記事・インタビュー

2020.08.03

医師の海外留学奨学金・研究助成金について

 

医師が国外で研究留学する際の準備としては、履歴書(CV)や推薦書などの書類作成、ビザの取得などがありますが、最も大切な準備といえばお金(グラント)です。そこで今回は海外留学を考える方々に向けて、助成金を提供している財団などを紹介します。

 

海外留学の奨学金・研究助成金を応募する際の注意点

一概には言えませんが、海外留学の準備費用として平均100万~300万円、そして国によって差はありますが、毎月の生活費として日本円にして10万~30万円は必要となるようです。研究留学で給与が出ない場合、1年間の留学でも生活費だけで30万×12カ月=360万円かかることになります。最近では、無給でのポスドク採用は難しくなってきており、NIHでポスドクを雇う最低賃金(約5万ドル)が担保されていることを条件としている留学先が増えています。

よって、留学先のポジション獲得のためにも、「留学助成金」を留学前に申請することが重要です。助成金を受給することができれば、生活の心配をせずに研究に打ち込むことができるでしょう。

奨学金・研究助成金を支給している団体や医療機関はいくつかありますが、受給にあたっては「○○に関する研究」「留学中の収入が○○万円以下であること」「留学前後は一定期間○○に勤務すること」などの細かい条件設定があります。重要なこととして、既に研究留学中の方や、他から同種の海外留学助成金を受けている方は、申請対象外になる場合があるので注意が必要です。

また、応募した全ての医師に奨学金・研究助成金が支給されるわけではありません。採用枠が限られており、高倍率の厳しい選考になることがほとんどです。また、各大学や研究施設で1名のみ申請可能という条件にしている財団もあり、応募の前段階で、学内選考に勝ち抜く必要がある場合もあります。よって、可能な限り複数の財団に応募することは必須だと言えるでしょう。

留学助成金申請について

まず、留学助成金を支援している多くの財団が、留学先からの受入承諾書の提出を求めます。そこで、日本の留学助成金を申請する旨を留学先の先生に説明し、「受入承諾書」をいただくことが第1ステップになります。

次に、多くの財団が、下記について、申請書への記載を求めます。

  • これまでの研究の概要
  • 留学先で実施する研究計画
  • 海外で研究をすることの意義
  • 研究業績(論文、学会発表)など

1については、大学院の研究であれば、指導教官にチェックしていただくとよいでしょう。2については、留学先の先生と研究計画を練ることが重要です。そして、3では、1の研究内容を2でどのように発展させるかなど、1と2の関連性を説明することがキーとなります。4に、質の高い論文や数多くの論文発表を記載できると、有利に働くでしょう。業績欄を空欄にしないことが大切です。

このような申請書の記載は、科研費申請に類似しており、これまで研究計画書を記載したことのない方には、下記の本が有用です。これらの本にも記載されているように、評価者は大量の申請書を評価するため、各申請書に多くの時間を割くことはできません。よって、申請書を記載する上で、専門外の先生でも理解できるよう、分かりやすい表現を使うこと、字の大きさ、行数に配慮し、図を取り入れることで、見栄えのよい構成にすることが大切です。また、申請書は、医師・研究者に関わらず、いろいろな方に読んで意見してもらい、ブラッシュアップするとよいでしょう。

<書籍一覧>

  • 科研費獲得の方法とコツ
    改訂第6版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略
    [出版社] 羊土社
  • 科研費 採択される3要素 第2版: アイデア・業績・見栄え
    [出版社] 医学書院
  • 学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ
    [出版社] KS科学一般書(海外特別研究員を目ざす先生必読)

書類選考後に面接を行うところもあります。この場合も、これまでの研究と留学先での研究に関連性を持たせて、分かりやすく、簡潔にプレゼンすることが重要です。指導教官などにチェックしていただくよいでしょう。

最後に、「推薦状」の提出が必要です。指導教官に早めに依頼しておきましょう。財団によっては、推薦者の役職を指定している場合もあり(例えば、医学部長や病院長)、注意が必要です。

海外留学をサポートする、奨学金・研究助成金を提供している団体

海外留学をする医師のために、奨学金・研究助成金を支給している団体や医療機関がいくつかあるので紹介していきます。募集先によって研究内容や支給条件が異なります。ご自身が条件に該当するか、応募方法としては推薦が必要になるのかなど、必ずホームページなどにおいて詳細を確認してください。

要件と希望やタイミングが合う奨学金・研究助成金があれば、それを利用して海外留学することで金銭的な負担を大きく減らすことができます。海外留学を本格的に検討している方は、UMINなどを用い、このほかにも自身の条件に合う奨学金・研究助成金やサポートがないか調べ、定期的に応募の期日をチェックしておくとよいでしょう。学内選考のある助成金は、大学に提出する締め切りに注意しましょう。

※記載の支給金額は1年間に支給される金額です。

 

公益財団法人 細胞科学研究財団
育成助成

病因、病態の解明および疾病の予防、制御に寄与する細胞科学に関する研究を専門とする日本人の研究者で、留学先において更に高度の育成を受けようとする者に対する研究者育成を支援するプログラム

支給金額:240万円(120万円以下の他機関からの助成は重複可能)

 

独立行政法人 日本学術振興会
海外特別研究員

日本の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者を海外に派遣し、特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する制度です。

支給金額:約450万~620万円(派遣国によって異なる)

若手研究者海外挑戦プログラム

博士後期課程の学生等が海外という新たな環境へ挑戦し、3ヶ月~1年程度、海外の研究者と共同して研究に従事できるよう、100~140万円(派遣国により異なる)の滞在費等を支給し、将来国際的な活躍が期待できる豊かな経験を持ち合わせた優秀な博士後期課程学生等の育成に寄与するプログラム。

支給金額:100万~140万円(派遣国により異なる)

 

公益財団法人 東洋紡バイオテクノロジー研究財団
長期研究助成(留学、招聘)

バイオテクノロジーに関連した基礎および応用研究、例えば微生物や酵素の利用、組換えDNA、細胞融合、細胞培養などの技術や基礎生命科学、これらに関連するメカトロニクス、材料技術、システム技術など、若手研究者の研究を支援することを目的とする。

支給金額:550万円

 

公益財団法人 武田科学振興財団
海外研究留学助成

医師(MD)で、博士号(PhD)保持者またはPhD取得を目指す若手研究者を対象とした海外研究留学助成。業績のみでなく、信条、留学中の研究予定内容など、多様な観点で選考する。最長4年間の長期助成が特徴。

支給金額:海外渡航費往復40万円と滞在費年480万円を最長4年間助成

 

公益財団法人 日本生化学会
早石修記念海外留学助成

できるだけ条件を限定せずに、多くの若い研究者に思う存分海外で研究していただきたいという趣旨で規定を定め、助成額も500万円と高めに設定されている。毎年8名まで選出。応募資格は生化学会の会員であることなどが条件。

支給金額:500万円

 

公益財団法人 先進医薬研究振興財団
海外留学助成

精神神経科領域における臨床薬理学および薬物治療学の研究(精神薬療研究)と、血液成分その他の高分子蛋白の医学分野における研究(血液医学研究)ならびに循環障害に起因する諸疾患に関する研究(循環医学研究)の3分野に対する海外留学助成金を支給。

支給金額:500万円

 

社会医療法人厚生会 木沢記念病院
医師外国留学奨学金制度

木沢記念病院もしくは岐阜大学病院の勤務者であれば、年間500万円の奨学金を受けることができる。それ以外でも、全国の大学病院や一般病院の勤務医も応募できるが、支給を受けた場合には、留学前後の一定期間、木沢記念病院で勤務することが条件となる。留学先の制限なし。留学開始時期は先行決定後1年以内なら期日制限なし、2年間まで支給可能という好条件。

支給金額:200万~500万円

 

公益財団法人 内藤記念科学振興財団
内藤記念海外研究留学助成金

日本の自然科学の将来を担う国際的視野に富む研究者を育成することを目的とし、人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行うために、若手研究者が海外の大学等研究機関に長期留学する際の渡航費、留学に伴う経費ならびに研究費を補助するもの。

支給金額:450万円

 

公益財団法人 上原記念生命科学財団

生命科学、特に健康の増進、疾病の予防および治療に関連する以下の諸分野の研究に従事する研究者を対象に2種類の海外留学助成金がある。

ポストドクトラルフェローシップ

支給金額:450万円

リサーチフェローシップ

支給金額:450万円

 

公益財団法人 アステラス病態代謝研究会
海外留学補助金

医師を含めた生命科学の研究者を対象。基礎的な研究能力を修得した日本人研究者が海外の研究機関に身を置き、加速化する生命科学の変化を体感しながら、世界トップレベルの研究者と切磋琢磨するための留学を支援。研究テーマは、広義の生命科学関連領域(有機合成化学、天然物化学を含む)であれば特に制限はない。

支給金額:400万円

 

公益財団法人 日米医学医療交流財団
海外留学支援プロジェクト

地域医療を担う公益性の高い医療機関が実施する「医師海外留学助成制度」を支援。助成対象者は米国をはじめとする海外にレジデント留学を希望する医師で、連携対象の医療機関は当該医師を雇用し、海外へ留学派遣するもの。助成を希望する医師は、留学前に2年間当該医療機関に勤務し、留学終了後は最低1年間、当該医療機関に勤務し、研修指導を担当する。

支給金額:300万円(レジデント留学中の3年間で計900万円)

 

公益財団法人 第一三共生命科学研究振興財団
海外留学奨学研究助成

生命科学、特に疾病の予防と治療に関する諸分野の基礎的研究ならびに臨床への応用的研究に意欲的に取り組んでいる優秀な若手研究者を対象とする。

支給金額:300万円(2年間で計600万円)

 

公益財団 安田記念医学財団
海外研究助成

大学の医学部、医科大学、医学研究所、癌中核病院等において、癌に対する治療・研究に従事している医師で、国外(主として欧米)において実施した方が効率的である研究課題を持ち、帰国後も癌制圧事業に携わる熱意のある研究者を対象とした海外研究助成。

支給金額:150万円

 

公益財団法人 かなえ医薬振興財団
海外留学助成金

将来性ある35歳以下の生命科学分野の研究者個人を対象に、1件あたり100万円、7件(助成金額 700万円)の海外留学助成を実施。対象領域は、神経、循環器、糖尿病・脂質代謝、腫瘍・血液、免疫・アレルギー

支給金額:100万円

 

公益財団 三越厚生事業団
三越海外留学渡航費助成

海外での医学研究や医療技術習得を志す若手医学者に対し選考で渡航費を助成。選考要件は、東京都内に所在の大学医学部、医学研究施設、病院に所属する専任職員としている。

支給金額:総額300万円を複数の助成対象者で割った金額

 

公益財団法人 持田記念医学薬学振興財団
留学補助金

バイオ技術を基盤とする先端医療、バイオ技術を基盤とするゲノム機能/病態解析、免疫/アレルギー/炎症の治療ならびに制御、循環器/血液疾患の病態解析/治療制御、創薬・創剤の基盤、創薬とその臨床応用に関する研究を対象とした留学補助金。

支給金額:50万円

 

公益財団法人 中冨健康科学振興財団
留学助成金

筋骨格系および結合織の機能保持に関する研究、皮膚の健康と老化防止に関する基礎的研究、機能低下・個人差等による薬物等の体内動態に関する研究、疼痛治療に関する研究、運動を中心とした健康増進に関する研究のための留学助成金。

支給金額:50万円

 

山田科学振興財団
長期間派遣援助

自然科学の基礎研究に対する援助金。6ヶ月~1年間、海外で協同研究を行なうために必要な滞在費、渡航費等の援助を行います。

支給金額:US$70,000~の予定(US$10,000/人)

 

神澤医学研究振興財団

周産期を中心とするリプロダクティブ・エイジ及び高・老年期の女性に発現する各種疾患に関する成因、予防、診断、治療等の多角的な研究の奨励等を行う。

研究助成金

支給金額:150万円

海外留学助成金

支給金額:50万円

 

新製剤技術とエンジニアリング振興基金
海外留学研究助成金

「製剤開発」「製剤技術」「製剤プロセスエンジニアリング」の3分野いずれかの研究活動に従事する者に対し、海外留学のための渡航費および研究費の一部を支給する。

支給金額:50万円

 

中谷医工計測技術振興財団
技術交流助成 留学プログラム【海外留学】

医工計測および関連技術の中で、生体、その構成体(分子、細胞小器官、細胞、臓器など)および薬物動態を対象にした計測技術、情報解析技術などに関する研究であり、医療、健康管理、介護などに関して有用な情報を与えるものに対して支給する。

支給金額:年間300万円

 

臨床薬理研究振興財団
海外留学助成金

臨床薬理に関する研究を奨励し、振興を図り、また臨床薬理研究者の育成を助成、促進し、医学、薬学の向上、発展ならびに国民の保健衛生の向上に寄与することを目的として海外留学助成金の交付する。

支給金額:年間350万円

 

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

生体の精妙かつ複雑なメカニズムに焦点を当てた革新的、学際的、かつ新規性を備えた基礎研究を支援し、研究対象は、細胞構造における詳細な分子状態から、神経システム科学における複雑な相互作用にまで及びます。特に、ライフサイエンス以外の分野(物理学、数学、化学、情報科学、工学等)の科学者達の専門知識を活用した、独創的な最先端の共同研究に大きな重点を置いている。

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)
  • HFSP研究グラント
    異なる専門知識を組み合わせた革新的アプローチによって、単一の研究室では解明することのできなかった基礎生物学上の問題に取り組むことを目指す科学者の国際共同研究に対して助成される。
    支給金額:135万ドル(3年間最大)
  • HFSPフェローシップ
    キャリアの初期にある研究者が国外において新しい研究分野に移動することで幅広い研究スキルを身につけることを支援する。(長期フェローシップ、学際的フェローシップ)
    支給金額:生活手当14万ドル+研究費1.5万ドル
  • HFSPキャリア・デベロップメントアワード
    HFSPの長期または学際的フェローシップを受けている、あるいは受けたことのある研究者が、母国あるいはHFSP加盟国において独立した研究室を立ち上げることを支援する。
    支給金額:30万ドル(3年間総額)

 

東京海上日動メディカルサービス株式会社
Nプログラム

米国の教育病院における臨床医学レジデンシー・プログラムに日系の若手医師を派遣する民間のプログラム。一般にアメリカでの臨床研修を希望する医学部卒業生は National Residency Matching Program(NRMP) とよばれる全国公募制度によって採用されるが、Nプログラムは NRMPとは別枠の扱いになっており、日本の若手医師にとって有利なプログラムとなっている。優れた臨床医を育てることが目的であり、基礎研究を目指す医師のプログラムではないので注意が必要。

支給金額:奨学金制度ではなく留学の機会を与える制度

 

公益財団法人 小児医学研究振興財団

小児医学研究振興財団は小児医学研究の振興を図り、小児の医療・健康・福祉に寄与することを目的としています。

海外留学フェローシップ(子どもの心の問題に関する研究)

支給金額:1件150万円

海外留学フェローシップ(小児科領域全般に関する研究)

支給金額:総額350万円

 

米国財団法人 野口医学研究所
Mizuno Research Fund Post-Doctoral Fellowship Program for Japanese Reseracher

米国フィラデルフィア小児病院との提携により、研究者支援プログラムを実施しています。このプログラムは、血液学を希望する医師を対象としており、研究の機会を提供するに留まらず、研修を終えて将来日本のアカデミアで指導的立場になることを期待し研究者のキャリアー助成を援助するために、それら研究滞在に必要とされる経費への助成を行うものです。

滞在費:$55,000/年(分割して毎月支給)
渡航費及び学会参加費:$5,000
※研究に関わる諸費用は、別途研究室が負担します。

海外留学のために貯蓄は必須

預金通帳

奨学金・研究助成金が出たとしても、海外留学にはなにかとお金が掛ります。留学先で余裕をもって研究や生活ができるよう、ある程度の貯蓄をすることは必須です。短期間で多く貯める方法としては、給与の高い医療機関で働くという方法と、アルバイト(スポット)や非常勤を活用する方法があります。

へき地、離島での勤務

へき地や離島の医療機関は給与が高い傾向にあり、さらに都市に比べて住居費(場所によっては無料)や食費などがかなり安く済むため、都市部と比べて貯金しやすいというメリットがあります。また、留学資金を貯めながら地域医療に貢献できることも魅力です。

アルバイト(スポット)をする

海外留学のための貯蓄には、アルバイトや非常勤を活用して収入を増やすことが最も簡単な方法です。アルバイトや非常勤医師の時給相場は1万円ほどであり、常勤と掛け持ちすればかなりの収入増が見込めます。

公開(2019.10.28)
最終更新(2020.08.03)

 

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民間医局

 

海外留学について、奨学金・研究助成金以外にも詳しいことが知りたい方は、「医師の海外留学」の記事を参考にしてください。

医師の海外留学

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