記事・インタビュー
“成功する医院開業”に豊富な実績を持つ開業支援コンサルティング会社の代表者3名が集まり座談会を開催。開業支援のプロフェッショナルの視点から成功する開業について大いに語っていただきました。
開業の実態や基礎知識から、開業準備に必要なこと、そして成功する開業のポイントにいたるまでを、【基礎編】、【準備編】、【活用編】と全3回にわたって紹介していきます。
現在、開業を考えている医師の方々はもちろん、将来、開業医を目指している医師のみなさんも必見です。
今回の第2弾は、【準備編】として、開業を失敗しないために押さえておきたい開業準備の大切なポイントをテーマにお届けします。
- 目次
<座談会メンバー>
-第2部【準備編】-
開業に失敗しないために。開業準備の大切なポイント
開業に最適な物件の条件と、良い物件を見つけるために必要なこと
― 開業準備のなか重要なことの一つに物件選びがあると思うのですが、良い物件の条件と良い物件を選ぶためのポイントを教えてください。
福井(重):開業で最も重要となるのが物件選びです。良い物件の条件とは、わかりやすくいうと「認知されやすい」場所にあること、「人の流れが多い」ところ、そして「競合が少ない」ところほど良い物件となります。
また、物件の適正スペースは標榜する診療科によって異なり、たとえば内科だったら部屋数が9つ必要で、そのためには30~40坪以上の広さが条件になるなど、この診療科なら余裕を持ってこのくらいのスペースは確保しなければならないという目安があります。さらに、家賃に関しても内科でこのエリアだったら一坪1万2千円以上は難しいなど、適正家賃というものがあり、それらを総合して物件を選んでいきます。
吉村:昔はご希望のエリアで良い物件を見つけることが容易でしたが、現在はどのエリアにも競合がいるため条件は厳しく、多くの開業に適した物件のなかから好きな物件を選ぶことができる時代ではありません。今では、こちらから良い物件を探して提案したり、開業用の物件を企画したりすることが多くなりましたね。
福井(重):そうですよね。物件を探す際には、先生からの要望を聞きながらある程度エリアを固めていくのですが、開業ラッシュによって現在は競合がいない場所というのはほとんどないのが現状です。たとえば「山手線の内側のこのエリアを希望しています」という要望があっても、競合の少ない開業に最適な物件を探すことは難しく、「ご希望のエリアではありませんが、先生に合ったこういう良い物件があります」と、こちら側から提案することが多くなっています。
福井(温):良い物件を探す際に重要となってくるのが「診療圏調査」です。診療圏調査というのは、いわゆる一般企業では市場調査といわれるものであり、診療圏(地域の患者が来院すると想定される範囲)を設定し、1日あたりどれくらいの集患が見込めるかを算出するもので、開業エリアや物件の良し悪しを判断する大切な材料となります。診療圏調査がなければ開業することはできないといっても過言ではありません。私たちが開業を支援する際に最も力を入れている一つがこの診療圏調査です。
開業準備の大きなポイントとなる診療圏調査
― 良い物件を探すためのベースとなる診療圏調査ですが、この調査によって何がわかるのかを教えてください。
福井(温):開業準備の大きなポイントとなるのが診療圏調査です。診療圏調査は、開業予定地としての良し悪しを判断する大切な材料のほか、銀行から融資を受ける際に必要となる事業計画書を作成するための重要なデータにもなります。
福井(重):この診療圏調査を元に、1日に何人、どのような患者さんが来て、1日の売上はこのくらいでという事業計画を立てていくと、損益分岐点(売上高と費用が等しくなり、損益がゼロとなるときの売上高のこと。売上高が損益分岐点を上回れば利益となり、逆に下回れば損失となる)が見えてきます。銀行は融資を判断する際、黒字化に必要な売上高を示す損益分岐点をとても重視します。参考ですが、テナント開業の場合、先生の生活費(月60万くらい)を含めた損益分岐点は、内科なら一日に必要な患者数は35人くらいです。診療科によって損益分岐点の1日の患者数は異なり、小児科は患者一人当たりの単価が約4,000円なので40人~45人。皮膚科は単価が約3,000円なので40人~50人くらいとなります。診療圏調査によって、この損益分岐点をしっかり上回る物件でなければ私たちは紹介しません。
吉村:開業の成否を決める重要な事業計画書だからこそ、その元となる診療圏調査は正確で精度の高いものでなければなりません。私たちはより正確な診療圏調査のために実際に現場に足を運んで調査をしています。それだけ診療圏調査というのは開業準備に非常に重要なものなのです。
“現場主義”による、正確で精度の高い診療圏調査
― より正確で、精度の高い診療圏調査を実施するために、どのような調査を行っているのでしょうか。
福井(温):診療圏調査は、たとえば半径1キロという診療圏を設定し、そのなかの人口や、競合がどれだけいるのかを調べ、厚生労働省が出している患者受療率を参照に、この診療圏では内科は何人くらい、整形外科は何人くらいという推定患者数などを算出していきます。そして私たち3社はこうしたデータの他に、現場に実際に足を運び、住民に聞き取り調査を行っていることが特徴です。現場を実際に歩き、住民の生の声を聞くことで、さまざまな情報を得ることができ、より正確で精度の高い診療圏調査を実現しています。
福井(重):実際に現地に足を運ぶことはとても重要です。この物件のある場所は坂を上がらなければならない高台エリアだったとか、川や線路で人の流れの導線が遮られてしまっているなど、実際に歩いて初めてわかることが多々あります。
福井(温):住民への聞き取り調査では、競合や医療ニーズのことなどを中心にヒアリングをしています。診療圏内の住民に対して満遍なく行い、最低30人、多いときには80人ほどの住民にヒアリングをしています。競合の実態を把握することは重要であり、院長のこと、看護師の数、スタッフの数、待合室の雰囲気、後継者がいるかどうかなどを住民へのヒアリングや、実際に競合クリニックに行くなどして詳しく調べます。
吉村:いまや競合なしで開業できる場所はほとんどありません。そこで重要となってくるのが競合との差別化であり、私たちは診療圏調査によってその戦略をつくることも重要な仕事となります。わかりやすくいうと、「競合相手の駐車場が3台だったら、こちらは駐車場を広くして駐車台数を多くしよう」、「競合は内視鏡の上部しかやっていないから、こちらは下部もやろう」というように、いろんな差別化の方法があります。診療圏調査は競合の実態をしっかり把握し、差別化を図るための重要な資料にもなります。
診療圏調査は、広告戦略にとっても重要なデータとなる
― 開業するにあたって集患のための広告戦略も重要となってきますが、診療圏調査は効果的な広告戦略にも重要なデータとなるのでしょうか? また、広告戦略のポイントについても教えてください。
吉村:診療圏調査では、診療圏内にある駅看板、電柱看板など、あらゆる広告もチェックします。集患に大切な広告展開も、診療圏調査に基づいて戦略を立てなければ広告効果が期待できません。場所によって効果のある広告の出し方というのがあり、たとえば、駅前だったら駅前看板、郊外であれば基幹道路の大きな看板、住宅街であれば車や歩行者の多い導線に優れた場所にある電柱看板などです。しかし、その多くがすでに競合に押さえられていることも多く、そのなかでもどこを確保したらよいのかなど、診療圏調査を元に広告戦略の的確なアドバイスをしています。
福井(温):車内広告は美容整形などを除いてまず出さないですね。やはり駅、道路、電柱など地域に根付いた場所に広告を出すのが効果的です。
吉村:それと開業の準備としてホームページの開設は必須です。
福井(重):ご高齢の患者さんはあまりインターネットをみませんが、ご家族は必ず見ています。ホームページをみてこのクリニックに診てもらおうと決める方は非常に多いです。ホームページの開設も開業する上で大切な準備となります。
福井(温):広告には看板や、新聞折り込みのチラシ、パンフレットなどいろいろなカタチがありますが、ホームページという核があってこそ、そうした広告も活かすことができるんです。
吉村:そして重要なのがブログを書くことです。ブログというのは住民にとって先生の普段考えていることや、人間的な魅力も知ることができる大切な情報源であり、住民との距離を縮める重要なものとなるため集患に大きな効果をもたらすことができます。
開業は、パートナーやご家族の共同作業である
― より正確で、精度の高い診療圏調査を実現させるために“現場主義”に基づいた調査を実施しているということですが、やはり開業する先生も実際に現場を歩いて確認することが必要でしょうか?
吉村:診療圏調査では、実際に現場に赴き、歩いて確認するというのは私たちにとっては当たり前のことなのですが、やはり先生方にも実際に自分が開業しようとしている診療圏を歩いて確認してほしいですよね。
福井(重):できればパートナーやご家族と一緒に歩いてほしいと思いますし、私たちは実際にそうしてくださいと言っています。
福井(温):開業は結婚していれば夫婦の共同事業です。これははっきり認識しておいたほうがいいと思います。パートナーが反対していたら開業準備は決して上手くいきませんし、開業そのものが白紙になってしまうこともあります。
吉村:都心部で滅多にみつからない競合の少ない良い物件が見つかり、いよいよ開業準備を前に進めていきましょうというとき、パートナーからの反対でストップしてしまい、説得した頃には物件が他にわたってチャンスを逃してしまった先生もいます。そうならないために、私たちはパートナーの方やご家族とも会ってしっかりお話をしています。
福井(重):やはり、開業は銀行から融資を受けるなど、大きなお金がからんできますし、経営者にもなるわけですから、身内の方が心配するのは当然です。何かあったら自分たちが責任を被る可能性もありますからね。私たちはパートナーやご家族にも開業をご理解、納得していただけるよう、診療圏調査の結果や事業計画書を用いてしっかり説明しています。パートナーやご家族は実際に開業準備を進めるためのキーパーソンなんです。
福井 重雄、福井 温彦、吉村 磯孝
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