記事・インタビュー
2年間のAdvanced IBDフェローシップを修了しました。とにかく、コロナで始まり、コロナで終わった留学といっても過言ではないほど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は留学生活をチャレンジングなものに変えてしまいました。家族の支えがなければ、2年間のフェローシップを修了できなかったと思います。コロナ禍で、ストレスの多いシカゴでの留学生活に耐えてくれた妻と息子には本当に感謝しています。本記事では、IBDフェローシップで得られた実績やACGME(米国卒後医学教育認定評議会)が管轄していないフェローシップを終えた後の進路について、記載してみたいと思います。
IBDフェローシップでの収穫
シカゴ大学では、IBDに特化して診療にあたらせていただきました。入院チームに加わり、診療に関わらせていただいたIBD入院患者数は、2年間で200症例を超えていると思います。また、外来では、2年間で、約200例の新患担当を行い、再診も合わせて、約500例近くのIBD外来症例を経験させていただきました。米国式フェローシップの醍醐味だと思うのですが、全ての症例で、指導医の先生とdiscussionすることができ、カルテも詳細なチェックが入るため、各症例を深めて考察することができました。
一方、研究では、指導医の先生たちの的確なご指導のおかげで、筆頭著者として、原著5本、総論3本、症例報告1本、レター6本、著書2本の論文発表を行わせていただきました。また、国際学会発表を行う機会にも恵まれ、採択された11演題のうち、4演題が、口頭発表に選定されました。研究でも、非常に多くの経験を積ませていただきました。主要な研究テーマとして、回腸嚢炎の新規内視鏡分類(シカゴ分類と命名)の構築というオリジナリティーの高い仕事をさせていただきました。このことが、自分の将来の研究テーマの発見に繋がりました。
フェローシップからの留学のメリットとは
レジデントでいくか?フェローでいくか?これについては、留学のかなり初期の段階で考えることだと思います。日本である程度、診療経験のある先生であれば、フェローシップから入るメリットは、レジデンシーを繰り返さなくて済むことにあると思います。そして、専門領域に特化して臨床研修や研究を行えることが大きなメリットです。また、診療科にもよりますが、米国で専門医資格を持たずに、指導医(Attending physician)になられる先生も少数ながらいます。
フェローシップからの留学のデメリットとは
まず、Advanced IBDフェローシップを修了しただけでは、米国消化器内科専門医資格を取ることはできません。ACGMEが管轄するレジデンシーとフェローシップを修了しなくてはなりません。また、米国でレジデントの経験がない状態でフェローシップから入るのは、帰国子女の先生は別として、言語の面で勇気がいります。さらには、外国人がフェローシップから入ることができるプログラムは、ACGMEが管轄していない超専門的なフェローシップが多く、例えば、ACGME管轄の消化器内科や循環器内科フェローシップなどは、米国内科レジデントの3年間を修了して、内科専門医を取得しなければ、入ることは困難です。
フェローシップ修了後の進路
1.帰国する場合
シカゴ大学IBDフェローシップでは、これまで、イスラエル、カナダ、オーストラリアなどからの消化器内科医が研修に来ていましたが、その多くの先生が、フェローシップ修了後に帰国し、シカゴ大学での経験を自国でのキャリアに繋げています。この場合、Advanced IBDフェローシップで経験した診療や研究を、自国で活かすことのできる施設を探すことが重要です。自国でお世話になった先生から、ご紹介いただけるケースが多いと思われます。
2.米国に残る場合
もし、米国専門医資格を目指すのであれば、内科レジデンシーに応募することになります。また、専門医資格にこだわらず、指導医として働きたい場合、専門医を必ずしも必要としないポストを見つけることが必要です。この場合、渡米前の段階で、ある程度決断しておくと良いでしょう。なぜなら、指導医として米国に残る場合、H-1Bビザで就労することになるからです。すなわち、Advanced IBDフェローシップを開始する段階で、USMLE Step 3まで合格して、H-1Bビザでの渡米を交渉するのがベストな方法と言えるでしょう。J-1ビザでは、フェローやレジデントなどのtraineeとして残留できますが、基本的には、指導医になることはできません。
私の場合、米国でのIBD診療と研究経験を日本に還元したい、そして、可能であれば、日本でのアカデミックキャリアに繋げたいという明確な留学目的がありましたので、J-1ビザでフェローシップを開始しました。進路を決める際に、内科レジデンシーをやり直すことへの興味は皆無でしたが、指導医としての米国残留に興味がなかったというわけではありませんでした。J-1ビザでAdvanced IBDフェローシップを開始したとしても、O-1ビザを申請して指導医として残るという方法があります。ただ、米国では、消化器内科専門医資格がないと、指導医としてのポストを見つけるのが困難な上、キャリアアップするのは厳しい印象がありました。なので米国での本格的な就職活動は行わず、初心にかえることにしました。
日本での進路について、まずは、日本でお世話になった先生たちと相談させていただき、シカゴ大学での経験を活かすことのできる施設を模索しました。そして、幸い、7月から筑波大学へ赴任するにつくことが決まりました。平成30年度難病情報センター集計によると、茨城県では、潰瘍性大腸炎が2,846人(全国11位)、クローン病が841人(全国13位)と全国でも比較的IBD患者数が多いにもかかわらず、IBDを専門に掲げている消化器内科はありません。そこで、赴任後は、シカゴ大学での経験をフルに活かし、筑波大学の皆様と協力して、茨城県でのIBD診療に貢献できるよう努力していく所存です。また、若手のIBD教育や海外留学サポートにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。研究に関しては、前述のシカゴ分類の外的妥当性に関して、日本のデータを用いて、シカゴ大学と共同研究を計画していきたいと思っています。
留学の意義とは
留学はゴールではなく、長い医師人生の中で、自分を成長させるための一過程です。留学の意義は人それぞれで、留学後にどのようなキャリアプランを考えているか、そして、それに向けて、留学をどのように活かすのかが、とても重要です。他の先生の経験を参考にするのは重要ですが、それに囚われ過ぎずに、自分が留学後、医師としてどのように生きていきたいかを純粋に追求すべきです。日本にいる時と比較して、留学中は、自己研鑽に集中できる時間が豊富にあります。それを活かすも殺すも自分次第です。ある程度明確な将来へのビジョンを持って、それを達成するためには何が足りないのか(例えば、臨床能力、研究業績、言語力など)を模索し、留学を通じて成長することができれば、とても有意義な留学生活を送れるのではないかと思います。
<プロフィール>
秋山 慎太郎(あきやま・しんたろう)
2000年4月- 電気通信大学量子物質工学科入学(工学学士)
2004年4月- 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻(理学修士)
2006年4月- 弘前大学医学部医学科(3年時へ学士編入)
2010年4月- 虎の門病院内科研修開始
2014年4月- 東京医科歯科大学消化器内科入局
同年- 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科に入学(医学博士)
2018年4月- 東京医科歯科大学消化器内特任助教
2018年11月- 渡米
2018年12月- シカゴ大学Postdoctoral scholar
2019年7月- シカゴ大学advanced IBD fellowship
2021年7月- 筑波大学医学医療系消化器内科 講師
秋山 慎太郎
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