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2026.02.18

書評『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』

民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。

医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。

レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)

書評『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』

「抄読会で論文を読むことになったけど、何が分からないのかすら分からない…」
専攻医になりたての頃、そんな状態でネットを調べながらスライドを作っていた記憶があります。研究デザインって何? Inclusion criteriaって何を見ればいいの? P値が0.05以下だったらとりあえずOK?
普通に医学部を出て臨床医になった私たちは、論文の読み方について系統だった教育を受けたことがありません。そんな『独学で戦うしかない』状況を救ってくれるのが、本書『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』です。

僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。〜論文をどう読んでどう考えるか
僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。〜論文をどう読んでどう考えるか
後藤 匡啓 (著), 長谷川 耕平 (監修)
出版社:羊土社
価格:3,960円(税込)
発刊:2021/4/22
ページ数: 310ページ
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書評『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』
    1. 1.本書のターゲット層と読了時間
    2. 2.本書の特徴
    3. 3.個人的総評
    4. 4.おすすめの使い方・読み進め方
    5. 5.まとめ

1.本書のターゲット層と読了時間

【ターゲット層】
抄読会を担当することになった研修医・専攻医、これから臨床研究や論文執筆に挑戦しようとしている若手医師、「なんとなく」で論文を読んできたが体系的に学び直したい中堅医師、臨床研究の指導をする立場の医師

【推定読了時間】
310ページを通読するなら約7〜8時間。
気になる項目だけを拾い読みするなら、1〜2時間で実践的なエッセンスを吸収できます。ただし、本書の真価は「何度も読み返すこと」で発揮されます。

2.本書の特徴

本書を一言で表すなら、「紙面上に臨床研究の指導医がいてくれる感じ」です。

【本書の特徴】

① 難易度別の★評価で、自分のレベルに合わせて読める
各項目に★1つから★5つまでの難易度が振られており、初学者は★1〜2から、経験者は★4〜5から読み進めることができます。

② 研究目的・デザインを端的に分類
観察研究と介入研究の違い、コホート研究とケースコントロール研究の使い分けなど、研究デザインの基本を明快に整理。

③ 統計は必要最小限、でも『かゆいところ』に手が届く
P値の解釈、信頼区間の読み方、交絡因子の調整など、論文を読む上で本当に必要な統計知識を厳選。

④ イラストが秀逸
複雑な概念も視覚的に理解できるイラストが豊富。研究デザインの違いやバイアスの種類など、文章だけでは分かりにくい内容もスッと頭に入ってきます。

⑤ 「なんとなく」を言語化してくれる
「なんとなくこうかな」とやっていたことが、本書ではしっかり明示されています。

3.個人的総評

私はこの本を、人生の3つのフェーズで読みました。そのたびに、違う発見がありました。

フェーズ1:専攻1年目、抄読会で途方に暮れていた時
この本を手に取ったのは、専攻1年目の時でした。抄読会が始まり、ネットで調べながら自分なりにスライドを作っていたものの、よく分からない。結局、「そもそもなんで論文がうまく読めないのか」すら分からない状態でした。
そんな時、第1章の「論文を読む前に知っておきたいこと」がめちゃくちゃ刺さりました。研究デザインの分類、Inclusion criteriaの見方、アウトカムの設定の意味——これらを知った上で論文を読み返すと、「あ、これはそういうことだったのか」と腑に落ちる瞬間が何度もありました。

フェーズ2:論文を書こうとして、壁にぶつかった時
その後、しばらくは「論文を読む」ことに満足していました。抄読会でも、それなりにコメントできるようになった気がしていました。ところが、いざ自分でOriginal Articleを書こうとすると、本当に書けませんでした。
特に痛感したのが、研究デザインの選択です。「後ろ向きコホート研究でいこう」と漠然と考えていたものの、指導医に「なぜケースコントロール研究ではなくコホート研究なのか」と聞かれた瞬間、何も答えられませんでした。
慌てて本書の研究デザインの章を読み返しました。すると、これまで抄読会で「なんとなく」読み飛ばしていたMethodsのセクションが、実は論文の骨格そのものだったことに気づきました。「この研究はなぜこのデザインを選んだのか」「このアウトカム設定にはどういう意図があるのか」。本書で学んだ視点で他の論文のMethodsを読み直すと、著者の研究設計の意図が手に取るように分かるようになりました。
先生に何度も指導していただきながら、何とか論文を形にすることができましたが、この経験を通じて「論文を読む力」と「論文を書く力」は地続きなのだと実感しました。

フェーズ3:大学院進学を控えて、読み返した時
来年度から大学院に進学することが決まり、本棚に入っていたこの本を改めて手に取りました。すると、以前はスッと読み飛ばしていた「★★★★★」の項目や「研究を志す人は」というセクションが、驚くほど深く理解できるようになっていました。
結局、同じ一冊でも、読む時期によって得られるものが全然違うのです。

4.おすすめの使い方・読み進め方

①まずは目次で「今の自分の壁」を探す
論文を読む時、論文を書こうとしている時、必ずどこかでつまずいているはずです。目次を眺めて、「これ、まさに今困っている」という項目から読み始めてください。

②抄読会の前に該当箇所をサッと確認
「今度の抄読会はRCTだな」と分かったら、RCTの読み方の項目を事前にチェック。スライド作成がぐっと楽になります。

③★評価を活用して、成長を実感する
最初は★1〜2の項目しか理解できなくても大丈夫。論文を読む経験を積むにつれて、★3、★4、★5と理解できる範囲が広がっていきます。

④人生のフェーズが変わったら、また開く
専攻医として論文を読む時、論文を書く時、大学院に進学する時、指導医として後輩を教える時——それぞれのフェーズで読み返すと、必ず新しい発見があります。一冊で何度もおいしい、そんな本です。

5.まとめ

『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』は、論文の読み方を独学で戦う私たちにとって、紙面上の指導医のような存在です。
抄読会を担当する研修医・専攻医はもちろん、これから論文を書こうとしている若手医師、そして指導する立場の医師にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
一度読んで終わりではなく、人生のフェーズごとに何度も読み返す。そうすることで、同じ一冊から何度も学びを得られる——そんな稀有な医学書だと思います。

 

星評価

<プロフィール>

三谷 雄己先生

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生

広島大学救急集中治療医学
救急科専門医 集中治療科専門医
JATEC・ICLSインストラクター

信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることを心掛けております。『踊る救急医』というSNSアカウントで医学の学びやライフハックを発信しています。「Qラボ」という救急をみんなで学べるオンラインコミュニティーをしており、レクチャー動画や救急のスライドを公式ラインで配信しているので、良かったら一緒に救急を学びましょう。

【踊る救急医】
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三谷 雄己【踊る救急医】

書評『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』

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