記事・インタビュー

2020.12.25

海外の医療と日本の地域医療をつなぐ、国際医療人育成室のプログラムとは?

<お話を伺った先生>

有吉 紅也(ありよし・こうや)先生
長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野 教授
長崎大学病院感染症内科(熱研内科) 診療科長
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科 副研究科長
長崎大学病院 へき地病院再生支援・教育機構 国際医療人育成室 室長

名称変更

2021年4月1日,「長崎大学病院 へき地病院再生支援教育機構」は
「長崎大学病院 国境を越えた地域医療支援機構」に名称が変更になりました。

15年来の思いが結実した「国際医療人育成室」

私が15年前に長崎大学病院感染症内科(熱研内科)の教授に就任したのは、「途上国で医師として活動したい」と願っている人達の受け皿を作りたいと思ったからです。

15年間、活動を続けてきて気づいたのは「途上国の医療を志す人は、国内では医療過疎で地域医療を目指す人が多い」ということ。そのため、離島やへき地が多い長崎の地域医療と途上国をつなぐ仕組みが欲しいとずっと考えていました。

この願いは、今年国際都市として長い歴史を持つ平戸市と連携することで「国際医療人育成室」として形になりました。これで、途上国での医療を志す人が安心して海外へ行ける環境がさらに整います。

また、熱帯医学教育のメッカでもある長崎大学熱帯医学研究所や大学病院と連携して、グローバルヘルスで求められるスキルを学ぶ体制も整備できました。

私の将来ビジョンは平戸市民病院のような全国の拠点とネットワークで結ぶことです。このことがひいては日本全体のへき地の医療格差の解消、国内でも海外でも活躍できる、未来志向の医師の育成につながると信じています。

››› ドクターズマガジン 2020年6月号で取り上げられました。


<お話を伺った先生>

池田 恵理子(いけだ・えりこ)先生
長崎大学病院へき地病院再生支援・教育機構 国際医療人育成室 助手
国民健康保険 平戸市民病院 医師

世界の子供達の窮状を知り、導かれるように熱研内科へ

私が初めて海外での活動を意識したのは、小学生の時でした。学校の授業でユニセフについて学び、日本に生まれていれば決して死ぬことのない病気で亡くなる子供達が、世界中にたくさんいることを知って衝撃を受けたのです。このことがきっかけでユニセフの募金活動を行うようになりましたが、今ひとつ、手ごたえを感じませんでした。集めた募金がどのように使われて、誰の役に立っているかイメージができなかったからです。

そうして中学生になった頃、国境なき医師団に初めて女性医師として参加した貫戸朋子さんの手記を読みました。そこで初めて「自分がやりたいのは困っている人達に直接、手を差し伸べることだ」と気づき、医師を志したのです。

医学部入試では、私が受験する年に適正や意欲を評価するAO入試の「国際枠」が長崎大学に新設され、その1期生として入学しました。そうして2年生の時に有吉先生に出会い、導かれるように感染症内科(熱研内科)に入局。大学に在学中から先生方の研究助手という形で東南アジアやアフリカを中心に、途上国に連れて行っていただき、貴重な経験を重ねることができました。

その後、医師になって5年目の時に、有吉先生が繋いでくれたご縁によって、西アフリカにあるガンビアという国に1年間滞在しました。ガンビアでは研究をしながら臨床に携わったのですが、42床ほどの小さな診療所で、0歳児から成人まで、手術が必要な外傷や分娩を除けば何でも診るような環境でした。

学生時代にアフリカなどを訪れたことはあるとしても、医師としては初めての訪問ですから、もちろん不安はありました。しかし、感染症については日本でしっかり勉強していたので、現地でも知識を伝えることができましたし、小さな手術や処置の手技を教えることもできました。現地で少しでも何かを残すことができたのは、日本でしっかり学ぶ環境が整っていたからだと感じています。

日本の地域医療と途上国の医療には共通項が多い

1年間の途上国経験を通して実感したことは、日本のへき地医療と途上国の医療は非常に共通する部分が大きいということ。地域で生まれた人を地域で健康に育て、地域で看取るという流れは、途上国も国内の地域医療も同じです。日本で地域医療に熟練していなければ、医療資源の乏しい途上国での地域ニーズには対応できないのです。

こうした思いから、帰国後は地域医療を志し、国際医療人育成室の枠組みを活用して2020年4月から平戸市民病院の配属になりました。今は平戸市民病院で地域医療を実践しつつ、海外に興味を持ってくれる後輩たちをサポートする日々です。

海外に興味を持ちつつも、どうやって一歩を踏み出していいかわからない人は、ぜひ一度、長崎に来て話を聞いてみて下さい。私達が伝えられることは何でもお伝えします。海外医療に関わる仲間を1人でも増やすことが、私達の最終ゴールでもある「海外からの支援を必要とせず、現地に医療体制を根づかせること」につながると信じているからです。


<お話を伺った先生>

鵜川 竜也(うかわ・たつや)先生
長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学教室(熱研内科)
元 長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科 戦略職員

30歳まで海外とは無縁の生活から、国際医療へ

私は学生時代、陸上部の仲間とひたすら走る毎日を過ごしていました。海外には特に興味がなく、海外旅行すらしたことがなかったのですが、在学中に走った距離をつないだら、きっとどんな外国へも届くと思います。そんな楽しい青春時代を過ごし、2013年に高知大学を卒業。地元の福島県で初期臨床研修を行い、当直業務に追われ多忙な生活でしたが、一人の医師として信頼され仕事を任せてもらえる環境で学ぶことができました。そして、その中で特に興味を持った内科、特に感染症科を専門に選び、勉強のため、後期研修医として複数の病院で総合診療と感染症のトレーニングを受けました。色々な先生にご指導いただき、医師としてそれになりに仕事ができるようになってきた医師6年目。そして30歳の夏。なんとなく申し込んで参加したのが「長崎大学感染症内科・国境なき医師団の合同ワークショップ」でした。日本で働くのとは別のやりがいと面白さにあふれた内容に大いに心動かされたのと同時に、プレゼンテーションを行っているのは、これまでイメージとは異なり、感染症はじめ内科がバックグランドの先生ばかり。「もしかして自分にもチャンスある!?」そう思ったら、私の頭の中には長崎大学感染症内科で働く選択肢が浮かんでいました。

ただ、その時の私といえば、海外経験なし、パスポートなし、英会話力なし。私が海外で働くなんて誰が想像できるでしょう。周りはみんな学生時代に色々と経験してきた人ばかりだし、自分みたいな人間が海外で医療してみたいなんて言ったら笑われるかも…。そんな不安を抱えながら、新しいスタートのため長崎に来ました。

国際医療人育成室をベースに世界へ羽ばたく

2019年4月に長崎大学感染症内科に入局し、海外経験が豊富な先生方に囲まれながら、半年間ほど大学病院で医局員として勤務しました。10月より長崎大学が提携しているフィリピンのサンラザロ病院に、大学が進めている研究の継続のためオフィスマネージャーとして赴任。たくさんの熱帯感染症を目の当たりにしつつ、初めての経験であるオフィスの運営に四苦八苦しながら、現地スタッフにも支えられ、なんとか業務をこなしていく日々でした。さらには、2020年1月には新型コロナウイルスが流行し、突然のロックダウンという困難にもぶつかりました。しかし、医局や熱帯医学研究所の先生方をはじめ多くの方々のサポートをいただき、サンラザロ病院にPCR検査の拡充という側面で微力ながら貢献することができたと感じております。

2020年4月に帰国し大学病院での勤務を再開。その前後で、国境なき医師団の人材募集に応募し面接を受けました。英語の壁に一度跳ね返されましたが、なんとか登録までこぎつけ、2020年11月から国境なき医師団の一員として、パプアニューギニアに派遣されています。パプアニューギニアでは結核が蔓延しており、薬剤耐性結核への対応を含めた結核のプロジェクトに参加する予定です。本格的な活動はこれからですが、どのような新しい経験ができるのか、どのように自分の経験や技術を役立たせることができるのか、とても楽しみです(2020年12月取材時点)。

―他人に語れるような立派な動機も経験もなかった自分ですが、初めて感染症内科の医局に来て、自分の思いを話した時の先生たちの反応は、「できるでしょ」。私の目標を何の疑いもなく受け入れてもらい、気づけば年度の途中にも関わらず海外に旅発つ自分を快く送り出してもらっていました。そんな、自由に挑戦できる環境に、いつも助けられていたんだと思います。もちろん帰国後に、もどってくる場所としても受け入れてくれます。

もし、これまで特別な準備をしてこなくても、医師人生のどこかで、海外医療そして地域医療へ参加してみたい方がいたら、長崎大学感染症内科でスタートをきってみてもいいんじゃないでしょうか。きっと、医療に熱血な「熱研内科 」の医師たちが、その挑戦を伴走してくれることでしょう。走るのはあなた自身ですが、一人で走るより仲間がいた方が良いかもしれませんよ。お気軽に医局へのお問い合わせをお待ちしています。

※ 感染症内科は学内で通称 熱研内科と呼ばれている。

国際医療人育成室のプログラム、その他ご相談などは「長崎大学病院 へき地病院再生支援・教育機構」公式サイトより、お気軽にお問い合わせください。

有吉 紅也、池田 恵理子、鵜川 竜也

海外の医療と日本の地域医療をつなぐ、国際医療人育成室のプログラムとは?

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