記事・インタビュー
ここ数年、テレビドラマなどの影響もあり知られるようになった「フリーランスで働く医師」の存在。実際にフリーランスで働く医師は以前より増えて一般化しつつあります。その理由として、2004年に始まった新医師臨床研修制度により医局に入らない医師が増えたことや、女性医師支援策の推進など柔軟で多様な働き方が実現できる時代になったこと、さらに医師人材紹介会社や医師向け求人サイトが充実し、非常勤やスポット(アルバイト)を探しやすくなったことなどが挙げられます。
そこで今回は「フリーランス医師の働き方」をテーマに、そのメリットやデメリット、活躍するために必要なポイントなどを紹介していきたいと思います。
フリーランス医師、主な3つの働き方
フリーランス医師は、医療機関などの組織に属しておらず、また開業などでスタッフを雇う経営者でもなく、「非常勤」や「スポット」のみで生計を立てる医師のことです。働き方は大きく分けて3つあり、(1)「定期非常勤」で働く、(2)「スポット」で働く、(3)「定期非常勤」と「スポット」を併用して働くというものです。
(1)「定期非常勤」の働き方
「定期非常勤」は、例えば週に3日など勤務日がある程度決まっている働き方であり、非常勤といえども半年~年単位(3~4年)で仕事を得るため、比較的安定した収入を見込むことができます。こうした「定期非常勤」として働く医師は多く、とにかくお金を稼ぐためという目的ではなく、子育てや介護のため、勤務時間の調整が難しい正規雇用を避ける医師や、より多くの自由な時間を確保したい医師などが利用しています。
(2)「スポット」の働き方
「スポット」はいわゆるアルバイトであり、単発の仕事です。外来や当直など、1日(1回○時間)いくらといった形で募集をしています。おおむね時給が高く、医師のアルバイト情報を扱う求人サイトも豊富にあるため、以前のような「いつバイトがあるかわからない」というデメリットは少なく、「スポット」だけでも充分な収入を期待することができます。
(3)「定期非常勤」と「スポット」を組み合わせた働き方
「非常勤」として働きながら、間に「スポット」を入れる働き方です。安定した収入にプラスアルファの収入を得ることができますし、勤務医よりも多く自由な時間を持つことができる働き方です。
以上、3つの働き方で注目したいのが、「スポット」だけによる働き方です。フリーランス医師と聞いて多くの方がイメージするのは、組織にまったく縛られることなく「スポット」だけをこなして、大きく稼ぐ働き方ではないでしょうか。では、果たして「スポット」だけをこなすフリーランス医師は、本当に稼ぐことができるでしょうか。次にフリーランス医師の実情を解説していきたいと思います。
フリーランス医師は勤務医よりも稼ぐことができるのか?
通常、常勤医師は当直・残業・急な呼び出しなどがあり、正当な理由がない限り断ることはできません。また、組織に属していれば人間関係に悩まされることもあるでしょう。一方、フリーランス医師になれば仕事を選ぶことができ、組織の人間関係に悩まされることも少なく、体力的にも精神的にも楽になると言えます。さらに魅力的なのは収入面だと言われていますが、実際に「スポット」のみのフリーランス医師は勤務医よりも稼ぐことができるのでしょうか?
勤務医とフリーランス医師の収入について下記のようなデータがあります。
○勤務医の平均年収
1,161万円(月約96万円)
参考:厚生労働省 平成30年賃金構造基本統計調査
○「スポット」の時給相場
一般的な相場は、1万円~1万2千円程度といわれています。
参考:CareNet 医師の時給は平均1万~1万2千円
このデータを用いて年収を比較してみましょう。分かりやすくするために勤務医の平均年収を1,160万円、「スポット」の時給を1万円とします。
たとえばフリーランス医師が8時間のスポット勤務を週5日(週休2日)すると…
⇒8時間(時給1万)×5日=40万円【1週間の稼ぎ】
⇒40万円×4週=160万円【1ヶ月の稼ぎ】
⇒160万円×12ヶ月=1,920万円【年収】
簡易な計算になりますが、勤務医の年収1,160万円に対して、「スポット」のみのフリーランス医師の方が、同程度の勤務時間の場合、年収が760万以上高くなることになります(フリーランス医師は残業はなし)。もちろん、これは計算上のことであり、「スポット」を1日8時間、週に5日間コンスタントに入れることができるのかという問題もありますが、近頃は求人サイトが充実して医師の「スポット」情報が豊富なため、活用次第では決して不可能ではありません。また、時給1万円を超える「スポット」もありますので、上記より多く稼ぐことも可能です。
活躍できる条件や科目は?
フリーランスで稼ぐためには当然、時給の高い「スポット」を数多くこなすことが重要です。そのために最低限必要となってくるのは「経験」と「資格」です。
初期研修を終えたばかりの医師がフリーランス医師となり「スポット」だけで稼ぐことはまず無理です。医療機関が「スポット」に求めているのは「即戦力」であり、初期研修(2年)を経て専門医資格を取得(3年)した「卒後5年以上の医師」が最低条件となるでしょう。
一般に、内科系は常に「スポット」求人が多い傾向にあり、救急対応に強い医師も活躍しやすいでしょう。また、救急の他にも内視鏡など専門性の高いスキルが必要な「スポット」の時給は高く設定されています。さらに需要が多く時給の高い医師として挙げられるのが産科医と麻酔科医です。産科医も麻酔科医も常に人材不足で、多くの医療現場で必要とされているため、必然的に「スポット」の時給も高くなります。
○麻酔科医のフリーランスは働き方に注意が必要
一方で、フリーランスの麻酔科医が稼げる時代は終わるのではという声もあります。その理由は新専門医制度による麻酔科専門医の更新条件にあります。「麻酔科専門医の要件は、週3回の同一施設勤務の義務化」、つまり週3回は同じ施設で勤務することが麻酔科専門医を維持するために必要となり、専門医資格を維持するためには「スポット」で何ヶ所もの医療機関をはしごして稼ぐことは難しくなるからです。麻酔科医としてフリーランスで働く医師は、こうしたことも念頭に入れておくとよいでしょう。
○手術だけのフリーランス外科医は存在しない
テレビ番組で外科医のフリーランス医師が大活躍のドラマがありました。しかし、ご存知のとおり、フリーランスの外科医としてあちこちの病院で手術をバリバリこなしながら働くなどということは現実的ではありません。手術は術前準備が非常に重要で、他の医師やスタッフとの連携や術後のフォローも必要であり、手術だけをして終わりということはあり得ないからです。
フリーランス医師になるデメリット
フリーランスは確かに稼ぐことのできる働き方ですが、デメリットもあります。いくつかデメリットを挙げますので、フリーランスを考えている方は心づもりをしておきましょう。
- 常に仕事がある保証はなく、仕事が不安定になる確率が高い。
- 本人の能力で給与(時給)が上がることはまずなく、勤務時間や案件数を増やさない限り年収は上がらない。
- 勤務医であれば交通費は支給され、スキルアップのための支援体制も整っているため、金銭的負担はほとんどありません。しかし、フリーランスだと勤務先や学会に行くための交通費はもちろん、新たな技術の習得や知識を得るための費用も自己負担となります。
- 税金や保険料、年金は全額自分で支払うことになります。確定申告は必須であり、それに伴う事務作業も増えます。
稼ぐことが目的ではないフリーランス医師になるという選択
稼ぐ目的とは別に、フリーランスである大きなメリットの一つは「自分で働く時間を調節できる」ことです。ある程度キャリアを積み経済的な余裕も手に入れた後に、「趣味や自分の時間を増やしたい」「大好きな場所に移住してのんびり働きたい」などの理由でフリーランスになる医師もいます。
また、さまざまな医療機関で「スポット」として働くことで幅広い人脈を築くことができますし、手技や症例の経験を積むスキルアップを目的とした働き方もできます。特に医師不足の医療機関では幅広い対応を求められることも多く、多くの経験を積むことができるでしょう。開業医を目指す医師であれば、訪問診療や専門外の症例を広く経験でき、開業時に活かすことができるはずです。
フリーランス医師になるという選択は、稼ぐことだけが目的ではなく、新たな知識や技術の習得や人脈を築くことができるなど、医師人生を豊かにするキャリアパスの一つでもあるのです。
※こちらの記事は2019年5月24日掲載されたものです。
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