記事・インタビュー

2023.06.05

医師の働き方改革についてよくあるご質問(FAQ)


「最近よく耳にするけれど、具体的なことがわからない」

「制度の内容はわかるけれど、自分にどう影響するのかわからない」

これまで医師の働き方改革について、こうしたお声をよくお聞きしてきました。

そこで、こちらのページではご質問をいただくことの多い内容を特定社会保険労務士福島通子先生に監修いただき、Q&A形式でご紹介しています。

目次
  1. ■医師の働き方改革とは
  2. Q. 医師の働き方改革とは何ですか?
  3. Q. すべての医師が対象になりますか?
  4. Q. 医師の働き方改革によって、医師の働き方はどう変わりますか?
  5. ■アルバイトについて
  6. Q. アルバイトの勤務時間についてはどのような変化がありますか?
  7. Q. アルバイトの勤務時間は誰が管理するのですか?
  8. ■宿日直許可について
  9. Q. 宿日直許可とは何ですか?
  10. Q. 宿日直許可のある求人は勤務回数が制限されますか?
  11. Q. オンコール待機業務はどうなりますか?
  12. ■その他
  13. Q. 収入は変化しますか?
  14. Q. 医師へのペナルティーはありますか?

医師の働き方改革とは

Q:医師の働き方改革とはなんですか?

医師の働き方改革とは2024年4月1日から医師の勤務環境改善と健康確保を目的として施行される、勤務医の時間外・休日労働の上限規制と追加的健康確保措置の実施を義務付ける法制度や、そのための制度・取り組みの総称です。

<時間外・休日労働についての補足説明>
労働基準法では、労働者に休憩時間を除いて1週間に40時間を超えて労働させてはならないとしており、1週間の各日については休憩時間を除いて1日に8時間を超えて労働してはならないと定められています。この法定労働時間を超えて働いた場合が、上限規制の対象となる時間外労働となります。また、同法では少なくとも毎週1回か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとしており、これが与えられなかった場合が休日労働となります。  

Q:すべての医師が対象になりますか?

勤務先と「雇用契約」を結んでいる「医業に従事する医師」が対象であるとされており、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院に勤務する医師が対象です。(開業医、歯科医は対象とはなりません。)

なお、産業医、検診センターの医師、裁量労働制(大学における教授研究を行う医師:教授、准教授、講師)は「医業に従事する医師」に当たらず、時間外・休日労働の上限時間に関しては一般の業種の労働者と同様の基準(特別条項の締結があっても年間720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以下、月45時間超は6回まで)が適用されます。

Q:医師の働き方改革によって、医師の働き方はどう変わりますか?

時間外・休日労働の上限時間が設けられます。先生方はご自身が適用を受ける水準に応じて、年960時間あるいは1860時間を超えない範囲で残業を行うことになります。具体的な働き方の変化は先生が適用される水準ごとに異なります。なお、各水準の上限時間はあくまで法定の上限時間であり、勤務先における上限時間は36協定に定めた時間となりますので、36協定も確認しておきましょう。

水準 適用
条件
適用される対象 評価センターの評価受審
都道府県からの指定
時間外・休日労働の上限時間(特別条項) 長労働時間の際の
面接指導実施
勤務間インターバル
一般則 検診センター、企業、大学、老人ホームなどの医療機関以外で勤務する先生 年720時間
月100時間(複数月平均80時間)
(原則:年360時間 月45時間)
時間外・休日労働が月80時間
産業医からの面接指導
A水準 なし
(原則的に適用)
病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院などの医療機関で勤務する先生 不要 年960時間
月100時間
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
努力義務
B水準 あり 救急医療や高度ながん治療などの地域医療のため、自院で長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間
月100時間
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
連携
B水準
あり 地域医療確保のため、主たる勤務先以外の医療機関に副業・兼業として派遣され、すべての勤務先で通算した場合、長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間
月100時間
(1つの勤務先では年960時間)
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
C-1水準 あり 臨床研修医/専攻医の研修のために長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間
月100時間
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
C-2水準 あり 専攻医としての研修後も技能研修のために長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間
月100時間
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務

※勤務先医療機関が都道府県知事からの指定を受けた場合でも、その医療機関で勤務する医師全員が、B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準となるわけではありません。
※B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準は指定される事由となった業務やプログラム等に従事する医師にのみ適用されます。
※上記の「時間外・休日労働の上限時間」はあくまで上限であり、その労働時間を義務化するものではありません。
出典)厚生労働省「医師の働き方改革2024年4月までの手続きガイド」などをもとに作成

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水準 適用
条件
適用される対象 評価センターの評価受審
都道府県からの指定
時間外・休日労働の上限時間(特別条項) 長労働時間の際の
面接指導実施
勤務間インターバル
一般則 検診センター、企業、大学、老人ホームなどの医療機関以外で勤務する先生 年720時間 月100時間(複数月平均80時間)
(原則:年360時間 月45時間)
時間外・休日労働が月80時間
産業医からの面接指導
A水準 なし
(原則的に適用)
病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院などの医療機関で勤務する先生 不要 年960時間 月100時間 時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
努力義務
B水準 あり 救急医療や高度ながん治療などの地域医療のため、自院で長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間 月100時間 時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
連携
B水準
あり 地域医療確保のため、主たる勤務先以外の医療機関に副業・兼業として派遣され、すべての勤務先で通算した場合、長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間 月100時間
(1つの勤務先では年960時間)
時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
C-1水準 あり 臨床研修医/専攻医の研修のために長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間 月100時間 時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務
C-2水準 あり 専攻医としての研修後も技能研修のために長時間労働が必要な先生 必要 年1860時間 月100時間 時間外・休日労働が月100時間
面接指導に係る講習を受講した医師
義務

※勤務先医療機関が都道府県知事からの指定を受けた場合でも、その医療機関で勤務する医師全員が、B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準となるわけではありません。
※B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準は指定される事由となった業務やプログラム等に従事する医師にのみ適用されます。
※上記の「時間外・休日労働の上限時間」はあくまで上限であり、その労働時間を義務化するものではありません。
出典)厚生労働省「医師の働き方改革2024年4月までの手続きガイド」などをもとに作成

上限規制の対象となる時間外・休日労働時間の算定には、常勤先の労働時間だけではなく、医師1人が行うすべての勤務先での労働時間が通算されます。また、副業・兼業等いわゆるアルバイトの勤務時間については、常勤先に自己申告する必要がありますので、常勤先のルールに従って報告をしましょう。

また、特例水準が適用される先生は、健康確保措置(連続勤務時間制限と勤務間インターバルの確保)を遵守したスケジュールで勤務することとなります。

連続勤務時間制限については、以下の通りです。

・通常の日勤を行う場合、始業から24時間以内に9時間の連続した休憩時間の確保(連続勤務15時間)

・宿日直許可のない宿日直に対応する場合、始業から46時間以内に18時間の連続した休憩時間の確保(連続勤務28時間)

アルバイトについて

Q:アルバイトの勤務時間はどのような変化がありますか?

時間外・休日労働の上限時間は常勤先の残業時間だけでなく、アルバイト(副業・兼業)の労働時間も通算した時間外労働時間の上限となります。常勤先で1日8時間・週5日勤務されている先生が、別の医療機関等でアルバイトを行っている場合、このアルバイトでの労働時間は時間外・休日労働時間に該当します。常勤先で連携B水準又はB水準などの特例水準の指定がなされていない限り、常勤先とアルバイト先の労働時間を合わせて年960時間以内である必要がありますので、常勤先及びアルバイト先の特例水準を確認しておきましょう。

複数の医療機関で勤務している場合も、すべての医療機関の労働時間において、1日8時間・週40時間を超過する時間は時間外・休日労働として上限規制の対象となりますので、2024年4月に向けて、現在のご自身のアルバイトも含めた労働時間を整理することが必要です。

Q:アルバイトの勤務時間は誰が管理するのでしょうか?

アルバイト(副業・兼業)における労働時間は、医師の自己申告に基づき主たる勤務先(常勤先)が、自院の労働時間とアルバイト先の労働時間を通算して管理することが求められています。

そのため、先生方がアルバイトを行う場合は、主たる勤務先(常勤先)に自己申告する必要があります。確認事項や確認方法などはそれぞれの医療機関で仕組みづくりが行われ、自己申告の方法やタイミングはご勤務先によって異なるため、主たる勤務先(常勤先)に確認しましょう。

アルバイトのみを行う先生は、自己申告すべき主たる勤務先(常勤先)を持たないため、時間外・休日労働の上限規制の対象から外れます。

<参考資料>
副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

宿日直許可について

Q:宿日直許可とは何でしょうか?

昼間の勤務と異なり、いわゆる「寝当直」に該当するような場合には、労働基準監督署の許可を受けて労働時間規制の適用除外とすることができます。宿日直中の対象業務は、①通常の勤務時間から完全に開放された後のもので、②一般的な宿直業務以外には特殊な措置を必要としない軽度又は短時間の業務で、③十分な睡眠がとり得るものです。

許可のある宿日直中の宿日直許可の範囲内の対応時間は、原則として労働時間として算定しません。

宿日直許可のない宿日直に対応する場合は、その対応時間はすべて労働時間とされます。

医療機関によっては、宿日直の勤務時間の内、一部の時間のみ宿日直許可を得ているケースがあり、その場合は宿日直許可を得た時間の範囲以外は労働時間として扱われます。

アルバイトで当直・日当直などの業務を行う場合は、常勤先への労働時間の申告が必要になりますので、アルバイト先が宿日直許可を取得しているか否かを確認し、許可のない場合は労働時間を把握して自己申告しましょう。

Q:宿日直許可のある求人は勤務回数が制限されるのでしょうか?

1つの医療機関において、1人の医師が宿日直に従事できるのは「当直週1回、日直月1回」までとされています。そのため、医療機関が宿日直許可を得ている場合、その医療機関での宿日直回数は制限され、原則として、下記のような働き方はできなくなります。(医師不足の地域などで例外的に認められるケースもあるため、勤務先へ確認しましょう。)

・週2回以上の当直
・月2回以上の日直
・24時間を超える時間の日当直

Q:オンコール待機業務はどうなるのでしょうか?

オンコール待機業務の労働時間の扱いについては、これまでの検討会で「求められる義務態様によって判断する必要がある」とされています。原則は、業務を行っていない時間は労働時間とする必要がないとされていますが、あくまでその業務実態による個別的な判断がなされます。オンコールが労働時間とされるか否かは、使用者の指揮命令下にある時間に該当するかどうかで決まります。頻繁に呼び出されたり、必ず駆けつけなければならない時間制限があるなど、オンコール中の自由利用が認められていない場合には、労働時間と算定される場合もあります。オンコール待機業務の労働時間については、勤務先に確認しましょう。

<参考資料>
第11回医師の働き方改革推進に関する検討会(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000720677.pdf

医師の勤務実態把握マニュアル(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000806377.pdf

その他

Q:収入はどうなるのでしょうか?

医師の働き方改革が直接的に収入の増減につながることはありません。

ただ、現在複数のアルバイトを行い、長時間勤務している先生は、2024年4月以降、現在行っているアルバイトの内容や時間次第では、同様の働き方ができなくなる可能性があります。また、アルバイトだけでなく常勤先での当直や休日対応等、通常勤務外の勤務を行っている場合、勤務回数や勤務時間次第でそのボリュームを減らすことが必要になる可能性があり、その結果収入が減少する可能性もあると言えます。例えばA水準対象の医師であれば、常勤先の時間外労働時間が960時間に近い時間で、アルバイトの労働時間を通算すると960時間を超えてしまうという状況であれば、アルバイトをキャンセルしなければならなくなるということです。

まずはご自身の常勤先の特例水準と現在の働き方と労働時間を照らし合わせて、このままの働き方でよいのかどうかを確認してみましょう。

Q:ペナルティーはありますか?

労働基準監督署による臨検等で違反(労働基準法第32条、第36条第6項違反など)が見つかった場合は、是正勧告が出されたり、指導されたりします。これを無視して改善がなされない場合は医療機関に対して罰則が科されます。

医療機関のトップだけでなく、労務管理の責任者も罰則の対象となっており、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑罰が規定されています。

労働者である医師に対しては法制度上の罰則はありませんが、勤務先の就業規則において常勤先の業務に支障がない範囲で兼業・副業に従事することや自己申告のルールなどが定められ、これを無視して何らかのトラブルが発生した場合などはペナルティが定められている可能性があります。まずは勤務先の就業規則を確認しましょう。

<医療機関向けFAQはこちら>
医師の働き方改革に関するFAQ(厚生労働省)
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/files/Attachment/372/%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8BFAQ%EF%BC%8822.11%EF%BC%89.pdf

<記事監修>

福島 通子(ふくしま・みちこ)

特定社会保険労務士。認定登録医業経営コンサルタント。医療経営士。経営学修士(MBA)。厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」構成員他多数の委員会委員、日本看護協会「看護労働委員会」他多数の委員会委員等を歴任。厚生労働省、都道府県、労働局、社会保険労務士会、医療関連団体、公立病院・公的病院・民間病院、社会福祉法人、保険会社等での講演多数。おもに医療従事者の働き方に関する著書多数。

事務所HP:https://michikof-sr.jp

福島 通子

医師の働き方改革についてよくあるご質問(FAQ)

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