと。次に生かせるように、今はとにかく経験を積んでいく時期なのだと思っています。
松下 先生 :僕は2年目なので、今の悩みというよりは、来年レジデントになって自分が主体的に診られるだろうかという将来の不安のほうが大きいですね。知識や技術は研修医とあまり変わらなくても、責任は重くなるので。
笠原 先生 :私もそれは感じています。そのうえで、大事なのは今の自分ができることとできないことをしっかり認識することですよね。レジデントになっても「この画像はよく分からない」と思ったら上級医に確認をする。今の自分の実力に対する謙虚さは常に持っていたいと思います。
志水 先生 :救急外来での見落としをゼロにするのは難しくて、世界的な統計でもエラー率は最大で20%といわれています。ただ、医師である限りは「ランダムエラーの範疇だから」という言い訳はできません。アンケートでは、「どこまでできるようになっていればいいかが分からない」というコメントも多数ありましたが、救急対応での分かりやすい目標は、あらゆる患者さんのバイタルサインを1時間は維持できること。まずはそこを目指して頑張りましょう。
02 診断・治療の悩み
志水 先生 :救急対応以外ではどんな悩みがあるかな。
草野 先生 :僕は診察や病棟管理の正解が分からなくて迷うことがあります。似ている疾患の鑑別や薬剤の処方、病棟での管理でどのタイミングで輸液を投与するのか、やめるのか。ガイドラインがない中で治療計画を立てるような場面で難しさを感じます。
伊藤 先生 :教科書に載っていない手技を行うときも困りますよね。
山田 先生 :最終的には指導医が治療方針を決めるので、もし自分が考えた通りの治療をしていたら、患者さんはどうなっていたんだろう、と思うことがあります。もしかしたら悪化していたかも……と。自分の考えたことの結果が分からないので、いざ自分が主治医になったときに適切に判断ができるのかなと不安です。
志水 先生 :なるほど。医師が身に付けるべきものには、知識や手技などのスキルベースのものと、臨床推論などの思考ベースのものと2つあります。静脈注射や腰椎穿刺、中心静脈カテーテルなどのスキルベースのものは、数をこなせば必ず身に付けることができるので、教えてもらってどんどん実践すればいい。5年もすれば技術の差はなくなります。
伊藤 先生 :必ず身に付けられると聞いて安心しました。
志水 先生 :問題は思考ベースのほうで、例えば、歩けなくなったという訴えで来院した患者さんに非閉塞性腸管虚血(NOMI)があったり、下痢で来た人に大動脈解離が見つかったり、日常の診療でも複雑な思考が必要となるケースは多々あります。
草野 先生 :どうすれば思考力を鍛えられますか?
志水 先生 :一番いいのは、上級医にフィードバックしてもらうこと。上級医がどうやって推論を導き出したのか、その思考の過程を教えてもらいましょう。そのためにも、自分のロールモデルを見つけてトレーニングを受けることが、理想とする医師になるための近道です。
それ以外でも、例えば救急で診た患者さんが、その後どんな経緯をたどっているのかを見に行くことも、治療の結果が分かるのでフィードバックになります。自分がローテートしている診療科以外でも、どんどん自分から見に行ったらよいと思います。
山田 先生 :診療科を越えて患者さんの様子を見に行ってもいいんですね。
志水 先生 :経過はカルテでも分かるけれど、入院していれば見に行けばいいし、もし退院していたら電話をかけるのもいい。僕は、研修医とのカンファレンスで気になる患者さんがいたら、「ちょっと連絡してみようか」と一緒に電話をかけています。
草野 先生 :そこまでされているんですか!
志水 先生 :医師の仕事は、目の前から患者さんがいなくなったら終わりではないからね。電話をかけて、もし調子が悪くなっている患者さんがいたら、病院に改めてお越しいただいて診療をしています。担当の医師に許可をもらって電話をするだけで、自分の診断や治療に対するフィードバックが得られるのだから、みんなにとってもすごくメリットがあると思う。
03 勉強方法の悩み
志水 先生 :アンケートでは勉強方法についての悩みも多く寄せられていました。
山田 先生 :僕も勉強方法に悩んでいます。学びたいことはたくさんあるのですが、あまりに多すぎてどこから手を付ければいいのか。それに国家試験は目標がはっきりしていましたが、いざ臨床の現場を経験してみると、自分が成長できているのかを実感できないことも多くて。
笠原 先生 :確かに学ぶべきことが無限にありますよね。「成長できたな」と思って喜んでいると、次の日には失敗してへこむことも。それを日々繰り返している気がします。
伊藤 先生 :学生時代は問題集があったけれど、医師になってからは「これができればOK」という明確な指標がないですもんね。診療をしていて、自分の考えが本当に合っているのかな、と思うことがよくあります。
松下 先生 :僕はメモが取れないのが悩みです。動画やテキストなど分かりやすい教材はたくさんあって、学ぼうとすればいくらでも情報を得られる環境なのですが、メモを取ってまとめていく作業がとても苦手で……。
志水 先生 :アンケートでも「メモが散逸してしまって、まとめ方が分からない」という意見があったね。
松下 先生 :できなかったことに対して、すぐに「Up To Date」や本で調べることはできるのですが、そこで得た知見をうまくまとめられず、ひどい時は翌日に忘れてしまうこともあります。
志水 先生 :他のみんなは何か工夫をしていますか?
伊藤 先生 :僕は最近、カルテの書き方や検査オーダーの仕方、院内の独自ルールといった業務で覚えなければならいことと、診療や医学の勉強とを分けて考えるようになりました。自分が今、どちらができていないのかを考えると、膨大なやるべきことが少し整理できるような気がします。
草野 先生 :僕はこまめにメモを取っていますね。上級医に教えてもらったことを書いておいて、「Notion」で管理しています。例えば、胆管炎の患者さんを診たら「胆管炎」のページを作って、そこに注意点などをメモします。後で調べようと思ったことは、忘れないように全部付箋に書いて机に貼っているのですが、忙しいと付箋だらけになることも(笑)
山田 先生 :僕も電子媒体を使っていて、ポイントを短くまとめてアプリにメモしています。病棟にいるときには次の病室に行くまでの時間を使って「この抗菌薬はこういう使い方」というように、一言二言で。キーワードで検索をして見返せば、10秒で大事なポイントを思い出せます。
笠原 先生 :私も松下さんと同じでメモをまとめるのは苦手なのですが、退院時サマリーの一覧で、ERで診た患者さんをブックマークしておいて、後から振り返るようにしています。外来の診察の合間など、ちょっとした時間でパッと確認できて便利ですし、けっこう復習になっていると思います。
松下 先生 :ポイントや知識をまとめていくのにも、いろいろな方法があるんですね。まずはメモを取ることから始めようと思います!
※ドクターズマガジン2023年12月号に掲載されました。
志水 太郎
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