記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
#12
大島 真寿美(著)/小学館 発行
たかの てるこ(著)/テルブックス 発行
通崎 睦美(著)/集英社インターナショナル 発行
まいど、仲野堂でおます。いきなりですが、最近はジェンダーバランスっちゅうのがえらく厳しく言われるようになりましたな。なかなか難しくはありますが、ええことやし、推進していかなあきません。で、仲野堂でこれまで取り上げた本をチェックしてみました。3冊×11回の計33冊のうち女性が著者の本は9冊なんで、少なすぎる。ということで、今回は女性著者の本でいきます。
まずは直木賞作家・大島真寿美さんの小説『たとえば、葡萄』を。たいした理由もなく大手の化粧品会社を辞めた28歳の美月が主人公である。彼女は何をするあてもなく、母の友人・市子の家で居候を始める。何とかなるだろうと甘く考えていたけれど、新型コロナウイルスが流行りだして、いかんともし難くなっていく。
美月の両親も変わっているが、市子をはじめとする母の友人たちもみんなちょっと変わっている。けれど何とか許容範囲に収まっているという設定がうまい。そういう人たちに助けられ、女友達と共に働くことにより人生の目的を見つけていく。そのきっかけが「たとえば、葡萄」という思いだった。
いまさらながら、小説家さんのストーリー作りはむちゃくちゃ達者である。え~っ、そんなうまいこといくかいな、という気がしつつも、こんな話だったら当たり前にあるかもしれんと思わせられてしまう。そして、この本が何より素晴らしいのは、読み終えたとき、何だか勇気が湧いてくることだ。コロナ禍だからこそ開ける人生だってあるのかもしれない、と。
お次、たかのてるこさんの『世界は、愛でできている』は、読めばやたらと元気になれる写真集だ。誰やその「たかのてるこ」って、と思う人がほとんどかもしれない。かつて長澤まさみ主演で映画になった『ガンジス河でバタフライ』の著者である。といえば、彼女の嘘みたいな行動力と大胆さを覚えている人もおられるだろうか。いまは「世界中の人と仲良くなれる!」と信じて世界を駆け巡る旅人になっておられる。
旅で撮影した写真に文章が付けられ、最後は「息をするように すべてに愛を感じて 今この瞬間を愛で生きよう!」と結ばれている。いろんな写真があるが、多くは世界中の人々の笑顔だ。素晴らしい笑顔が炸さく裂する写真、人を明るくさせるたかのさんの希有な才能がなければ撮れなかったに違いない。
この写真集は、『生きるって、なに?』、『逃げろ 生きろ 生きのびろ!』、『笑って、バイバイ!』と続き、これまでに累積で20万部も売り上げたシリーズの最新作である。このシリーズ、まちがいなく愛と勇気を与えてくれる。って、セーラームーンかよ。
たかのさんに劣らず明るく楽しい通崎睦美さんのエッセイ集『天使突抜 おぼえ帖』を3冊目に挙げたい。通崎さん、本職は木琴奏者なのだが、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』(講談社)でサントリー学芸賞と吉田秀和賞を受賞しておられることから分かるように文章もうまい。さらにはアンティーク着物蒐集家としても名を馳はせておられる。よく「私何にもでけへんし」とおっしゃるのだが、どの口が言うねん!
タイトルにある天使突抜(てんしつつぬけ)というのは京都の下町、通崎さんが生まれ育たれた町の名前だ。そこで出会った人たちのこと、家族のこと、そして自分のことがエッセイの内容である。素敵な人は素敵な人たちによって育まれるのか、素敵な人には素敵な人たちが集まってくるのか。何か、しみじみと人生ってええもんやなぁと思えてくる。
という3冊でおます。ん、今回は著者が女性やという以外につながりがないやないかって? いや、そんなことあらしません。じつは、3人ともちょっとした知り合いなんですわ。大島さんは浄瑠璃作者・近松半二を描いた直木賞受賞作『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の執筆をきっかけに文楽にのめり込まれ、ご自分も義太夫を習うようにならはったんです。で、私も師事している六代目・豊竹呂太夫師匠に入門、早い話が妹弟子でおます。たかのさんは、桂南光師匠とのトークショーでハグしてもらって以来の仲、通崎さんは読売新聞の読書委員会を一緒に務めてました。作品から分かるように、お三方ともホンマに明るく元気で楽しいチャーミングな女性なんですわ。
知り合い3人の本って利益相反ちゃうんか!というクレームは却下。まぁ、たまにはよろしいがな。紹介したところで何にももろたりせえへんのやし。
今月の押し売り本
今月の押し売り本
今月の押し売り本
仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2023年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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