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2025.08.08

書評『抗菌薬の考え方、使い方 ver.5 コロナの時代の差異』その抗菌薬、なぜ選びましたか?

民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。

医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。

レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)

書評『抗菌薬の考え方、使い方 ver.5 コロナの時代の差異』その抗菌薬、なぜ選びましたか?

COVID-19パンデミックで激変した臨床現場。これは私自身、非常に強く感じましたが、今後のアフターコロナの時代は感染症治療について、より根本的な学び直しや知識の深化が問われていると思います。
そんな中、多剤耐性菌の台頭や新規抗菌薬の登場で、処方の“当たり前”は毎年アップデートされています。とはいえ多忙な臨床現場で最新トレンドを追い続けるのは至難の業――そんなモヤモヤを一刀両断してくれるのが 岩田健太郎先生 による名著『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』です。

本書は「ハウツー」だけで終わらず、なぜその薬が選ばれるのかを ねちっこく 深掘り。
“型”に頼らない思考回路を養うことで、コロナ禍後の臨床に強い武器を授けてくれます。この記事では初期研修医はもちろん、ベテラン医師まで参考になる視点で本書をレビューします。

抗菌薬の考え方,使い方 ver.5 コロナの時代の差異
抗菌薬の考え方、使い方 ver.5 コロナの時代の差異
著者:岩田健太郎
出版社:中外医学社
価格:4,400円(税込)
発刊:2022/3/25
版型・頁数:A5判 586頁
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書評『抗菌薬の考え方、使い方 ver.5 コロナの時代の差異』
    1. 1.本書のターゲット層と読了時間
    2. 2.本書の特徴
    3. 3.個人的総評
    4. 4.おすすめの使い方・読み進め方
    5. 5.まとめ

1.本書のターゲット層と読了時間

【ターゲット層】
医学生、初期研修医、総合診療医、感染症コンサルを目指す専攻医、薬剤師、看護師、臨床検査技師

【推定読了時間】
ざっと通読:約10時間
気になる章を拾い読み:2〜3時間

2.本書の特徴

【本書の特徴】
●抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬などを “岩田節” で一刀両断。メリット/デメリットを臨床目線でジャッジ
●コロナ禍の時代で進んだトレンドを総ざらい
●「考え方」 にフォーカス――アルゴリズム暗記ではなく、症例に応じて薬を“選び替える”ロジックを解説
●講義を聞いているような軽快な語り口で トリビア も豊富。飲み会で話したくなるようなネタで知識定着を後押し
●総論→各論の二層構造。総論で“掟”を掴んだら各論は興味ある薬の項目からつまみ食いOK

3.個人的総評

「抗菌薬は“使い方”より“考え方”が9割」
そんなメッセージが骨の髄まで響く一冊でした。
まず、冒頭のまえがきからして圧巻です。コロナ禍で医療者が感じた混乱や焦りをユーモアと皮肉を交えて振り返りつつ、「結局は考えることを止めるな」と熱く鼓舞してくれる。その語り口に引き込まれ、読者は自然と“学び直しモード”にスイッチが入ります。ページを進めるにつれ、抗菌薬名が羅列された表ではなく物語として頭に残る。そんな不思議な読書体験が得られました。

各論は単なる最新情報の寄せ集めではありません。「なぜ効くのか」「なぜ効かなくなるのか」というメカニズム→臨床応用→反省点の三段ロジックが骨太で、読後には「適正使用を語れない処方は怖くて出せない」と思うほど思考が鍛えられます。ICUレジデント時代のカンファレンスでの炎上やご指導が思い出されます…笑

一方で586ページという文量は決して簡単に読了はできません。ですが、総論を一読した後は「今日はβラクタム」「明日はマクロライド」といった具合に 気になる章をスナック感覚 でつまむことができる構成のため、分厚さほどの心理的ハードルは生じません。

実際、私は30〜40ページずつ読み進めましたが、得た知識を臨床現場でと即アウトプットする機会に何度も恵まれ、学習効率の高さを実感しました。
総じて、本書は生涯学習の相棒と呼ぶに値する一冊です。感染症の奥深さと学びの楽しさを思い出させてくれるだけでなく、「考える力」をメンテナンスするワークアウトブックとして、今後も手元に置き続けたいと感じました。

星評価

4.おすすめの使い方・読み進め方

まずは総論にあたる「掟」の章を一度しっかり読み込み、岩田先生が提唱する抗菌薬選択の“軸”を頭にインストールすることをおすすめします。ここを押さえておくと、各論の理解度が段違いに上がります。
その後は、日常診療で処方した薬や感染症カンファレンスで話題に上がった薬剤を取り上げ、該当ページをその日のうちに復習すると知識が臨床と直結して定着しやすくなります。時間がないときは索引から直接ページを開き、要点をかみ砕いて読むだけでも十分に価値があります。
カンファレンス前や後輩指導の前には“トリビア”部分を流し読みしておくだけで、プレゼンに説得力とちょっとしたユーモアが加わり、聞き手へのインパクトも倍増します。ちょっとずるい使い方かもしれませんね…笑

まとめると、総論を一気に読んで骨格を作り、各論はケースに応じてスナック感覚でつまむ――これが無理なく長く使い倒すコツだと感じました。

5.まとめ

本書は「この抗菌薬は●●に効く」だけでなく、“なぜそう選ぶか”を考え続ける姿勢を養う最高のトレーニングブックです。
コロナ禍で抗菌薬使用が雑になりがちな今だからこそ、ロジックを武器にしたい医療者に強く推奨します。
ほかにもレビュー記事を順次アップしていますので、ぜひ民間医局コネクトサイト内を巡回してみてください!

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<プロフィール>

三谷 雄己先生

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター

立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。


【踊る救急医】
X https://x.com/houseloveryuki
ブログ https://dancing-doctor.com/

三谷 雄己【踊る救急医】

書評『抗菌薬の考え方、使い方 ver.5 コロナの時代の差異』その抗菌薬、なぜ選びましたか?

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