記事・インタビュー

2023.12.15

研修医座談会 ー現在の悩み、将来について本音で語り合うー
<後編>


「自分の診断が合っているのか分からない」「国試のために学んだことを実臨床につなげられない」「覚えることが多すぎてどこから手を付ければいいのか……」「将来の診療科を決められない」―。

仕事、勉強、専門科の選択、目指す医師像など、悩みを抱える研修医も多いのではないでしょうか。そんな研修医たちの「リアルな声」を聞くために、研修医やスキルアップを目指す医師がつながるサイト「民間医局コネクト」とのコラボ企画が実現!

今回は、民間医局コネクトが開催している研修医向けの勉強会「コネクトセミナー」(毎週水曜20時~)に参加されている研修医の皆さんにもご協力いただき、DOCTOR’SMAGAZINE 誌上初となる研修医座談会を実施しました。

ファシリテーター兼相談役には、獨協医科大学総合診療医学講座 主任教授の志水太郎先生をお招きしました。研修医200人から回答を得たアンケート※ を基に、研修医の皆さんが日々どんなことに悩んでいるのか、また、診療で実際にあったしくじり談や、失敗を乗り越えるための工夫など、さまざまなトークテーマで「リアルな声」をお届けします。

実施期間:2023年7月28日~2023年8月6日  対象:民間医局会員 研修医1万4537人(うち200人が回答)

<座談会参加メンバー>

04 コミュニケーションの悩み

 志水 先生 :院内のコミュニケーションについては、「指導医が忙しそうでいつ声を掛けたらいいのか分からない」「指導医によって言っていることが違う」など、指導医に対する悩みが多く寄せられています。

 松下 先生 :上級医の先生たちは、僕ら研修医の何倍も忙しいので、聞きたいことがあっても何となく話し掛けづらいですよね。僕もプレゼンや質問をするときに、緊張してうまく話せないことがよくあります。

 伊藤 先生 :「こんなことを聞いてもいいのかな」と、どうしても遠慮してしまいますよね。

 松下 先生 :ですね。特に電話でのやりとりが苦手で、短く話そうと思うと3回くらい頭の中でシミュレーションするので、いざ電話するまでに時間がかかります。医局でも「今、話し掛けても大丈夫かな」と10分くらい悩んだり。声を掛けたら1分で解決するんですけど。

 志水 先生 :もし指導医とのコミュニケーションで悩んでいるとしたら、電話よりもやっぱり対面で話すほうがいいんじゃないかな。電話だと研修医が丁寧に話しかけている表情や雰囲気が伝わりづらいから。

 松下 先生 :そうなんですね。

 志水 先生 :対面で声を掛けにくいときには、誰か別の人を間に挟むといいと思います。話し掛けやすい先輩に「○○先生に用事があるんですけど」って、取り次いでもらう。後は忙しい医師に話し掛け慣れている看護師さんに頼むのもいいかもしれない。そのためにも普段からコメディカルとのコミュニケーションは大切にね。

 笠原 先生 :私は指導医によって意見が分かれるときに、戸惑うことがあります。

 山田 先生 :確かにそれぞれ考え方が違うから、それを受けとめたうえで自分はどうするか迷いますよね。

 笠原 先生 :そうなんです。時には「もしかしたら、こちらのほうがよいのではないか」ということもあって。

 志水 先生 :例えばどんなことで食い違うのかな?

 笠原 先生 :大きな治療方針に関わることはほとんどないのですが、どちらの抗菌薬を使うか、といった細かいところですね。「どちらでもいいんだけど」といった曖昧なニュアンスの時に疑問を感じてしまって。

 志水 先生 :まずは「これについて教えてください」と素直に聞いてみることだよね。僕も研修医の時に同じような疑問を感じたことがあるけれど、指導医が「こちらがいい」と固執していることに実は科学的な根拠がないこともあって、いろいろな考え方を学ぶ機会だと捉えるようにしたら気が楽になったよ。

 笠原 先生 :そうですね。もちろん自分が間違っていることもあるので、最近ではロールモデルにしている先輩にアドバイスをもらうようにしています。それで少し迷いがなくなりました。

 伊藤 先生 :僕は上級医に強い言い方をされると、それだけで萎縮してしまうことがあります。正しいことを言われているのは分かっているんですが……。

 志水 先生 :伝え方は大事だよね。上の立場の人が強く言えば、研修医は萎縮して診療するときの雰囲気も悪くなってしまう。さらに上の立場の先生に相談するのも一つの方法だし、怖い先生が実は優しいこともあるから、思い切って懐に飛び込んで仲良くなるのも一つの手かもしれない。それでも困ったら僕にメールをください(笑)

05 将来の専門科の選び方

 志水 先生 :みんなは将来、進みたい診療科は決まっているの?

 山田 先生 :僕は総合診療科や家庭医に興味があります。もともと漢方の勉強もしているので、ゼネラルな診療をしながら、自分の強みとして漢方を生かしていきたいと考えています。

 松下 先生 :僕も総合診療医を目指しています。学生時代に「チーム関西」という医学生団体で勉強会などを企画していた経験から、いずれは総合診療医として医学教育を実践したいと思っています。

 笠原 先生 :私は腎臓内科を志望しています。生理学が面白いのと、長期にわたって患者さんの人生に関わることができる診療科だと思ったからです。透析治療ではまだ十分に余命がある状態の患者さんたちを診るので、その方が「どう生きていくか」に向き合うことができる。そこに魅力を感じました。

 伊藤 先生 :僕はまだ迷っています。何でも診られる医師になりたいので、総合診療科か救急科かなと。

 草野 先生 :僕もまだ決まっていません。自分のやりたいことが、外科系・内科系含め、どの診療科に当てはまるのか分からないので迷っています。病院によっては診療科の名前が違うこともありますよね。

 志水 先生 :アンケートでも、専門科が決まっている人は全体の59%(下図)。2年目の研修医も含まれる結果だから、ギリギリまで迷う人が多いみたいだね。

 松下 先生 :僕の周りにもやりたいことが多くて決めきれないという人たちがいます。

 草野 先生 :そうなんです。やりたいことを全部やろうと思ったら、総合診療科と内科と救急科のトリプルボードになるので、さすがにそんな時間はないんじゃないかと。

 志水 先生 :決めきれなかったら全部やってもいいと思うよ。ダブルかトリプルかで迷っているんだったら、まずは全部取得するつもりで優先順位を考えていけば、自然とやるべきことは決まってくるんじゃないかな。

 草野 先生 :無理して絞る必要はないんですね。

 志水 先生 :そうそう。それに専門科を決められないと言いつつ、みんな最終的には必ず決めているからね。もちろん専門医制度に入らずに、モラトリアム期間を過ごす選択をする人もいるけど、迷っている人の8割は頭の中ではすでに決まっている。だから直観で決めたらいいと思います。

 山田 先生 :僕が最近思うのは、医者人生は何十年もあるので、途中で変えてもいいんじゃないかと。今、興味を持っている総合診療科は、そこで得た知識と技術を他科でも生かせることにも魅力を感じています。

 志水 先生 :その通り! 総合診療科は全ての診療につながるから、その先さらに専門分野に転向して学んでいくことは十分できるはず。僕が総合診療科だから宣伝するというわけではないですが(笑)。あとは、外科でゼネラルに学びたい人は一般外科を選べばいいし、脳神経外科と決めている人は初めからその専門分野で突き抜けて学んだらいい。その時の素直な気持ちで選ぶことで後悔なく進めるのではないかな。

 草野 先生 :そうですね。自分がどんな医師になりたいのかを考えながら、自分に合う診療科を選びたいと思います。

 志水 先生 :研修医が選んだ診療科で人気だったのは、内科、外科、精神科、麻酔科……と続きます。内科を選んだ人の理由は「診断学が面白い」「適度な手技がある」など、外科は「やりがい」を挙げる人が多い。内科、外科は定番だけれど、最近では精神科や麻酔科を選ぶ人が増えている傾向がありそうです。みんなの周りではどうでしょうか。

 伊藤 先生 :時流もあるのかもしれませんが、確かに精神科を選ぶ人は増えている気がします。

 松下 先生 :僕の周りでは、本当は内科を選びたいけれどJ-OSLER で脱落しそうだから躊躇していると言っている人も。

 山田 先生 :うちの病院は外科志望の人が多いですね。

 志水 先生 :一方で、専門科が決まっていない理由としては、「やりがいとプライベートのどちらを重視するか」「ハードな外科系でやっていけるか」などが挙げられています。理想と現実の間で悩んでいるみたいだね。

 笠原 先生 :プライベートを重視して診療科を選ぶ人は増えていますよね。科ごとにそれぞれ違った大変さがありますが、QOLが高いイメージのある麻酔科が人気なのも分かります。

 伊藤 先生 :プライベートを大事に、という雰囲気は感じます。僕は上級医から言われた「医師の代わりはいるけれど、家族の代わりはいないよ」という言葉にハッとして、診療科を選ぶときにキャリアと同時に考えるポイントにしようと思っています。

 志水 先生 :ひと昔前までは人生の全ての時間を仕事に捧げる医師が多かったと思いますが、今は医師としての時間は人生の一部で、他の時間も大切にするという人が増えている気がします。診療科の選択で重視するものが、今と昔では変わってきている。どちらがよいということではなく、価値観が多様化してきています。

 笠原 先生 :研修医のうちから家庭との両立を前提に、将来の選択を考えている人は多いですよね。それに、働き方改革によって研修医は守られているので、スタート時点より忙しくなる環境を受け入れるのはなかなか難しいのかなと思います。

 草野 先生 :QOLが高そうなのは、やはりオン・オフがしっかりある科ですよね。緊急の呼び出しが多くある診療科は、どうしてもオン・オフの切り替えが難しいイメージがあります。

 山田 先生 :最近は、チーム制を導入している病院では、内科でも外科でもうまく切り替えができているところもありますよね。

 志水 先生 :僕が考える専門科の選び方の答えは「直観で決める」なのだけれど、人は自分が経験したことしか分からないから、まずはいろいろな人に話を聞きに行ってみるといい。ローテートしている診療科の先生に「なぜこの科を選んだんですか?」と理由を聞けば、きっと何かヒントをもらえるはずです。みんながどの診療科を選んだとしても、医師である限り患者さんの役に立つことができますから、どこでも頑張れると思います。応援しています!

※ドクターズマガジン2023年12月号に掲載されました。

志水 太郎

研修医座談会 ー現在の悩み、将来について本音で語り合うー

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