記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
#18
西﨑 伸彦(著)/文藝春秋 発行
若松 宗雄( 著)/新潮社 発行
岡野 誠(著)/青弓社 発行
まいど。硬軟取り混ぜていろんな本を紹介してきとりますけど、今回は「軟中の軟」というてよろしおますやろな。かつてのスーパーアイドル三人の本だす。「日本中が同じ歌を知っていた時代」っちゅうのは、20世紀の終わりまでですやろか。若い読者には全くおもろないかもしれまへんけど、気にせずいきまっせぇ。
『中森明菜 消えた歌姫』、いきなりタイトルが悲しい。中森明菜、天才歌手である。あの懐かしのオーディション番組「スター誕生!」で選ばれ、1982年に「スローモーション」でデビュー。以後「少女A」、「セカンド・ラブ」などのヒットを飛ばし続け、「ミ・アモーレ」と「DESIRE」により、1985年・1986年と二年連続でレコード大賞を受賞した。しかし、いろいろなことがあって2010年には体調不良を理由に芸能活動から離れてしまう。以後、カバーアルバムの発売などはおこなっているものの、本格的な芸能活動はなく、ときおり流れてくるネットニュースは、あかん話がほとんどだ。
オリジナル曲はもちろん、CD「艶華」や「歌姫」を今でもよく聴くほど大好きなだけに、残念でたまらない。2014年に紅白歌合戦にスペシャルゲストとして登場したときはホンマにうれしかったなぁ。って、こんな話をしてたらキリがありませんな。
仕事には熱心だが、自分の意見は譲らない。いかにショーアップして魅せるかには抜群の才能を発揮するが、そのための摩擦は気にしない。しかし、その集中力は「ある種の狂気」を孕んでおり、常に周囲が「望む以上の結果」を出し続けた。これぞスターではないか。「トップスターとして誰の意見にも耳を貸さず、自己主張を決して曲げない勝気な面と、相手を戸惑わせるほど謙虚で自信のない姿。その二律背反する性格が明菜のなかでは矛盾なく共存している」。そんな明菜は他者との共存が難しすぎた。
若い頃からトラブルが絶えなかった。ギリギリでバランスを保っていたが軋轢は次第に大きくなり、所属事務所だけでなく家族にも疑心暗鬼の念を抱くようになる。さらに、近藤真彦―知らない人もいるだろうが、田原俊彦と共にジャニーズ事務所に所属していた当時の大アイドル―との恋愛、そして近藤宅での自殺未遂スキャンダルなどから凋落していくという悲しいストーリー。
この本、とても丹念に取材されていて、中森明菜が大スターになれた理由も崩れていった理由もよく理解できる。しかし、本人の肉声が聞こえてこないのが何とももどかしい。「世間が作り上げた“虚像”を受け入れ、孤独の淵を歩いてきた」のだから仕方ないのかもしらんけど、一ファンとしては何とも淋しい。
中森明菜が「歌手としての尊敬の念とライバル心」を抱いていたのが松田聖子である。明菜がスキャンダルによって崩れていったのに対し、聖子はスキャンダルを糧にして成長することができた。何よりも明菜が陰で聖子が陽、と、この二人は対象的だ。神田正輝と結婚していた松田聖子が近藤真彦とニューヨークで密会したというスクープが中森明菜を追い詰めた、というようなことはどうでもええか。というところで気を取り直して、二冊目は『松田聖子の誕生』を。
家族の反対を押し切って松田聖子をデビューさせ、スターダムに押し上げたマネージャー・若松宗雄が著者である。どのような戦略で松田聖子を育てたのか。それも中森明菜のケースとは大きく違うのが面白い。内容は絶頂期のことまでで、数多いスキャンダルの内容などは書かれておらず、読後感が爽やかだ。
松田聖子といえば田原俊彦である。と言われて分からない人は検索してみてください。二人ともむっちゃかわいいグリコチョコレートのCMがあります。田原は、1994年、長女誕生の記者会見で「僕ぐらいビッグになっちゃうと」という発言をしてしまったことからメディアや世間の反感を買い、アイドルの座から一気に滑り落ちていく。信じられないバッシングだった。
何となく好きではなかった。しかし、『田原俊彦論』を読んで、その印象は激変した。今では、時たまテレビで見かけると、頑張れっ! と思わず声をかけてしまうほどだ。ストイックなまでの真面目さ、「ビッグ発言」がなされた背景、そしてジャニーズ事務所との確執。そんなこんなを知ると、田原がいかにまともで素晴らしいスターであるかがよく分かる。今や好感度抜群ですわ。
芸能人の伝記なんかと思う人もいたはるかもしれませんが、それは偏狭というもんだす。どんなことからでも学ぶ。その姿勢が人生にはいちばん大事でっせ。ほな。
今月の押し売り本
今月の押し売り本
今月の押し売り本
仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2023年7月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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