記事・インタビュー
民間医局コネクト編集部です。民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
今回は、『みんなの急性期リハビリテーション・栄養療法』を、著者の三谷 雄己先生に紹介いただきます。
著者解説
今回のテーマは、ICUやHCUをはじめとした急性期病棟でのリハビリテーションと栄養療法です。重症患者さんのリハビリや栄養に関しては、すでに多くのガイドラインや成書があるものの、専門的な用語や理論が中心となり、初学者や多職種にとってハードルが高いと感じる部分も少なくありません。私自身、救急科専攻医として現場でリハや栄養療法を学ぶ際、書籍だけでは断片的な知識にとどまりがちで、「急性期の患者さんに対して、どう安全かつ効率的にリハビリや栄養療法を行えばいいのか」をまとめて学べる機会があまりありませんでした。
そこで本書では、神戸大学 災害救急医学分野の中西信人先生と協力し、一貫した流れのなかで楽しく学べる構成をめざしました。中西先生は、重症患者リハビリテーションガイドラインや敗血症ガイドライン、重症患者栄養療法ガイドラインなどの作成にも携わっておられる、この領域のスペシャリストです。執筆を通じて、私自身も多くの学びを得ることができました。さらに、なるべく読みやすいように文体を整え、共著の強みを活かしながら、単著に近いスムーズな文章の流れを実現しています。本書は、ICUやHCUをはじめとした急性期病棟でリハビリテーションや栄養療法に携わる“みんな”が、最新のガイドラインやエビデンスをもとに、実際の臨床現場でどのように活かしていけばいいのかをわかりやすく学べるように作成しました。リハビリや栄養には専門用語が多く、はじめは難しく感じるかもしれませんが、まずは全体をざっくりと読み通してみてください。忙しくてじっくり読む時間がない方は、興味のある章からスタートしても大丈夫です。一連の流れを追ううちに、自然と全体像がつかめるようになるはずです。
リハビリや栄養を初めて学ぶときは、細かな疑問が次々と出てきて戸惑うこともあるかもしれませんが、本書では重要なポイントを章ごとに丁寧に解説しています。もし「ここはよくわからない……」と思うところがあっても、まずは先へ進んでみましょう。大切な内容は繰り返し登場しますし、あとで「なるほど、そういうことだったのか」と納得できる場面がきっと出てきます。1周、2周、3周と繰り返し読んでいただくことで、理解がより深まるはずです。
最後に、読者となる各職種・立場の方々に向けたメッセージをお届けします。
【医療系学生】
急性期リハビリテーションや栄養療法のプロトコールは、はじめは難しく感じるかもしれません。まずは「急性期の患者さんがどんな経過をたどるのか」「なぜリハビリと栄養が重要なのか」という大きな流れをつかんでください。国家試験や実習で役立つ基礎知識がぎゅっと詰まっていますので、図やイラストを眺めるだけでも十分な学びになるはずです。
【初期研修医1年目】
ICUやHCUの患者を担当する機会は多くないかもしれませんが、いざ配属されると専門性の高いチーム医療に戸惑うこともあるでしょう。まずは離床や栄養に関する基本的なキーワードやプロトコールをざっくりつかんでみてください。先輩と患者さんをめぐるやり取りを疑似体験できるような構成になっていますので、会話の中から知識を拾っていただければと思います。
【初期研修医2年目】
急性期リハビリや栄養療法の基本を理解したら、今度は自分が担当医として指揮をとる立場で読んでみましょう。実際の症例を想定しながら「いつ離床を始めるのか」「目標にする栄養量はどれくらいか」など、自分ならどう判断するかをイメージしてみることで、より実践的な知識が身につきます。
【専攻医(後期研修医)や指導医の先生方】
専門診療科での学びが進むにつれ、高度な病態生理や最新ガイドラインに基づいた治療方針を意識する機会が増えると思います。本書では重症患者リハビリテーションや栄養療法の最新エビデンスを平易な言葉で噛み砕いて解説していますので、患者さんごとの個別性が高い場面でも活用いただけるでしょう。後輩指導のヒントもたくさん盛り込んでいますので、ぜひお役立てください。
【リハビリスタッフ(PT・OT・STなど)】
急性期リハビリでは安全管理とリスク評価がとても重要です。本書では早期離床のプロトコールや人工呼吸器を装着した患者さんへのリハビリなど、現場ですぐに使えるポイントを多数掲載しました。医師や看護師の考え方を知り、チーム連携を深めることで、患者さんのQOL向上に大きく貢献できるはずです。
【看護師】
急性期病棟の看護師は24 時間体制で患者さんをケアし、リハビリスタッフとの連携も多岐にわたります。本書で紹介している「いま患者さんに必要なリハビリや栄養サポートはどれか」という視点を身に付けることで、多職種との情報共有がよりスムーズになるでしょう。
【薬剤師】
急性期の薬物療法は、患者さんの栄養状態やリハビリ段階によって計画が変わることも珍しくありません。本書を活用してリハや栄養の基本を理解し、薬剤設計やモニタリングに反映させることで、チームの中でもより幅広い提案が可能になるでしょう。
【管理栄養士】
急性期において、栄養状態の最適化はリハビリの効果にも大きく影響します。本書では、プロテインやカロリーの目標設定だけでなく、嚥下機能やリハの進捗に合わせた食事形態の見直しなど、管理栄養士が押さえておきたいポイントも具体的に解説しています。医師やリハスタッフとの連携にもぜひお役立てください。
目次
序章 総論
1 PICS,ICU—AWってなんですか?
2 急性期リハビリテーション・栄養療法ってなんのこと?
3 ガイドラインってどのように紐解けばいい?
第1章 リハビリ
1 身体機能評価って,まずは何から始めたらいいの?
2 早期リハと急性期リハって何が違うの? 早期離床ってそんなに大切?
3 リハビリテーションの強度は,何を参考に決めたらいい?
4 安全にリハビリするための開始基準は?
5 これ以上は危険? リハビリを中断すべき中止基準とは?
6 患者ごとに最適なリハビリの量と質はどう判断する?
7 EMS(神経筋電気刺激療法)ってどうやって使えばいいの?
8 ICUでサイクリングできる? エルゴメーターって何?
9 他にもリハビリ機器ってどんなものがあるの?
10 呼吸リハって何?
11 急性期の作業療法とは?
12 嚥下リハとは?
13 リハビリにも薬剤の知識が必要?
14 小児リハとは?
15 ICU退室後には,どんなリハビリが必要?
第2章 栄養
1 栄養状態の評価ってどうやるの?
2 急性期栄養療法って何?
3 どうすれば重症患者にも早期から経腸栄養を始められますか?
4 早期経腸栄養を注意すべき場合とは?
5 カロリーの投与量ってどうやって決めたらいいの?
6 急性期のタンパク質投与量はどれくらいが最適?
7 点滴から栄養を投与するべき状況ってどんなとき?
8 栄養剤で免疫機能を活性化させられるって,本当?
9 急性期治療にも注目すべきビタミンって何がありますか?
10 微量元素ってどうして大事なんですか?
11 急性期にも意識したい,腸内細菌叢を整えるプレ・プロ・シンバイオティクスとは?
12 小児の栄養療法の基本は成人と異なるの?
13 ICU退室後の栄養療法は何に気をつける?
<著者プロフィール>
中西信人(なかにし・のぶと)
三重県生まれ三重育ち。救急集中治療専門医として日々重症な患者さんの治療を担当している。特に急性期のリハビリ・栄養療法が専門である。2016年から現在まで継続して「筋萎縮ゼロプロジェクト」のクラウドファンディングを行っている。急性期の筋萎縮の原因、評価、治療に関する基礎研究、臨床研究を行っており、2023年にはオーストリア、ウィーンのボルツマン研究所に留学して筋萎縮の国際研究グループを立ち上げて、現在も日々研究に奮闘している。数多くの論文を出版し、著書として2024年に『誰でもできる筋肉評価』も出版している。
2013年徳島大学医学部卒業。2014年伊勢赤十字病院 研修医。2016年徳島大学医学部・大学院救急集中治療医学分野。2021年神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野
[主な受賞歴]
2021年2月 日本集中治療医学会 優秀論文賞
2022年3月 日本集中治療医学会 奨励賞
2022年5月 第36回日本Shock学会学術集会 会長賞
[学会活動]
日本集中治療医学会 PICS対策・生活の質改善検討委員会
日本集中治療医学会 集中治療リハビリテーション委員会
日本集中治療医学会 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン検討委員会
日本救急医学会 敗血症合同活動委員会
[専門医]
救急科専門医、集中治療科専門医、日本離床学会認定指導医
三谷雄己(みたに・ゆうき)
広島生まれ広島育ち。広島の救急・集中治療・外傷診療に貢献できる人材となれるよう日々研鑽を積んでいます。救急科・集中治療科の視点に加えて、整形外科として手術に関わる視点を合わせて患者さんのQOLをよくできるリハビリ・栄養療法について日夜検討しています。
多職種で連携し患者さんを良くしようと奮闘する熱いスタッフが広大救急にはたくさんいます。ぜひ一度、広大救急に見学にお越しください。
2018年広島大学医学部卒業.2020年マツダ病院初期研修終了。
広島県内の各施設で救急・集中治療・整形外科診療に従事。整形外科ダブルボードカリキュラム研修のため、現在は整形外科として研鑽中。
救急科専門医、集中治療科専門医、日本離床学会認定指導医、日本医師会公認健康スポーツ医
中西 信人、三谷 雄己
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