記事・インタビュー
今回は「これからの医師の情報発信の在り方」をテーマに、当誌連載コラムでもおなじみ『こわいもの知らずの病理学講義』の著者である仲野徹氏と、『すばらしい人体』の著者である〝けいゆう先生〟こと山本健人氏の対談を実施。テレビ出演や新聞連載、市民向けの講演会、オンラインセミナー、SNS、ブログ……と、幅広いメディアで活躍する二人に、医師が情報発信をする意義や、メディアの活用方法を語っていただいた。
<お話を伺った方>
仲野 徹(なかの・とおる)
<お話を伺った方>
山本 健人(やまもと・たけひと)
書くことで得られるもの「 人生の幸福度が上がる」
仲野 先生 ︙山本先生におすすめしたいのが、週1回の連載を持つこと。月1回だと「ちゃんとしたテーマで書かないと」と身構えてしまうけど、週1回だと日課みたいになりますから。それに、たくさん書くことでものの見方が変わるんです。
山本 先生 :たしかに、今、月1回の連載を担当しているのですが、毎回苦労してネタをひねり出しています(笑)。
仲野 先生 ︙そうでしょ。週1回やったら、たいしたことなくても「もうええわ」ってあきらめて出せる(笑)。週に1回エッセイを書くようになって、「これをやったらネタになるかな」って、自分から面白いことを探すようになりました。別にエッセイを書くようになったからといって面白いことが増えるわけではないんだけど、そういう目で世の中を見ていくから幸福度が上がりましたわ。
山本 先生 :それはすごくいい話ですね。アウトプットをすることで、インプットの質が上がる。私も本を書いてみて、良い本をたくさん読んでいなければ、良い本は書けないと感じました。
仲野 先生 :一般の人に向けて文章を書いていると、いつもと違う脳の領域を使っている感じがしますよね。学生に教えているときとも研究をしているときともまた違う。脳に隙間が空いて、それがええ感じに仕事にも影響していると思うんです。
論文や学会でもSNSを重視 医療界の情報発信が変わる
仲野 先生 :山本先生は、情報発信によって本業への影響はありましたか?
山本 先生 ︙本を書くときには、どういうふうに説明したら分かりやすいかを一生懸命考えながら書いていたので、臨床で患者さんへの説明が上手くなりました。それに、情報発信の活動をしているからこそ、「そんなことをやっている暇があったら臨床をやれ」と言われないように、本業にはより一層力を入れています。
仲野 先生 :僕もエッセイを書き始めたばかりの頃は、「仲野は研究をやめたんか」と言われたなぁ(笑)。
山本 先生 ︙医療界の情報発信に対する考え方も着実に変化してきていますよね。日本循環器学会をはじめ、多くのフォロワーを擁する学会公式のTwitterアカウントが次々と現れ、積極的に情報発信しています。
仲野 先生 :情報発信の重要性が学会でも理解されてきているんですね。
山本 先生 ︙そう思います。ここ数年の変化としては、論文を投稿する際にTwitter のアカウントを書き込む欄ができました。雑誌のアカウントで情報発信をするときには、論文の著者が紐付けされるようになっています。欧米の医師たちはTwitter を本名、顔出しでやっていますよね。アカデミアの面からも、これまで以上にSNSでの発信力が重要になっていくと思います。
仲野 先生 :日本ではあまりいませんが、外国では臨床で優れた医師で、素晴らしいエッセイを書いている人がなんぼでもいます。日本でもそうした文化が醸成されていってほしいと思います。医療という小さな社会から飛び出して、広い視野を持って発信していく医師がどんどん増えていったらいいですよね。
※ドクターズマガジン2022年12月号に掲載されました。
仲野 徹、山本 健人
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