記事・インタビュー
新型コロナウイルス感染症の流行拡大の中で、各医療圏における感染症指定医療機関のみでの対応は困難となり、地域の公的病院、民間病院の中には行政からの強い要請で、専門医の不在の中、不安を抱えつつも新型コロナウイルス感染症患者の外来・入院診療に協力した施設が多かった。地域の感染症対応力を高めるためには養成に時間を要する感染症専門医を増やすだけでは急速な感染流行拡大している状況下では立ち行かないのは明白である。
各医療職の感染症認定資格について
看護師の場合
感染症に関わる各医療職にはそれぞれの認定資格がある。医師の場合は感染症専門医となるが、これは以前の記事を参照していただきたい。看護職については、感染管理認定看護師(所謂ICN)が挙げられる。
日本看護協会が認定する教育機関で教育を受け、感染管理に必要な知識・技術を修得後、認定審査を受け認定された看護師である。認定教育機関での研修が必要のため、勤務先の医療機関での勤務を一時中断の上、教育機関の近くに住む必要がある。そのため、ICNには興味があるものの、6ヶ月程度の間、自分の居住地を離れ研修を受講する必要があるため、勤務先の人員状況、経済面(受講費、生活費、無給になる恐れがあること)、家庭のこと(特に扶養の必要な家族がいる場合)などの事情により断念している方々を筆者自身も身近に複数見てきた。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中、感染対策の強化のために高い能力を持った感染管理認定看護師の増員の必要性が高まり、同協会では、2021年度から3年間(2021~2023年度)、感染管理認定看護師養成推進事業を行っている。(https://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/kansencn)
この事業では、教育機関に対して、研修課程の再開講(休講している教育機関もあるため)、新規開講、受講者定員数増加、教員確保についての支援に加え、200床未満の医療機関に対して受講費用の援助、これら中小規模病院からの受講者を受け入れるための特別枠の設定などの各種支援策が講じられている。
長崎県においても感染管理認定看護師養成事業として令和6年度までに新たに9名の認定看護師を養成するため支援事業が行なわれている。この支援事業により新型コロナウイルス感染症の重症者の受け入れ病院にはICNを複数配置し、現在同感染症の受け入れをしている医療機関全てにICNを配置することを目指している。これら取り組みで今後ICNの増員が図れることを期待したい。一方、ICN資格が地方に居る看護師にとって、もっと取得しやすくなるように、研修での講義はオンライン講義の導入、基準を満たした地方で研修可能な教育機関を認定し、看護協会の委託として受講希望者の居住地での教育機関での研修を認可していただき、地域にいるままでICN取得ができるような取り組みも進めていただければと切に思う。
長崎大学病院での取り組み
長崎大学病院感染制御教育センターでは、2007年より長崎感染制御ネットワークを設立して以来、県内医療機関の感染対策に関わる医療従事者に対して毎年院内感染対策について講習会や実習を開催しレベルアップを図っている。
また、感染対策についての相談を受けたり、各施設へのサイトビジット(ラウンド)を通じて、地域における密接な連携を構築してきた。更に、2012年度からは、長崎県の委託事業である「院内感染地域支援ネットワーク事業」を行い、長崎県内の各医療機関に於ける院内感染対策の支援を行っている。(http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/nice/nic-network/index.html)
長崎大学病院に感染症医療人育成センターが今年4月設置後、感染制御教育センター、国際医療センター感染症病棟との協働で、この上記ネットワーク事業の一環として、隔離解除となったもののリハビリ療養等医療ケアの継続が必要な新型コロナウイルス感染症患者を受け入れてくれる後方支援病院の看護師を対象に、SARS-CoV-2についての基礎知識について講義、感染対策実践研修(PPE装着訓練、大学病院感染症病棟内での実習等)を行い、それぞれの医療機関でクラスター発生した場合の対応について机上シミュレーションでの研修を実施、更に研修後に自施設内での新型コロナウイルス感染症対策を練っていただき、感染制御教育センターのスタッフが各施設をサイトビジットし、対策状況についての評価、アドバイスを行い、患者受け入れ体制を促す取り組みを行った。
現在まで20を超える施設を対象に研修を行ったが、その中から後方支援だけでなく、感染拡大期は軽症、中等症患者を受け入れいただく医療機関も複数申し入れがあった。非常に心強く、有難いものであった。
まとめ
上記活動を通じ、専門職養成には時間も要す事もあり、一般医療職の感染症対応のスキルアップも同時に進めていくことが肝要と思われた。また、感染症診療は各医療職の協力で行なわれるべきチーム診療である事を改めて痛感した。今後は専門医やICN不在の医療機関においても、新規感染症に対する医療職のチーム対応力のボトムアップを図る取り組みを更に進めていきたいと考えている。
<プロフィール>
古本朗嗣(ふるもと あきつぐ)先生
施設名:長崎大学病院感染症医療人育成センター
役職: 教授 センター長
平成7年鹿児島大学医学部医学科卒業、日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、内科指導医、日本感染症学会感染症専門医、指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、ICD、抗菌化学療法指導医、臨床研修指導医 プログラム責任者養成講習会修了 医学博士
古本 朗嗣
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