記事・インタビュー

当記事は今大注目のヘルステック(テクノロジー×医療)を実践する企業をメプラジャパン CEO 佐藤創氏と共に取材し、医療の未来、海外のヘルスケア事情、医師の企業、未来の働き方について、考えていきたいと思います。
初回は、人工知能(AI)による医療向けシステム及び生活者(患者)向けサービスを開発するスタートアップ、Ubie(ユビー)です。患者の利便性や医療効率を高め、医療現場の負担を軽減するデジタル問診システムの価値が上昇、近年その中でも特に注目される企業となっています。
当記事では、開発に当たる志や仲間として求める人材像などについて、Ubieで働く2名の医師に伺いました。
<お話を伺った方>

五十嵐 健史(いがらし・けんじ)
医師・麻酔科
問診を効率化し、適切な医療の選択肢を提案
―Ubieはどのような企業でしょうか。
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」ことをミッションとして掲げる、ヘルステック・スタートアップです。医師とエンジニアが共同で、2017年の5月に創業しました。
人工知能(AI)を活用した医療現場向けの問診サービス「AI問診ユビー」(to B)や、生活者の適切な受診をサポートする事前問診サービス「AI受診相談ユビー」(to C)などの開発・提供を主に行っています。
―Ubieのビジョンや課題はどのようなものですか。
世界中の人々に適切な医療の選択肢を提案することで、健やかに幸せな日々を過ごせる人を増やしていきたいと考えており、「Hello, healthy world.」という言葉をビジョンとして掲げています。エンジニアなら誰もが知っている最初の テストコード「Hello world」のもじりですね。
具体的には、AI問診サービスを通じて、全ての医療の入り口となる“問診”を効率化・最適化し、充実させることに取り組んでいます。医療従事者側と、生活者・患者側の双方の課題解決に取り組んでいることや、AIをコア技術として用いていることが特徴であり、私たちの独自性です。
「AI問診ユビー」は2019年7月のローンチから現在までに、亀田総合病院、慶應義塾大学病院、恵寿総合病院などの有名病院を始め、200を超える医療機関で導入されています。また、2020年4月にローンチした「AI受診相談ユビー」の月間アクティブユーザー数は40万人以上に上ります。

AIによって患者一人一人に合わせてパーソナライズされた問診表が生成される。スムーズな治療方針の決定や、待ち時間の短縮など、様々なメリットがある
※Ubie社リリースより参考画像
理念に共感して入社の意志を固める
―そもそも、五十嵐先生はどのような経緯で医師を目指されたのでしょうか。

子どもの頃、母方の祖母からよく「将来は医者になって欲しい」と言われていました。家族に医者がいるわけでもなく、理由は分からないのですが、医者に対して尊敬や憧れを抱いていたようですね。
私が高1の時に、その祖母が脳梗塞にかかり、意思疎通が難しい状態になってしまいました。これをきっかけに、「人はいつ病に侵されるかわからない、病気でつらい人や困っている人の助けになるような職業に就ければ」と考えるようになり、医師になろうと思うようになったのです。それで、筑波大学附属駒場高等学校から東京大学医学部医学科へと進みました。
―初期研修はどちらの病院でしたか?
東京都健康長寿医療センターです。面白い先生が多くて、看護師さんやスタッフも優しくて、とてもいい経験ができました。研修中にUbieの代表の阿部吉倫(医師)とも、ここで1年間一緒に研修を受けましたし、
麻酔科医を志すようになったのもこの頃でした。麻酔科は、アプローチがすぐ結果に繋がるところに魅力を感じましたし、他の科よりもロジカルで数学的な部分が多いと感じて、面白いと思ったんです。
―その後、臨床医として就職される段階でUbieにジョインされたのでしょうか。
はい。初期研修2年目くらいに専門を決める必要があったのですが、なんとほぼ同じタイミングでUbie共同代表の阿部と久保に呼び出されて、「起業するから一緒にやらないか」と誘われまして(笑)。
彼らとは大学在学中から懇意にしていて、「AIを使った問診サービスの開発に挑戦している」という話は以前から度々聞いていました。それに自分が関わるとは思っていませんでしたが、Ubieが当時から掲げていた「テクノロジーによって全ての人々が適切な医療を享受できるようにする」という理念に共感して、ジョインすることに決めました。
初期研修医時代の救急外来での勤務経験や、健康診断の結果を放置してしまっていた患者さんを診た経験から、「症状に悩む患者さんが、必ずしも適切な医療情報を得られていない」という課題も感じていましたので、今の医療に必要な取り組みだと考えたのです。
―入社当初の様子はいかがでしたか?
入社後半年間は、ものすごく忙しかったですね。実は、大学には「医局に入ります」と伝えたあとだったので、半年間は臨床で麻酔科医を続けながらUbieの仕事をしていました。
Ubieにジョインした当初は社員が少なく、営業やサポートも担当していましたが、メンバーの増えた現在はデータサイエンスチームに所属しています。臨床医としての仕事も、週一で継続しています。
新たな医療プラットフォームの構築を目指して
――データサイエンスチームでの業務はどのような内容なのでしょうか。
UbieのAI問診のシステムの特徴は、「患者さんの訴える症状に合わせて、次の質問内容が変化することで、一人一人の状態に最適化された問診を行うことができる」という点にあります。これを支えているのが、症状と疾患の関連性を見極め、より重要な症状について質問できるようにするためのアルゴリズムです。
我々データサイエンスチームが、AI問診システムを導入している病院からフィードバックされたデータを集積し、根幹となるアルゴリズムの改善や調整を行います。技術面はエンジニアの担当ですが、医学的な知見やチェックが必要な部を医師が担当しています。次に生かせそうなデータの発掘や精査なども行います。
――資金調達を経て、順調に拡大されています。今後も社員やスタッフは増えていくと思いますが、Ubieのような企業で活躍できそうなのは、どのような医師でしょうか。
Ubieでは「Ubieness(ユビネス)」と題した要件をベースに人材を求めています。もし、Ubieで働くことに少しでも興味があれば、ぜひ目を通してみてください。
個人的には、権威主義的な人には向かないと思います。Ubieには階級や役職や評価制度がなく、医師であっても「お医者様」と敬われるようなこともありません。しかし、各個人が100%能力を発揮できる組織とカルチャーがあります。社内政治なども発生しません。
あとは、まあ、スタートアップ気質なので、「どんなことでもまずやってみよう、やってみたい」というマインドは大事だと思います。基本的に社員同士仲のいい会社ですが、代表を始めクレバーで一風変わった人間も多いので、そういうタイプに囲まれても大丈夫な人に来て欲しいですね(笑)。

――ご自身の仕事における目標などをお聞かせください。
AI問診の開発を通じて、現在は既知の疾患と症状の関連性を改めて確認・認識する機会が多いですが、ゆくゆくはまだ明らかになっていない未知の疾患と症状との関連や紐づきや、思わぬリスク因子の発見に繋げたいと考えています。
アルゴリズムの改善についても、エンジニアと協力し、より少ない質問数で適切な症状を導き出せるものを目指して、様々なモデルを試していますが、その過程で自分もAIに関する知識を深めていきたいですね。
将来的には、問診のみに留まらず、医療従事者や患者さんが幅広く活用できるような、新たな医療データのプラットフォーム構築を目指していきたいと思っています。
五十嵐 健史
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