記事・インタビュー

2022.08.12

もう迷わない!救急外来の初期対応 ~角結膜異物、化学外傷、熱傷編~

もう迷わない!救急外来の初期対応 ~角結膜異物、化学外傷、熱傷編~

結膜異物

病歴や症状

屋外でホコリやゴミが眼に入った、仕事中に木のクズが眼に入った等、低速で異物が眼に入る状況であれば結膜異物を考えます。受傷起点が明らかなことが多く、病歴から異物の種類をある程度想定することが出来ます。通常は強い痛みというよりも眼の異物感を主訴に来院することが多いため、眼痛が強い場合には角膜の障害も合併している可能性があります。

診察のポイント

痛みが強く開瞼出来ない場合には、点眼麻酔薬を使用することで診察がスムーズになります。また、生理食塩水で洗い流す際にも点眼麻酔を使用することで痛みを感じにくくなります。

通常、眼に入った異物は涙液によって自然に流れ出ることが多いですが、救急で受診される患者さんは流れ出ておらず、眼瞼の内側に入り込んでいることがあります。
異物は細隙灯顕微鏡を使わずとも黒色の粒子状の物質として観察出来ることが多いです。
特に上眼瞼の裏側で見つかることが最も多いので、上眼瞼を翻転した診察が大切です。上眼瞼の翻転については以下のシェーマ(図)1を参照ください。

また、「コンタクトレンズが眼の裏に回ってしまった」といった主訴の場合にも、上眼瞼を翻転するとコンタクトレンズが出てくることが多いです。眼瞼結膜と眼球結膜はつながっているので、基本的に円蓋部結膜よりも後ろに異物が到達することはありません。

・上眼瞼の翻転のコツ

翻転の経験が無い場合は、上図のように綿棒を使用する方法がやりやすいです。

眼痛が強い場合には角膜の障害を合併している可能性があるため、角膜上皮障害の合併にも考慮した上で診察しておく必要があります。そちらについては後述の角膜異物の項目を参照ください。

治療のポイント

眼瞼の裏などに異物を見つけた場合には、湿らせた綿棒で異物に触り、取り除くことが出来ます。
異物が見つからない場合には、既に涙液により異物が排出されていることもありますが、異物が未だに残っている可能性も考えられます。その場合には生理食塩水で洗い流します。
角膜の障害がある場合には抗菌点眼薬眼軟膏を使用します。角膜上皮障害による眼痛が強い場合には経口鎮痛薬も併用します。

角膜異物・角膜障害

病歴や症状

結膜異物と同様、屋外でホコリや木のクズが眼に入った際に角膜を傷つけてしまうことがあります。また、ハンマーで金属を叩いた際や、金属を研磨している際に、角膜に金属片が飛入することもあります。
高速で異物が飛入した場合には、角膜や強膜を穿孔して眼内に異物が到達していることがあるので注意が必要です。
角膜障害があると強い眼痛充血、羞明などの症状を訴えます。

診察のポイント


角膜上皮障害の診察にはフルオレセイン染色検査が有効です。フルオレセイン色素を乾燥させたものがついている紙片を湿らせて、下眼瞼結膜に付着させてからまばたきをしてもらうことで角膜表面を染めることが出来ます。
細隙灯顕微鏡がある場合、染色後にコバルトブルーフィルタを用いて角膜を観察すると、角膜上皮障害のある部位が緑の蛍光色を発します。細隙灯顕微鏡が無い場合には市販のブラックライトで染色後の角膜を照らすことで、同様の所見を得ることが出来ます。

角膜表層に金属片などの異物がある場合、サイズによっては肉眼的にも観察が出来ます。異物は角膜表層に留まっていることが大半ですが、場合によっては深層に達していたり、穿孔を起こしていたりすることもあります。

少しでも異物の貫通を疑う場合には眼窩部CT検査を行い、異物の位置を確認します。なお、金属異物の飛入を疑う場合にはMRIは禁忌であるため注意してください。
眼球内に異物を認める場合には、すぐに手術加療が可能な眼科へ紹介する必要があります。

角膜を穿孔する外傷があった場合には、穿孔部位からフルオレセイン色素が流れ出てくることが観察出来ます。このような所見はSeidel試験陽性と呼ばれ、至急眼科への紹介が必要となります。

治療のポイント

角膜表層に留まっている角膜異物であれば、結膜異物と同様に湿らせた綿棒で取り除くことが出来ます。
角膜深くに異物が埋まっている場合には針を角膜の接線方向に刺入して取り出します。筆者は26G針を好んで使用していますが、可能であれば細隙灯顕微鏡下で異物の除去を行うことが望ましいです。特に鉄粉が入った場合は、その周辺に鉄錆も付着していることがあり、同時に取り除く必要があるため、無理をせずに眼科へ紹介することをおすすめします。

また、異物が除去出来たとしても角膜上皮障害がある場合には抗菌点眼薬眼軟膏を併用します。特に眼軟膏は、角膜上皮の摩擦を減らすことで痛みを軽減する効果もあります。
角膜上皮障害があると痛みも強いため、経口鎮痛薬の処方も併せて行います。

なお、初期対応後は角膜上皮障害が完全に治癒したことを確認するまでは眼科でのフォローアップが望ましいです。

角膜化学外傷・熱傷

病歴や症状

薬物や熱傷による角膜障害は、建築作業現場や実験室だけでなく家庭でも発症します。角膜化学外傷の場合、特にアルカリ性の薬物が眼に入った際には重篤になりやすい
です。
アルカリ性の物質としては、たとえばセメント、パーマ液、毛染め液、漂白剤、カビ取り剤などが挙げられます。
また、角膜熱傷については花火ヘアアイロンが眼にあたった、天ぷらのがはねて眼に入ったなど様々なことが原因となります。

基本的に病歴から詳しい原因が明らかになることは多いので、問い合わせがあった際にはその原因が薬物であるか熱傷であるかに関わらず、水道水などの流水で最低でも10分以上洗眼してから受診してもらってください。また、角膜化学外傷の場合、原因物質の種類pHは重要な情報であるため、現物もしくは商品名などのメモを持参いただくと良いと思います。

診察のポイント

痛みで開瞼出来ないことも多いので、点眼麻酔下で診察を行います。洗眼をするにあたっても、事前に点眼麻酔をしてある方がしっかりと洗うことが出来ます。
角膜化学外傷の場合はまず、原因物質のpHを確認した上で、試験紙を用いて結膜嚢のpHを測定します。
次に眼球のみでなく、顔や眼瞼にも障害が生じることがあるので、全体を観察します。
角膜障害の観察のためには、角膜異物の項目で解説したフルオレセイン染色検査が有用です。薬物・熱傷による角膜障害では結膜と角膜所見から重症度を判定し、以下の重症度に応じた治療を行います。

角膜輪部には角膜上皮細胞の幹細胞が存在しており、輪部障害の程度に応じて角膜に瘢痕を残すリスクが大きく変わります。
また、アルカリ性物質は組織浸透性が高いため重篤化しやすく、前房まで浸透している場合には前房洗浄などの処置が必要なことがあります。瞳孔が不正円となっているのは、アルカリ性物質が前房内へ浸透しているサインなので、その際は結膜嚢を洗浄した上で至急眼科へ紹介する必要があります。

一般的にグレード1, 2は予後が良好ですが、グレード4は視力予後が極めて不良で眼球温存が難しい場合もあります。グレード3は初期治療によって視力予後が左右されます。

治療のポイント

治療はまず洗浄です。洗眼を行ってから受診いただいた場合でも、自分では十分に洗浄出来ていないことが多いため、救急外来にて再度洗眼を行います。

教科書によっては生理食塩水を点滴チューブにつないで持続的に眼を洗う方法も紹介されていますが、煩雑ですので創部を洗う時のように直接眼に生理食塩水をかけるような洗浄方法でも問題ありません。洗浄をしながら上下左右を見てもらうことで隅々まで洗うことが出来ます。特に上眼瞼の裏には病因物質が残りやすいため、上眼瞼を翻転した状態でも洗浄すると良いです。
洗眼は10〜20分以上かけて生理食塩水1〜2L以上で洗浄することが推奨されています。洗浄前の結膜嚢pHが酸性やアルカリ性に傾いていた場合は洗浄後に再検をして、pHが中性に戻るまで洗浄を繰り返します。

洗浄後の治療としてはステロイドによる消炎が重要です。特にグレード3では適切な治療が出来るかどうかが視力予後を左右します。
また、角膜の障害がある場合には感染予防のために抗菌点眼薬や眼軟膏も併用します。
以下に私の処方例をグレード別に載せておきます。

・グレード3b以上の処方例
重症で視力予後が悪いため可能であれば緊急で眼科コンサルトを行います。
難しい場合にはメチルプレドニゾロン125mgないし250mgの静脈内投与を救急外来で行い、翌日以降は炎症の程度に応じて1〜2回程度メチルプレドニゾロンの静脈内投与を継続します。その後はベタメタゾン1mg/日もしくはプレドニゾロン10mg/日を1〜2週間内服します。
局所治療としてはベタメタゾン点眼0.1%1日4回、レボフロキサシン1.5%点眼1日3回、タリビッド眼軟膏0.3%眠前1回で処方します。・グレード2(角膜上皮欠損の範囲が広いもの)、3aの処方例
ベタメタゾン1mg/日もしくはプレドニゾロン10mg/日を数日程度内服します。
局所治療としてはベタメタゾン点眼0.1%1日4回、レボフロキサシン1.5%点眼1日3回、タリビッド眼軟膏0.3%眠前1回で処方します。・グレード1, 2(角膜上皮欠損の範囲が狭いもの)の処方例
局所治療としてベタメタゾン点眼0.1%1日4回、レボフロキサシン1.5%点眼1日3回、タリビッド眼軟膏0.3%眠前1回で処方します。

上記を処方した後、可能な限り早期に眼科への紹介が望ましいです。
特に中等症以上の症例では急性期を過ぎてから角膜上皮欠損が遷延化したり、隅角障害やステロイド反応性の眼圧上昇、また角膜内皮細胞の減少などの合併症を伴ったりすることがあるので、非眼科医での管理は難しいと思います。

研修医へのメッセージ

患者さんが救急受診される場合の眼科のcommon diseaseについて解説しました。
眼科領域は非眼科医からすれば未知の領域だとは思いますが、眼科医へのアクセスの悪い病院で勤務されている先生は本記事の内容を身につけるだけでも多くの症例に対応することが出来るはずです。
もちろん悩ましい症例はいつでも眼科医へご相談いただければと思います。

細隙灯顕微鏡が無くてもある程度の眼科疾患の診察は出来るので、これを機に点眼麻酔薬・フルオレセイン染色紙・ブラックライト・pH測定紙をご用意いただければ大きな武器となるはずです。

 

ぐちょぽい先生の自己紹介

「全国の眼科医が勉強したり、情報交換ができたりする場を作りたい」という思いからLINEオープンチャット「眼科専門医試験勉強会」を主催し、1000名以上の眼科医が参加。ブログ「眼科医ぐちょぽいのオンライン勉強会」Twitter「ぐちょぽい@感染症眼科医」で眼科医に向けた情報を発信中。

ぐちょぽい先生

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