記事・インタビュー

2018.08.21

“STRONG for Surgery” 前編 地域外科医療問題への独自の試みと若手外科医育成を目指して

医学部臨床実習生外科学講座一同と外科に魅力をもった医学部臨床実習生 近影(当講座HPより)

宮崎県の医療をリードする若手外科医を積極的に育成する取り組みの前編をご紹介します。

新たな歴史の扉を開く外科学講座

宮崎大学医学部

2015年4月、宮崎大学医学部外科学講座は第一外科と第二外科が統合し、一つの大講座としてスタート。翌年には合同の外科同門会が発足しました。この大講座制は宮崎大学医学部が厳しい地域医療の打開策とした方針であり、私たちは旧来のナンバー外科間のわだかまりを捨て、そして多くの障害を乗り越え、宮崎県外科医療が一丸となって、5年後、10年後その先の明るい未来に向けて邁進しています。
若手医師の新専門医制度への対応を見据え、高度な外科医療のビルドアップと宮崎県地域医療の充実を目指しています。

全ての外科が一つに集結した大講座

5つの分野(心臓血管外科、肝胆膵外科、形成外科、呼吸器・乳腺外科、消化管・内分泌・小児外科)

講座は5つの分野(心臓血管外科、肝胆膵外科、形成外科、呼吸器・乳腺外科、消化管・内分泌・小児外科)から組織され、それぞれ診療科長がグループを率いますが、講座全体は医学部主任教授の二人で管理しています。

一つの講座として生まれ変わったことにより、旧第一、第二外科での「良くない意味でのライバル視」や「入局者の奪い合い」などの無用な弊害も無くなり、団結したチームワーク力とトップ二人の良好な関係から、県内でも大学の成功モデルと評価されています。学生間でも「外科の雰囲気はいいですね!」と評判も良く、学生から若手研修医、患者紹介する先生方にも、非常にわかりやすい組織となりました。

5分野の専門性も向上

TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)

心臓血管外科
再編後導入されたHybrid手術室を駆使し、迅速確実な血管内ステント治療やTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)を発展させ、大動脈解離や破裂での救命率と高齢者大動脈弁疾患の治療率を格段に向上させてきました。新たなステント開発の産学合同研究を獣医学部と進めています。

肝胆膵外科
消化器外科を目指す医師が肝胆膵外科も研鑽を積む機会が増えてきました。新講座発足からさらなる拡大手術を目指し血管合併切除再建を伴う進行癌治療に着手し、その一方で侵襲性の少ない鏡視下肝膵手術の症例を増やしています。光線力学療法(PDT)の基礎研究、臨床試験そして近い将来の保健収載に向けての多施設連携を計画し、独自の専門性を高めています。

形成外科
新たに2015年より開設されました。形成外科専門医となるためのすべての疾患を経験することが可能です。新専門医制度では、東京女子医科大学形成外科の連携施設となって形成外科専門医取得が可能です。今後は、宮崎大学独自の研修プログラムを作成し、日本専門医機構基幹施設登録を目標にしています。より難易度が高く稀な疾患・病態に対する治療頻度が高いのも特徴です。包括的な体表外科、微小血管吻合技術を用いた再建、多種多彩な創傷への対応、熱傷治療の地域貢献、再生医療研究への取り組みがテーマです。学生、若手医師の注目度No1です。

呼吸器・乳腺外科
講座再編の後、呼吸器外科では癌医療に精通した積極性ある専門医が二人も他施設から加わり、また新たに呼吸器外科を目指す若手が入局してきました。VATSなどすでにある高い技術と数多くの論文業績が一層高まり専門性の向上が明らかです。乳腺外科は県内様々な地域の患者、特に高齢者の救いとなって、専門医を取得した医師が孤軍奮闘しています。形成外科の協力で乳房切除後のインプラント再建の環境が整い症例が増えています。

消化管・内分泌・小児外科
消化管外科は広い範囲ですが、講座再編によって旧来の外科医が協力し最も成果が発揮できた分野です。救急疾患や炎症性腸疾患の急性期対応は大学に集中し若手医師は多くの症例が経験できるようになりました。また他施設から食道専門医が加わり、食道癌手術が九州で1-2位を争う症例数に達しました。
甲状腺外科では鏡視下手術の専門施設になり県内の患者が集中しています。小児外科は鹿児島大学の派遣ですが、県立病院と良好な連携を図り、特に新生児の難治性、救急疾患に専門性を発揮しています。

高度な緊急手術にも対応できるチームを確立

Acute care surgery

“Acute care surgery”や”外傷外科”といいますが、大講座になったことから高度な緊急手術を必要とする急性疾患や高エネルギー胸腹部外傷に対してもチームを確立し、患者救命と機能改善が向上し、多発臓器外傷に対しても分野間の連携・協力で速やかに対応している全国でも数少ない大学病院です。受け入れ数も増加と重症例の集約が進んでいます。救急外科や外傷外科の講習(JATEC、SSTTなど)を積極的に行い、専門医育成にも力を注いでいます。救急領域でDamage Controlなど手術治療を行えるのは外科医のみなのです。外科コマンダーを筆頭に重症外傷症例にいつでも速やかかつ適切な診療を提供しています。

Q. 働き方やワークライフバランスに理解はありますか?

外科医ですから時間を惜しまず患者のために働くことや、より人口の少ない地域の病院に勤務する必要はあります。しかし不必要に職場にいることや長く望まない職場に勤める事は推奨しません。休むときは徹底して休む、お互いが健康や家庭環境に気づかい、余裕を持った長生きできる外科医人生を歩んでほしいと考えます。大学を中心に大講座の中で常に医局員の状況を把握するよう努めていますが、特に女性医師の職場環境を改善することに中村教授が苦心しています。
これから女性外科医師は必ず必要ですし、男女共同参画やワークライフバランスも大きなテーマだと講座全体で認識しています。出産の時期などに手技が低下することや後れを取ることはなく、逆に発奮して頑張る女性医師たちがよいモデルケースになっています。

Q. 大講座制は良かったか?

今のところ“良かった!”ということしかありません。外科の方針は合議を重要視しているので、一つのことを決めるのにやや手間はかかりますが、毎週の合同カンファレンスや毎月の合同会議などで綿密な講座の運営が図れています。
医局員全員が連携協調することで年々手術数や業績もアップし、学生・研修医・第三者からも好印象をうけています。

外科講座再編により専門性はより高まり、
病院全体や県内各医療機関との連携もよりよく発展しています!地域医療の良いモデルケースを目指すことができました。

MIYAZAKI STRONG for Surgery(宮崎の外科、頑張ろう!)

宮崎大学外科学講座は、まだまだ新しい組織ですが着実にビルドアップしている外科医育成に恵まれた環境と心意気がみなぎっています。2015年バージョンの『MANGOU(Miyazaki Advanced New General surgery Of University 明日に新しく羽ばたく宮崎大学の総合的外科)』のロゴに加え、2017年末からの『MIYAZAKI STRONG for Surgery(宮崎の外科、頑張ろう!)』(下図)

MIYAZAKI STRONG

“MANGOU” “STRONG”という新たなロゴを共有し、前向きな強い気持ちで困難に立ち向かっています。厳しい地域外科医療にある宮崎県の外科医療者にも勇気を与え、高い志と強い気持ちで困難に立ち向かう合言葉なのです。

<問い合わせ先>宮崎大学医学部外科学講座

▶ 電話番号 0985-85-2808(肝胆膵外科)、0985-85-2291(心臓血管外科)、
0985-85-9786(形成外科)
▶ ホームページ http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/surgery/
▶ お問い合わせ http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/surgery/contact.html
▶ facebook https://www.facebook.com/miyazaki.surgery1/

<執筆者プロフィール>

七島 篤志(ななしま・あつし)

七島 篤志(ななしま・あつし)

長崎県出身。1988年 宮崎医科大学卒業。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会、日本肝胆膵外科学会、日本胆道学会、日本内視鏡外科学会、日本Acute Care Surgery学会などの専門医、指導医、高度技能指導医および評議員、米国外科学会(American College of Surgeons)フェロー

中村 都英(なかむら くにひで)

中村 都英(なかむら くにひで)

佐賀県出身。1981 年、宮崎医科大学卒業、宮崎医科大学第二外科入局。日本血管外科学会、日本外科学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本循環器学会、日本脈管学会などの専門医、指導医、評議員

七島 篤志、中村 都英

“STRONG for Surgery” 前編 地域外科医療問題への独自の試みと若手外科医育成を目指して

一覧へ戻る