記事・インタビュー

2020.07.30

日本で医師として働く(3)日本と米国の医師国家試験に合格するまで


オーストラリアで総合診療にあたるGP(General Practitioner)の専門医資格を取得し、2020年4月から日本で医師として働き始めたレニック・ニコラス先生。最終回となる今回は、オーストラリアと日本で医師免許を取得したことに加え、USMLEで上位1%にあたる高得点を取った先生に、効率的な勉強法などをお聞きします。

日本の医師免許を取得

――日本への移住を決めたのはなぜでしょうか

もともと医師として日本で働く夢があったのと、私の子どもたちにも一度日本で生活をさせ、日本の文化に触れて欲しいという思いがあったからです。

ただ、オーストラリア人である私が日本で医師をするという夢を実現させるのは非常にハードルが高く、当初は本当にできるのかどうかという不安もありました。アメリカ、イギリス、フランスとシンガポールの四か国だけは日本との二国間協定があり、特定の診療施設のみで診療するのであれば、日本の医師国家試験を英語で受験することができます。しかし、オーストラリアと日本の間にはこのような協定がないため、日本人の受験者と同じように日本語で受験しなくてはなりませんでした。

それまで日本語で医学を勉強したことはなく、第二外国語である言語でこのような高度な試験を合格することはとてもハードルが高く思えました。ただ日本で医師として働く夢を絶対に叶えたいという一心で、仕事をしながら空いている時間を使い独学で勉強をし、第114回医師国家試験に無事合格することができました。

――現在、日本でどのような活動をされているのか教えてください

現在はNTT東日本関東病院で勤務していますが、日本で医師として働くのは初めてなので、他の先生の診察を見学したり、併診したりすることで、日本の医療の“やり方”を学んでいます。また、周りの専門医の先生方は知識が豊富で学ぶことが多く、非常にいい環境だなと感じます。その他、院内教育の講師として、OSCEなどの英語レクチャーも行っています。

これからは国際診療科で外国人患者の診療や、総合診療科で専門科の境界線を跨ぐ疾患を診るなど、さまざまな形で自らの経験を病院と日本の患者さんのために活かしたいと思います。

――日本の医師に対して、どのような印象を持たれていますか?

他国に比べ、日本は「専門医度が高い」という特徴があり、それぞれの専門分野をマスターする努力が素晴らしいと思います。患者さんを診ていない時間でも、最新の医学ジャーナルを読んで勉強をし、皆で色々な症例について相談し合ったりと、常に上を目指し、努力しているという印象です。

USMLEの勉強法

――USMLEを受けたのはなぜでしょうか

オーストラリアにはAMCという国家試験がありますが、それは外国人がオーストラリアで医療を行う際に必要な免許で、オーストラリア人であれば試験を受けなくても、医学部を卒業すれば医師免許がもらえます。私にはそれがどうしても腑に落ちず……。自分の医学知識が本当に世界の基準を満たしているのか、試してみたいと考えるようになりました。

――その結果、USMLEのStep1で上位1%に入る271点という高得点をあげられています

私の場合、教科書や赤シートを使って丸暗記するのは好きではなく、実践に近い過去問題や模擬問題を集中的に解いていました。Step1の試験に向けては1万問くらいをやりました。それだけ問題を解いていると、実践の形で殆どすべての頻出の問題を経験することができ、本番になっても大体の問題に馴染みを感じるようになります。

――USMLEに挑戦する医師たちにアドバイスはありますか?

私がおすすめする方法は、使う教材を最小限にして、教科書を読むような準備の時間をなるべく短くすること。そしてすぐに実践に移ります。なかには、たくさんの参考書を購入した人もいましたが、それを読むだけで100時間も200時間もかかってしまいます。

私は「FIRST AID」だけを読んで、すぐに問題に取りかかりました。もちろんあまり準備ができていないうちに実践問題をやろうとしても、はじめは正答率が低く、模擬試験でも一番下のランクになります。でもやっているうちにどんどん解けるようになるので、間違えながら覚えていきました。

――Step2CSの面接を苦手とする日本人は多いと思うのですが、攻略法はありますか?

たとえ筆記試験ができたとしても、臨床的な実践の試験は緊張するものです。

勉強法は筆記試験と同じく、なるべく実践に近い形でやっておくこと。さまざまな疾患の勉強をするよりは、Study Partnerと一緒にたくさんのケースを試してみることです。私の場合は妻に模擬患者になってもらい、50ケースくらいは実践しました。実際にやってみることで、「こういう時に引っかかるのか」「正しい表現が分からない」など、多くの事に気付けます。最近ではSkypeなどでStudy Partnerを探す人も多いようです。

日本で総合診療を広めたい

――今後、日本での目標を教えてください

オーストラリアの医療と日本の医療の架け橋になりたいです。さまざまな国の医師たちの交流が、さらに高いレベルの医療につながるのではないかと考えています。そのためにも日本の医療制度についてもっと勉強したいです。また、オーストラリアでのGPの経験を活かして、日本で総合診療を広める役割も果たせればと思います。

<プロフィール>

レニック・ニコラス
NTT東日本関東病院
国際診療科 総合診療医

1990年3月生まれ。2011年にオーストラリア シドニー大学教養学部(日本語専攻)を卒業し、同大医学部を2015年に卒業。ホーンズビー病院、モナベール病院、ネリンガ病院での研修を経て、General Practitionerの専門医資格を取得。USMLE Step 1(271点)、Step 2 CK (268点)、Step 2 CSに合格。2020年1月に日本に移住し、同年2月に日本の医師免許を取得。現在はNTT東日本関東病院で外国人の診療にあたる国際診療科と総合診療科に所属する。
詳細はこちら:https://connect.doctor-agent.com/article/column223/

レニック・ニコラス

日本で医師として働く(3)日本と米国の医師国家試験に合格するまで

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