記事・インタビュー

テキサス州ダラスにあるテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターのInstitute for Exercise and Environment Medicine (IEEM)という研究施設に留学している倉住です。こちらでの生活や留学体験を少しずつ情報発信していきます。
「宇宙医学」ってなに?
僕は初期研修を修了後、慶應義塾大学医学部麻酔学大麻酔学教室へと入局し、日々麻酔や集中治療などの臨床を中心に多忙な毎日を送っていました。入局4年目を迎えたころ、そろそろ自分のペースで研究を始めたいなと考え始め、研修医のころに聞いた「日本大学で宇宙医学の研究をしているよ」という話を思い出しました。宇宙映画が好きでアメリカ文化に憧れを抱いていた私は、愛読書である『宇宙兄弟』に背中を押され、日本大学医学部社会医学系衛生学分野(宇宙航空環境医学講座)の門を叩きました。
よく「宇宙医学って何しているの?」と聞かれることがあります。一言で答えることが難しくいつも説明に困ってしまうのですが、簡単にいうと「究極の環境医学」です。人間は環境の変化に対応しようと様々な生理学的特徴を獲得していきます。環境変化を利用し、生体トレーニングに応用した高地トレーニングなどは皆さんもよく知っていると思います。同じように無重力(正確には微小重力ですが)環境において人間の生体はどのように変化・適応するのか、その変化を予防できるのか、その変化を地上で応用することができるのか……、など、無重力環境のヒトを研究するのが「宇宙医学」です。これ以上偉そうなことは言ません。あらゆる分野の先生が集まっています。どんな専門科でも自分の研究分野を「宇宙」に応用すれば、それはもう「宇宙医学」です。

宇宙飛行士が生活している国際宇宙ステーションのモックアップ(実物大の訓練施設)
麻酔と宇宙~意外な関係性~
宇宙医学の分野では、国際宇宙ステーション(ISS)内の二酸化炭素濃度が上と比べて10倍ほど高くなっていることが、たびたび問題視されます。さらに無重力では空気の対流が起こらないので、宇宙飛行士はより高い濃度の二酸化炭素を吸入している恐れがあります。

そこで、地上実験で宇宙の微小重力を再現する方法であるヘッドダウンティルト(trendelenburg体位)という頭を低くした体位中に二酸化炭素暴露が加わった場合の脳循環調節の研究からスタートしました。麻酔科医である僕は、すぐさま、これは腹腔鏡手術やロボット手術で麻酔をしている状況と似ているではないか!!と思いました。そのころ宇宙医学界では、宇宙滞在による“視力障害”がホットトピックでした。同時に、腹腔鏡手術やロボット手術の合併症でも、手術後の“視力障害”が問題となっていました。そして「宇宙と麻酔はこんなに共通点があるのか」ということに興味をいだき、そこから研究にのめり込みました。
NASAジョンソン宇宙センターでの実験
僕の中での宇宙医学研究の醍醐味は、なんといってもテキサス州ヒューストンのNASAで実際の宇宙飛行士を被験者とした実験(ベースラインデータコレクション:BDCといいます)をすることです。宇宙映画でお決まりの「Houston・・・」というセリフを耳にしたことがあるでしょう。大学院生時代はほぼ毎回このBDC出張に同行させてもらい、チームの一員として実際の宇宙飛行士から血圧や脳血流のデータを測定していました。
憧れのNASAに来られるというのは、普段の研究生活のモチベーションにもなりますし、何といっても宇宙人(宇宙好きの人たち)にはうらやましがられます。実験最終日にはチーム皆で『宇宙兄弟』でおなじみのアメリカのステーキハウスレストラン、“Texas Roadhouse”で締めくくります。実験成功の達成感と共に顔よりもでかいTボーンステーキを食べるのは格別です。アメリカの中でもテキサスは特有で、テキサスの人はTexan(テキサン)と呼ばれています(ヒューストンのアメフトチームはHouston Texansヒューストン・テキサンズ)です。そのまま。ちなみに、NASAの施設では、主に打ち上げはフロリダのケネディ宇宙センター、管制塔(コントロール)はヒューストンのジョンソン宇宙センターにあります。

左:クリスマスに装飾されたジョンソン宇宙センター/右:『宇宙兄弟』でおなじみの“TEXAS Road house”
まとめ
第1回ということで、僕のバックグラウンドを紹介しました。宇宙医学について興味を持っていただければうれしいです。次は留学の準備について書こうと思います。こちらでの活動もなるべく早く報告していきたいと思います。

出張の恒例行事:日本大学の研究メンバーと(左:岩﨑教授、中央:小西先生、右:倉住)
<プロフィール>

倉住 拓弥(くらずみ たくや)
施設名:テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター, Institute for Exercise and Environmental Medicine
役職:Assistant Instructor
2008年群馬大学卒業。慶應義塾大学麻酔学教室に入局後、宇宙医学を学ぶため日本大学医学部社会医学系衛生学分野(宇宙航空環境医学)の門を叩く。タイトルは、ニール・アームストロング船長の“One small step for man, one giant leap for mankind.”からの引用しました。
倉住 拓弥
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