記事・インタビュー
東海大学医学部 内科講師
総合内科専門医、感染症専門医
米国内科学界上級会員
柳 秀高
2013年の「常識の非常識」をたかせクリニックの高瀬義昌先生と交代で執筆する東海大学総合内科の柳です。今後、感染症を中心にしたコラムをお送りします。
黄色ブドウ球菌菌血症SABの治療期間は以下のような条件、合併症が1つでもあれば(complicated SAB)血液培養陰性後4〜8週間(ドレナージ不可能な膿瘍や慢性骨髄炎があれば、それ以上)です。カテーテルなど抜去可能な異物に関連するSABで異物を抜去すれば、下記の条件が無いことを確認した上で(uncomplicated SAB)2週間でも良いのです(1)。
SABにおける合併症
1 心内膜炎
2 異物(人工弁、心臓ペースメーカー、植込み型除細動器、人工関節)
3 抗菌薬開始後2〜4日のフォローアップの血液培養検査で陽性
4 72時間たっても熱が続く
5 深部膿瘍、骨髄炎、敗血症性血栓塞栓症などの合併症
これらの推奨は無作為化比較試験に基づいたものではなく、主にケースシリーズなどを根拠にしたエキスパートオピニオンで、これらの推奨を感染症コンサルタントが行うことが低い死亡率と関連していたという報告があります(2)。
黄色ブドウ球菌が血液培養で生えた場合、感染性心内膜炎を筆頭に骨髄炎、深部膿瘍、敗血症性血栓症などの合併症が起こる可能性は高いのです。特に心臓ペースメーカーなどの入っている患者でSABが起こった場合に、これら異物に感染する確率は45%にもなるとの報告があります(3)。適切な抗菌薬に加えて、異物があれば抜去し、膿瘍があればドレナージするのがSAB治療の基本です。膿瘍、骨髄炎や心内膜炎が無くても血液培養陽性が続けばcomplicated SAB として分類されることに注意が必要です。
筆者の周辺でしばしば起こる間違いは、CRPが陰性化したので、合併症の有無を確認せずに抗菌薬を中止した結果、再発するというものです。もともとスタスタ歩いていたのに、再発した時には硬膜外膿瘍のために対麻痺で歩けなくなったケースも経験しました。CRPを血流感染の治療期間決定のために用いることは非常識で、実際に周囲で起こっているのをみると心配です。もちろん血流感染に限らず、公式にCRPで治療期間を決定することが認められている感染症というのは存在しません(と思います)。血液培養から細菌が生えたら感受性のある抗菌薬を、熱とCRPと白血球が下がるまで投与すればいいのでは、と考えている医師も存在するようで、特にSABでは危険なことなのです。
MRSAによる血流感染でバンコマイシンに対するMICが2以上であればバンコマイシン以外の選択肢にするべきか? とか、アミノグリコシド、リファンピシンは併用した方が良いのか?、なども重要な問題ではありますが、上記のように血液培養のフォローや合併症の検索などの基本的なところが大事なのです。SAB患者341人の死亡と関連する因子を前向きに検討したコホート研究(2)では重症、高齢者、肝硬変などが死亡率増加と関連していましたが、感染症コンサルテーションは死亡に対してプロテクティブに働きました(表)。上記のような常識的なチェックポイントに抜けがなくなることが予後の改善に役立っていると思われます。

参考文献
(1)Liu C, Bayer A, Cosgrove SE, et al. Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America for the Treatment of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Infections in Adults and Children. CID 2011;52(3):e18-e55.
(2)Honda H, Krauss, MJ, Jones JC, et al. The value of infectious diseases consultation in Staphylococcus aureus bacteremia. Am J Med. 2010;123(7):631-7.
(3)Chamis AL, Peterson GE, Cabell CH. Staphylococcus aureus bacteremia in patients with permanent pacemakers or implantable cardioverter-defibrillators. Staphylococcus aureus bacteremia in patients with permanent pacemakers or implantable cardioverter-de brillators.
Circulation. 2001;104(9):1029.
※ドクターズマガジン2013年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
柳 秀高
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