記事・インタビュー
2019年7月からシカゴ大学のIBDフェローとしてIBD(炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎やクローン病)の研究と臨床に従事されている消化器内科医・秋山 慎太郎先生がお届けする、米国留学までの準備と現在。
Update (2021/1/26): USMLEよりStep 2 CSの中止が正式に通達されました。今後、ECFMG certificateの取得にOET(Occupational English Test)受験が必要になると思われます。(詳しくはこちら)
私のUSMLE受験
米国で医師としてトレーニングを受けるには、まず米国の医師資格試験であるUSMLEにパスしてECFMG certificateを取得、マッチング資格を得る必要があります。
私はUSMLE Step 3をパスするまでに約8年を要しました。Step 2 CKからCS受験までの間は内科と消化器内科研修に専念していたこともあり、時間が許されるときに英会話学校に通い、ほそぼそとCS対策をしていました。研修が忙しかったこともあり、モチベーションの維持が難しい時期でもありました。
参考までに私のStepごとの合格時期とスコア状況を紹介します。
Step 1 | 2009年10月、医学部6年生の時に受験し合格。スコアは当時の99(現在2桁スコア制は廃止、さらには2020年2月のUSMLEポリシー変更に伴いスコア自体廃止予定 )。 |
---|---|
Step 2 CK | 2010年3月、日本医師国家試験終了後に受験し合格。スコアは平均をやや下回る得点。 |
Step 2 CS | 2015年9月、東京医科歯科大学大学院在学中にシカゴの試験場で受験し合格。 |
Step 3 | 2017年6月にグアムの試験場にて受験し、合格点ギリギリでなんとかパス。 |
各Stepの受験にあたり、みなさんもNBMEやUWorldの模擬試験を受けることになると思いますが、いつの時代も、直近に受験した方々の情報は非常に有用です。「USMLE Forum」や、日本の医学生や医師の受験体験記はとても参考になると思います。特にUSMLE Forumでは各受験生が模擬試験とUSMLEの実際のスコアを提示しており、私も模擬試験を受けた際によく参考にしました。
次は、Stepごとにおすすめする参考書などの情報をお伝えします。私は10年前に試験を受けたので古い情報もありますが、それぞれご自身で検索し、アップデートしてください。
Step 1
Step 1は基礎医学とそれに絡んだ臨床医学の知識を詰め込むため、医学生の時分に受験をするのが有利と考えます。それは時間に自由が利き、授業の基礎知識が試験に活かされるからです。高得点を狙うのであればなおさら、勉強時間の確保という面からも、研修医や専修医の時点で受けるのはあまりおすすめできません。(2020年2月のUSMLEポリシー変更に伴いStep1のスコアが廃止予定となりました。これは米国外の医学生、医師の方には、やや不利に働くと思います。これまで、特にレジデントの選考において、Step1を高スコアで合格してアピールすることが絶対条件と言われていたのですが、今後は、他の方法でアピールしていくことが必要です。Step1にどの程度勉強時間を確保するのかに関しては、今後、考え方が変わっていくと思われます。)
「First Aid for the USMLE Step 1」や参考書は読破する感じではなく、問題を解きながら、キーとなる「図」を参考に暗記をしていきました。「図」として知識を定着させることが、瞬時に問題を解く上で大切だと思います。
分野別おすすめの参考書
生化学、微生物学、薬理学、免疫学
「Lippincott Illustrated Reviews Series」は図がきれいで、分かりやすい。Step 1, 2を取得するときに役立ちました。日本語版も出版されていますが、英語で勉強することをおすすめします。私は「Lippincott Illustrated Reviews Series」の重要な図をコピーしてファイリングしました。今は「First Aid」がカラーですが、昔は図が豊富でなかったため、自分なりの勉強ノートを作成しました。
<参考書/出版元>
First Aid for the USMLE Step 1 / MCGRAW-HILL EDUCATION
Lippincott Illustrated Reviews: Biochemistry / LWW
Lippincott Illustrated Reviews: Microbiology / LWW
Lippincott Illustrated Reviews: Pharmacology / LWW
Lippincott Illustrated Reviews: Immunology / LWW
生理学と行動科学
これらの分野は「BRS Behavioral Science」「BRS Physiology」がよくまとまっていると思います。付属の問題もすべて解きました。生理学は、「生理学テキスト」も適宜、参考にしました。
<参考書/出版元>
BRS Behavioral Science / LWW
BRS Physiology / LWW
生理学テキスト / 文光堂
解剖学
「イラスト解剖学」は一通り目を通し、重要な図はファイリングしました。「骨単」シリーズで解剖用語を英単語として記憶しました。
病理学、組織学
「ロビンス基礎病理学」は分厚いので全て読破することはしていません。重要な図だけをコピーしてファイリングし、覚え込むようにしました。
<参考書/出版元>
ロビンス基礎病理学 / 丸善出版
その他
大学の授業で渡されるプリントや授業ノートはばかにできないと思います。分かりやすいプリントなどはファイリングしました。ファイルは最後には10cmくらいの分厚さになってしまい、持ち運びが大変でした。今ではiPadなどに全情報を取り込めるので、勉強用ノートの作成には、各種メディアを有効活用するとよいと思います。
問題集
まず「First Aid Q & A」と「Kaplan Q book」を一通り解いてから、オンライン問題集「UWorld」と「Kaplan Q bank」をそれぞれ2周しました。また、First Aidの準拠したオンライン問題集「USMLE Rx」は1回だけ解いています。問題を解きながら、ファイリングしたオリジナルノートに各問題の解説の要点を書き込んでいきました。「First Aid」に直接書き込む人も多いと思います。
<参考書/出版元>
First Aid Q & A for the USMLE Step 1 / MCGRAW-HILL EDUCATION
Kaplan Medical USMLE Step 1 Q book / Kaplan
Step 2 CK
臨床医学(全分野)と医学統計の問題が出題されます。私は日本の医師国家試験直後に受験しました。Step 1のスコアが99だったのでCKも99を狙ったのですが、点数が予想より低く、残念に思ったことを記憶しています。
臨床の知識は医学生より臨床研修を終えたときの方が格段に上です。Step 1とは異なり、ある程度、臨床経験を積んだ上で受験した方が得策と考えます。こちらも「First Aid for the USMLE Step 2 CK」を参考にし、まずは「First Aid Q & A for the USMLE Step 2 CK」と「Kaplan Medical USMLE Step 2 CK Q book」を一通り解いてから、オンライン問題集をやりました。
分野別おすすめの参考書
臨床医学(小児科、産婦人科以外)
日本の「国家試験問題集(QB)」で臨床医学の問題に慣れていたので、オンライン問題集「UWorld」 と「Kaplan Q bank」に取り組み、解説を参考に米国でのスタンダードを「First Aid」に書き込むことで、知識を米国版に補正しました。「イヤーノート」は使用しませんでしたが、とてもよくまとまっているので、それを軸に知識を整理することも有用だと思います。
整形外科や皮膚科などのマイナー科に関しては、「レビューブックマイナー」という日本の国家試験対策本も参考にしました。精神科は、Step 1で使用した行動科学の「BRS」も有用でした。
<参考書/出版元>
First Aid for the USMLE Step 2 CK / MCGRAW-HILL EDUCATION
国家試験問題集(QB)/ メディックメディア
イヤーノート / メディックメディア
レビューブックマイナー / メディックメディア
小児科、産婦人科
「病気がみえる」シリーズの産科、婦人科は図がきれいで、分かりやすいです。まずは「病気がみえるVol.9 婦人科 乳腺外科」「病気がみえるVol.10 産科」で勉強し、「Blueprints Series」という参考書で米国のスタンダードを補強しました。小児科は、日本の国家試験対策本も参考にしました。
<参考書/出版元>
病気がみえるVol.9 婦人科 乳腺外科 / メディックメディア
病気がみえるVol.10 産科 / メディックメディア
Blueprints Obstetrics & Gynecology / LWW
Blueprints Pediatrics / LWW
医学統計
Step 1で使用した行動科学の「BRS」やオンライン問題集の解説を参考に「First Aid」に書き込んで勉強しましたが、最後まで苦手意識が抜けませんでした。現在、臨床研究に取り組み、医学統計を勉強して思ったことなのですが、日本の先生が書いている臨床研究の教科書が非常に有用ではないかと思います。「できる! 臨床研究50の鉄則」という本は、USMLEの受験でも使えると思います。実際、USMLE受験時にあったらよかったなと思った一冊でした。
<参考書/出版元>
できる! 臨床研究50の鉄則 / 金原出版
Step 2 CS
米国の試験場で医療面接(Advanced OSCE)を行う試験です。私は東京医科歯科大学大学院在学中、シカゴの試験場でStep 2 CSを受けました。英語を母国語として学ぶ機会がなかった私にとっては超難関でした。前述の京都大学大学院で英会話を受講するまでは、英語はまったく話せませんでした。帰国子女やもともと英語に慣れている方は、おそらく容易に取得できるのではないかと思います。
Kaplan Step 2 CS Prep(いわゆるKaplan 5 daysコース)
Kaplanが主催する5日間の講習プログラムです。これを受ければ多くの方が合格できると思いますが、その前に最低限の英語力を要します。あくまで目安ですが、TOEFL iBTで 80点以上 (Speakingは最低でも18点以上)だと思います。
私は研修医2年目の夏休みに「5 daysコース」を受けたのですが、英語力不足を痛感し、日本でBerlitzという英会話学校に通いました。「First Aid for the USMLE Step 2 CS」を教科書に、講師とマンツーマンで医療面接の練習をし、さらにそれを基に、カルテを記載する練習をしました。
不定期ながらも英会話に通い、東京医科歯科大学大学院2年生の夏休みに受験。「5 daysコース」を受けて数年経過していたので再受講も考えたのですが、受講料が約3,000ドルと高価なため、Full Simulated Examという模擬試験だけを直前に受講しました。模擬試験では英語だけでなく全体的にかなり厳しい評価であり、不合格を覚悟したことを記憶しております。
結果、クリアしなければならない3つの評価項目のうち、Spoken English Proficiencyという英語の項目が、本当にギリギリでしたが、合格しました。またそれと同時にECFMG certificateを取得しました。今では「DMM英会話」やCSに特化したオンライン英会話などもあるので、それらを使用することも有効かつ安価な方法だと思います。
(コロナ禍の影響で、USMLEは2020年5月にStep2CSは12-18ヶ月の間、suspendする としておりましたが、2021年1月26日、USMLE Step 2 CSの中止が正式に通達されました。今後、OET受験がその代用になると思われます。OETは、日本では大阪会場での受験になるのですが、将来的にはオンラインで受験できるようになる可能性があり、米国に行く必要はありません。テストは、Listening (約45分)、Reading (60分)、Writing (45分)、Speaking(約20分)で構成されています。 USMLE Step 2CSのように、米国の受験センターに渡米し、10人を超える模擬患者と会話し、カルテを書くという、長時間で大掛かりなテストとは異なるため、外国人受験生には比較的、条件が良いと思われます。ただ、 Step1, 2CKに加えてOETを合格(全ての項目でB判定以上)することで、マッチング参加の資格は得られるようですが、ECFMG certificateがすぐに下りるわけではないようなので、フェローでの留学には注意が必要です。今後、いつまでStep 2CSの中止が続くのか、不明ですが、各自、USMLE サイトのアナウスメントをご確認下さい。こちらのサイトでもなるべくアップデートされた情報をお送りします。)
USMLEコンサルタントでもある瀬嵜先生のOET情報は大変参考になります。ぜひご覧ください。詳細はこちら>>
Step 3
臨床医学全般と疫学や医療統計の問題が出題されます。米国国内での受験となるため、私は日本から一番近いグアムの試験会場を選択しました。試験は2日がかりとなります。せっかくグアムまで行ったのに、遊ぶことも観光することもなく、ひたすら勉強していました。後日談になりますが、シカゴ大学のIBDフェロー申請において、Step 3は不要でした。
分野別おすすめの参考書
問題集
「UWorld」「Master the Boards USMLE Step 3」を使用しました。Step 3は「First Aid」より「Master the Boards」のほうが細かい知識がカバーされている印象でした。「UWorld」を解きながら「Master the Boards」に書き込んでいきました。小児科、産婦人科などもやり直す必要があり、適宜、Step 2 CKで使用した「First Aid」や「病気がみえる」、また小児科の日本医師国家試験対策本も参考にしました。臨床研究に関わる医学統計の問題が多く出題され、とても勉強になりました。
<参考書/出版元>
Master the Boards USMLE Step 3 / Kaplan
試験内容はStep 2 CKに類似していますが、試験2日目に、Computer-based Clinical Simulation (CCS)というStep 3に特有の試験があります。例えば、胸痛の患者が来たという想定問題に対し、どの検査項目や治療薬を選択するか、ということを問われます。試験用の電子カルテが展開され、実際に血液検査項目や画像検査のモダリティーを選択するなどして診断を確定し、治療を決定します。自分が選択した治療により患者のアウトカムが変化するので、ある意味、面白い試験でした。シミュレーションゲームのような感覚です。「UWorld」では、試験と同様のシステムを練習できます。
以上が、私が行ったUSMLE勉強法です。
要約すると「Step 1, 2は医学生の時、CS, Step 3は大学院生の時に受験。CSは、英会話学校やKaplanにて試験対策をした。」です。
次回は、最大の関門でもある「留学先を見つける」と、「必要書類」についてお伝えします。
<プロフィール>
秋山 慎太郎(あきやま・しんたろう)
2000年4月- 電気通信大学量子物質工学科入学(工学学士)
2004年4月- 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻(理学修士)
2006年4月- 弘前大学医学部医学科(3年時へ学士編入)
2010年4月- 虎の門病院内科研修開始
2014年4月- 東京医科歯科大学消化器内科入局
同年- 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科に入学(医学博士)
2018年4月- 東京医科歯科大学消化器内特任助教
2018年11月- 渡米
2018年12月- シカゴ大学Postdoctoral scholar
2019年7月- シカゴ大学advanced IBD fellowship
2021年7月- 筑波大学医学医療系消化器内科 講師
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