記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
#17
ラッセル・A・ポルドラック(著)、神谷 之康(監訳)、児島 修(翻訳)/みすず書房 発行
クリス・チェインバーズ( 著)、大塚 紳一郎(翻訳)/みすず書房 発行
上大岡 トメ(著)/幻冬舎 発行
アリストテレスは「習慣が変われば、人生が変わる」と言わはったらしい。そして、同じく古代ギリシャの哲学者、ディオゲネスは「習慣は第二の天性なり」と。今回はいきなりハイブローでびっくりさせてしもうたかも。でも、どっちもええ言葉やと思わはりませんか? とはいえ、新しい習慣を身に付けることは簡単やおません。困ったことに、いい習慣を身に付けることがとりわけ難しい。まずは、そのあたりを学術的に解説した本からいきます。『習慣と脳の科学』は、習慣化を数多くの脳科学や心理学の実験から解説した本である。「習慣とは何か?」という問いに始まり、「脳が習慣を生み出すメカニズム」へと進む。習慣化の鍵になる脳内物質はドーパミンであることはよく知られているが、それはどのような研究成果に基づくのかといったことなどが分かりやすく説明されていく。続く第3章は、「一度習慣化すれば、いつまでも続く」という内容だ。だから習慣は第二の天性たり得るのである。
うれしいではないか。しかし、喜ぶのはまだ早い。何しろサブタイトルは『どうしても変えられないのはどうしてか』で、習慣化はいかに難しいかというのがこの本のメインテーマなのだから。強い自制心さえあれば悪しき習慣を絶って新たなる習慣を身につけることができそうだが、それはいくつかの研究によって否定されている。あかんやん、どうしたらよろしいのん。
そのあたりはこの本を読んでもらうしかないのだが、考え方を変える、環境を整える、目標をしっかり指向する、といったことなどが重要だと教えてくれる。個人的には、マインドフルネス瞑想が効果的ではないかというのが気に入った。というのは、瞑想を始めてすでに1年以上経って「習慣化」できたようだし、効果があると感じているからである。実際、瞑想が意志力や自制心を高めるという論文もあるという。しかし、そんな成果を紹介しながらも、著者はいささか懐疑的だ。
その理由は、マインドフルネスの定義や効果の測定が曖昧であること、こういった論文の多くは質の低い研究であること、悪影響が測定されていないことなどである。また、このような研究には「出版バイアス」があって、否定的な結果が出た場合には発表されない可能性が高いということもあげられている。
この本の素晴らしさは、瞑想に限らず、さまざまなテーマの研究成果の信憑性を厳しく吟味しているところにある。従来信じられていた学説に対してそれを否定するような成果が出た場合、どう考えていくべきか。そのあたりの論理構成が抜群だ。
習慣というのは医学だけでなく心理学のテーマでもある。2015年、『Science』誌に衝撃的な内容の研究論文が発表され
た。心理学の研究論文結果の再現性は40%以下である、というものだ。これには反論もあるようだが、心理学研究に大きな暗影を投じたことは間違いない。『心理学の7つの大罪--真の科学であるために私たちがすべきこと』は、そのあたりを鋭く描き、今後の針路を指し示している好著だ。
心理学ほどではないが、物理学や化学に比べると生命科学も再現性の低さが問題とされている。例えば、実験や臨床研究で有意差が出そうな場合にはn数を増やすことがよく行われている。研究不正行為ではないが、こういったことも禁じるべきであるなど、耳の痛い話も多い。けれど、それだけに読み応えがある。
いろいろ難しいかもしれないけれど、やはり良き習慣を身につけたい。そう思う人が多いだからだろう、そういった本はたくさんある。超オススメの一冊は『キッパリ!--たった5分間で自分を変える方法』だ。「脱いだ靴はそろえる」とか「一日10回『ありがとう』と言う」とか、比較的簡単に身につけられそうな習慣が60個紹介されている。
ハッキリ言って、一つずつの習慣を身につけたところでどうということはない。しかし、新しい習慣を身につけることができると思えるようになる波及効果は限りなく大きい。自分自身、この本で大きく変われた経験を持つだけに断言できる。
「一生でいちばん影響を受けた本は?」という質問で、たいがいの人は難しい本を紹介しがちですけど、わたしはちゃいます。迷うことなくこの本をあげるんですわ。130万部突破はダテやおません。まだ読んでいない人はぜひ!人生を変えられる可能性を千円以下で手に入れられるかもしらんのやから。たかが習慣、されど習慣。自分が変わっていくっちゅうのが快感になったらしめたもん。騙されたと思って、いろいろやってみなはれ。ほな。
今月の押し売り本
今月の押し売り本
今月の押し売り本
仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2023年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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