記事・インタビュー
はじめに
医学生からいよいよ社会人として勤務し始める、初期研修医1年目。
医師として勤務していく長い人生の中でも、今後のすべての基本となる多くのことを吸収すべき最も大切な時期といっても過言ではありません。
実は、初期研修2年間で必ず学ぶべきことが明確になれば、どの参考書を選べばよいか自ずと見えてきます。
中でも、全員が学ぶべき領域の一つである救急診療は私の専門領域でもあり、研修医時代から様々な医学書を7年間読み込みました。さらに救急医として、多くの初期研修医の先生方を指導する中で、本当におすすめしたい書籍を厳選してきました。
今回は、2025年現在の最新の書籍を含めたうえで、初期研修医におすすめできる救急科領域の医学書を10冊紹介させていただきます。
- 2025年最新版 初期研修医におすすめの救急を学べる医学書10選
1. 当直ハンドブック2025
救急当直時に必要な知識をポケットサイズに凝縮した人気シリーズです。
症状・主訴ごとに鑑別診断・初期対応・必要な検査や処置がコンパクトにまとまっており、当直中に迷ったらこれを開けばOKという安心感があります。
<必携> 初期研修医が当直に入るならまず持っておきたい一冊。実際に「黒本なしでは不安」という声が多いです。
コンパクトながら要点がしっかり整理されているため、必要な情報を素早くキャッチできます。
辞書的な実用書ですが、各項目に「へえ」と思える工夫があり、読んでも楽しめます。
ポケットサイズで持ち歩きやすく、当直ごとに必ずお世話になるでしょう。
後輩で新たに初期研修医になる先生へのプレゼントにも最適。即戦力を身につけたい方にぜひ。
ターゲット層: 初期研修医全般。当直や救急外来を始める医師、看護師にもおすすめ
学べること: 胸痛や腹痛、意識障害などコモンな症状への初期対応と、入院までの流れ
『上級医がポケットにいる』という安心感そのもの。後輩に一番にすすめたいハンドブックです。
2. 京都ERポケットブック 第2版
京都の救命救急センターが作成した、ER(救急外来)現場視点のマニュアル。初期対応から入院判断まで、アルゴリズム的にわかりやすくまとめられており、ポケットサイズながら本格派。最新エビデンスを反映した改訂第2版です。
<常備推奨> 救急外来対応の流れをしっかり理解でき、ERの初療の前の思考整理に重宝します。
箇条書きや図表中心で「何を考え、何をするか」が一目でわかります。
随所に役立つコツが書かれていて、「読んでよかった」と思える発見が多いです。
ポケットサイズで、救急外来や当直で何度も開く一冊になるでしょう。
救急科志望の方はもちろん、他科志望でも救急外来に出るなら要チェック。
ターゲット層: 初期研修医、救急科専攻医。初期対応に自信をつけたい先生に
学べること: 主訴ごとのアプローチ法や重症度判断、スコアリングなど、実践で使える“診療の流れ”全体
研修医が『次にどう動けばいいのかわからない…』と迷ったとき、これを見れば一瞬で道筋が立つと思います。文章よりも視覚的な情報のほうが得意な方にとっては、当直ハンドブックよりもおすすめかもしれません。
3. 救急外来 ただいま診断中! 第2版
症例ベースの救急診断ガイド。救急外来でよく出合う症候を豊富に取り上げ、その診断プロセスやエビデンスがたっぷり解説されています。
初学者がつまずきがちなピットフォールもしっかりフォローしており、しっかり通読して学ぶ派の方にはたまらない一冊です。
救急診療の“現場力”を鍛えたいなら必読。マニュアルに沿った対応から次のステップに。
やや分量は多いですが、周辺知識も含めた学びを深められます。
ドラマチックな症例が満載で、読む手が止まらない面白さ。筆者の熱量の高さに惹き込まれます。
情報量が多く、一度通読するとかなり学べます。辞書使いというよりは腰を据えて学ぶタイプ。
症例から診断の思考回路や周辺知識を身につけたいすべての若手医師におすすめ。
ターゲット層: 初期研修医(特に2年目)~専攻医
学べること: 多様な救急症例における鑑別の広げ方、検査の組み立て方、確定診断の手順
まるで先輩が隣で診察しているのを見学しているような感覚に。気づきが多く、私も研修医時代にこれで診断力を磨きました。バイブルの一つです。
4. Dr.林&今の 外来でも病棟でもバリバリ役立つ! 救急・急変対応
救急医として著名な林寛之先生&今明秀先生による講義形式の“急変対応”解説書です。
セミナー口調で書かれており、難しい内容でもスッと頭に入るのが特徴で、私も研修医時代にとてもお世話になりました。ユーモアたっぷりの語り口で、楽しく学べます。
外来や病棟の急変対応に不安がある研修医には心強い存在です。
会話形式&イラスト豊富で、初心者でも即理解できる平易さ。
クスッと笑えるエピソードがちりばめられており、まるでセミナーを受けているように楽しめます。
通読で大枠をつかみ、急変対応の実践で何度も読み返し、裏技を再確認するとよいでしょう。
救急が苦手な研修医ほど必読です。表面的なマニュアルだけでなく、対応のコツが満載です。
ターゲット層: 初期研修医~若手医師
学べること: 意識消失、呼吸困難、ショックなど急変の初動(Rapid Response)の考え方やコンサルトのコツ
とにかく臨場感がすごいです。研修医の頃、この本のおかげで急変時の最初の一歩がスムーズになりました。
5. (番外編)みんなの救命救急科
我田引水で恐縮です…笑
重症患者を対応するときに、まず知っておくべき基本原則がABCDアプローチです。
ERや院内急変で焦らないために、研修医が押さえておくべき知識を、ABCDアプローチを中心に体系立てて解説した一冊です。
ABCDアプローチについて深掘りした内容を、一つの症例を通じて学ぶことができ、広く浅く必要なトピックをカバーしています。
救急科を志望する研修医には教科書として非常に心強い存在。全体像をつかむのに最適。
初心者向けに丁寧に書かれており、「ここが知りたかった!」と思うことを的確に押さえています。
実践的な知識がちりばめられた会話形式で、飽きずに読み進められます。モチベーションも上がる構成。
1回通読して基礎を固め、その後も壁にぶつかるたびに復習できる良書。
救急科ローテの際に手にとってみる一冊としてぜひ。
ターゲット層: 医学生~専攻医。救急医療に携わるすべての医療従事者向けです
私自身が研修医の頃にこんな本があれば…と思った内容を網羅しています。ABCDアプローチが自然と身につくので、救急の全体像をつかむうえで非常に便利です。
6. 新装改訂版 もう困らない 救急・当直 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻!
「当直を乗り切るための虎の巻」として支持され続けるロングセラーシリーズ。
図表・イラストが多用され、初心者が当直で“困る”場面に対して具体的な解決策が提示されています。
書籍で購入しても、電子版付きでスマホでチェックするのもよいですね。
当直にまだ慣れていない研修医にとっては、これがあるだけで心強さが段違い。
フルカラーの画像が豊富で、複雑な手順や考え方も直感的に理解できます。
コラムやTipsが満載で「なるほど!」と思うところが多く、読み物としても面白いです。林先生節が炸裂しています。
当直前の予習から当直中の辞書使いまで、繰り返しお世話になるでしょう。
特に当直初心者には非常におすすめ。内科系の症候は自信を持って対応できるようになりますよ。
ターゲット層: 初期研修医(1-2年目)
学べること: 当直でよく遭遇する患者への具体的対処法、フローチャートの参照の仕方
林先生の語り口も軽妙で、セミナーを受講しているような感覚で読み進められます。
7. 救急外来 オススメ処方・ダメ処方
救急外来での“薬の処方”に特化した一冊です。各症状・疾患ごとに「この薬がおすすめ、理由はこう」「この薬はNG、理由はこう」と対比形式で示してくれるため、薬剤選択の根拠がわかりやすく学べます。
処方に迷いがちな研修医には非常に有用。持っておくと“処方の自信”がつきます。
Yes/Noを対比させる構成と解説が平易で、「なるほど」と納得できます。
クイズ感覚で読み進められるので、処方センスが自然と磨かれていく楽しさもありますね。
一通り読んで頭に入れば、あとは経験で身についていく内容も多いです。ただ、経験が浅いうちはかなり頼りになるでしょう。
薬の使い方に迷う若手医師には打ってつけ。「救急外来ですぐに役立つ」知識が満載です。
ターゲット層: 初期研修医、処方経験の少ない若手医師・薬剤師
学べること: コモンな症状への推奨薬・禁忌薬、投与量・注意点
“これ使っちゃダメだよ”という裏事情は先輩から口頭で教わりがちですが、この本を読めば体系的に身につけられます。私も研修医時代に欲しかった…!
8. 救急画像診断のロジック【電子版付き】
救急医療に必要な画像診断力を磨くための一冊。見逃しやすい病態を題材に、X線・CTの読影手順をわかりやすく解説。
ロジックを言語化しているので、「どこをどう見るか」を体系立てて学べます。
私は専攻医のタイミングで読んだのですが、何度も画像を繰り返し読むことで、書籍の内容が自分の知識として血肉に変わっていく感覚を覚えました。キースライドのみでなく、全体的な画像検査の所見が見られるのが魅力ですね。
救急外来で画像を頼りに診断する機会が多いなら必携。苦手意識の克服に最適。
症例ベースで「見落としがちなポイント」を中心に解説しているため、納得感があります。
クイズ形式で謎解き感覚を味わえ、飽きずに読み通せます。
ある程度経験を積むと見慣れるかもしれませんが、復習や後輩指導時に役立ちます。
画像診断力を底上げしたい研修医には間違いなくおすすめ。
ターゲット層: 初期研修医~若手救急医。非専門医が読影する場面が多い方に
学べること: 緊急性の高い疾患のX線・CT所見の読み方、チェックポイント、鑑別思考
放射線科が不在の当直で、自力で判断しなきゃいけない…。そんなときこの“ロジック”を知っていると落ち着いて対応できます。見逃しを減らすための鉄板書ですね。
9. 骨折ハンター レントゲン×非整形外科医
救急外来で出会う外傷患者に対し、非整形外科医でも骨折を見逃さないようにするための指南書です。
部位別、主訴別によくある骨折を紹介し、撮影前の疑い方からX線上のチェックポイント、整形外科コールの要否などが整理されています。
当直や救急外来で整形外科医にすぐに相談できないとき、これがあると見逃しを大幅に減らせます。
イラストと実際のレントゲン画像がセットになっており、非整形外科医でも理解しやすい構成。若干分量は多めなので、通読するには少し腰を据えて読む時間が必要です。
クイズ形式で、「この画像のどこが骨折?」と探す楽しさがあります。
典型パターンを学んでしまえばあとは現場で使いこなしつつ、必要に応じて復習するイメージ。
救急当直で外傷を診る機会があるなら持っておきたい一冊。専門外でもこれだけ押さえれば十分という安心感があります。
ターゲット層: 初期研修医、救急科医、総合診療医など整形外科以外の医師
学べること: 骨折のレントゲン所見、見落としやすい骨折のポイント、整形外科受診の緊急度判断など
“一見正常だけど骨折が隠れていた!”という恐ろしい見逃しを防ぐ本。研修医時代にこれを繰り返し読んでからは、骨折を見逃しやすいピットフォールに陥ることが減りました。
10. 研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス
初期研修医向けの内科診療入門書であり、辞書的な活用本の決定版。
救急外来だけでなく病棟管理の要点にも目配りされており、内科の思考法をゼロから学べます。文章やイラストが初学者に寄り添った内容であり、わかりやすいと評判。多くの研修医が使い込んでいる人気書です。
<必読> すべての研修医に必須の“内科の基礎力”を身につける一冊だと感じます。
初心者向けに丁寧に書かれており、専門用語のハードルも低いです。
研修医が疑問に思う点を生理学的な視点からも深掘りしてくれているので、寄り添う構成で知的好奇心を満たしてくれます。
研修初期に一度読んだ後も、わからないときに辞書として繰り返し参照。長く使えます。
救急・内科志望を問わず、まずここで“内科診療の土台”を固めるのがベストだと感じます。
ターゲット層: 医学生~初期研修医。特に1年目で臨床経験が浅い先生に非常に有用
学べること: バイタルサインや身体所見の見方、病棟管理や治療方針の組み立てなど、明日から使える内科の実践的な知識が盛り沢山です
“内科力”は救急医としても不可欠。本書でベースを身につけておくと、いざ救急外来で内科症例を診るときに慌てずにすみます。まさに“ことはじめ”にぴったり。
まとめ
いかがでしょうか? どの書籍も初期研修医がこれから数年、そしてその先のキャリアでも役立てることができる内容ばかりです。
もし、「どれから買えばいいのかわからない…」と悩んだら、まずは興味を持ったものから手に取ってみてください。
迷ったときこそ、この10冊をリストに入れておけば間違いありません。早いうちから準備しておくことで、スムーズに研修をスタートできるはずです。
<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
三谷 雄己【踊る救急医】
このシリーズの記事一覧
-
記事
整形外科に進まない研修医も必読!研修医が読んでおくべき整形外科系の医学書4選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
整形外科に進まない研修医も必読!研修医が読んでおくべき整形外科系の医学書4選
三谷 雄己【踊る救急医】
-
記事
2023年出版の救急・集中治療の医学書おすすめ8選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
2023年出版の救急・集中治療の医学書おすすめ8選
三谷 雄己【踊る救急医】
-
記事
臨床現場の壁を乗り越える! 研修医に必要なスキルを学べる医学書7選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
臨床現場の壁を乗り越える! 研修医に必要なスキルを学べる医学書7選
三谷 雄己【踊る救急医】
-
記事
【2023年最新版】令和の初期研修医1年目におすすめの参考書10選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
【2023年最新版】令和の初期研修医1年目におすすめの参考書10選
三谷 雄己【踊る救急医】
人気記事ランキング
-
書評『救急外来 ただいま診断中! 第2版』まずはここから! 内科系救急研修医の必読書!
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
書評『救急外来 ただいま診断中! 第2版』まずはここから! 内科系救急研修医の必読書!
三谷 雄己【踊る救急医】
-
著者が語る☆書籍紹介 『医師バイト・外勤超実践マニュアル~ありそうでなかった! 専門外の診療にも役立つバイト医のバイブル~』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
著者が語る☆書籍紹介 『医師バイト・外勤超実践マニュアル~ありそうでなかった! 専門外の診療にも役立つバイト医のバイブル~』
大野 哲生
-
医師が休業補償で備えるメリット、医師特有のリスクとは?
- ライフスタイル
- 開業
- お金
医師が休業補償で備えるメリット、医師特有のリスクとは?
-
佐々木淳先生の在宅診療メモランダム Episode6(最終回) がんばってくれたこの身体が愛おしい
- Doctor’s Magazine
佐々木淳先生の在宅診療メモランダム Episode6(最終回) がんばってくれたこの身体が愛おしい
佐々木 淳
-
著者が語る☆書籍紹介 『みんなで楽しくホスピタリストになろう!エビデンスと実臨床の架け橋』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
著者が語る☆書籍紹介 『みんなで楽しくホスピタリストになろう!エビデンスと実臨床の架け橋』
永井 友基
-
手術から創薬へ:製薬企業で臨床経験を生かすやりがい
- ワークスタイル
- 就職・転職
- 病院以外で働く
手術から創薬へ:製薬企業で臨床経験を生かすやりがい
田中 智子、堤 康行
-
著者が語る☆書籍紹介 『YouTube 山根塾 自宅でできる外科基本手技トレーニング』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
著者が語る☆書籍紹介 『YouTube 山根塾 自宅でできる外科基本手技トレーニング』
山根 裕介
-
【4/26開講】 医療×デザインの最前線「ストリートメディカルラボ6期生」募集開始(学長:武部貴則)
- イベント取材・広報
【4/26開講】 医療×デザインの最前線「ストリートメディカルラボ6期生」募集開始(学長:武部貴則)
株式会社Look at People
-
沖縄県北部地域の精神科医療を支えて44年 これからも地域に寄り添い共に歩む病院
- ワークスタイル
- 就職・転職
- 専攻医・専門医
沖縄県北部地域の精神科医療を支えて44年 これからも地域に寄り添い共に歩む病院
-
【SPECIAL TALK】後悔しない、専門科選択とキャリア形成 vol.1
- 研修医
- ワークスタイル
- Doctor’s Magazine
- 専攻医・専門医
【SPECIAL TALK】後悔しない、専門科選択とキャリア形成 vol.1
稲葉 可奈子、山本 健人、後藤 礼司