記事・インタビュー
はじめまして。ベトナムはホーチミン市にあるRaffles Medical Groupで、総合診療医とBusiness Development Consultantを兼任して働いている中島 敏彦です。Business Developmentは日本でいうところの事業開発部にあたります。
まえがき
この記事を書いたのは日本がまだ“ビフォーコロナ”だった2019年末でした。”ウィズコロナ”の時代の始まりとともに、世界の在り様が日々大きく変わってきています。このような時代の中で、我々医療者のキャリア形成の在り方は大きく変わるでしょう。医師の働き方はどうなるのか? パラレルキャリアを持ったほうがよいのか? 医局に所属していたら生き残れるのか? 遠隔診療はどの程度普及するのか?
アフターコロナの時代に医療界がどうなっているのか、全く想像がつきません。もしかすると、何が起こるか分からない海外にわざわざ働きに行くことを考えること自体、正気の沙汰でなくなっているのかもしれません。
しかしこのウィルス恐慌の時代になるずっと以前から、海外の民間企業でキャリア形成していくには、常に周囲の状況やニーズに合わせて自分を最適化させることが求められていました。「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」ということです。おそらくこれからの日本でも、このようなスキルが必要になることでしょう。
この記事を読んでくださっている方々が、新しい時代の中で役立ちそうなアイディアを私の経験の中から見つけてくだされば幸いです。
勤務先の探し方、外資の医療機関が求める人物像
今回は海外の勤務先の探し方と、外資の医療機関が採用したい人材についてお伝えします。
前回【海外の医療機関で求められる英語力】でもお伝えしましたが、海外で日本の医師免許で臨床医として勤務できる職場は、大きく分けて①か②です。
① 日本人だけを診療する日本人向け医療機関
- マネージャーや人事が日本人で、英語を使わないでも働くことができる
- 面接や就職の手続きを日本語でサポートしてくれるので入職が楽
- クリニックのライセンスの規定で、日本人以外を診察してはいけないことになっているケースが多い
② 英語で診療したり、スタッフとのやりとりも英語で行う外国人向け医療機関
- マネジメントサイドに日本人スタッフがいないため、面接から就職に際しての書類申請、移住のための手続き他、全て英語で行う
- 院内共通語が英語のため、医療スタッフとの会話やメールは全て英語
- 外国人患者さんの診療は英語が基本
①の日本人向け医療機関を探すのは日本の人材紹介会社に問い合わせればすぐに見つかります。そのタイミングで募集しているかどうかだけが問題になります。試しに「ベトナム×医師×募集」などのワードで検索してみてください。かなりの数が見つかるはずです。
同様の方法で②の外国人向け医療機関を見つけようとすると、なかなか大変です。理由は「海外の医療機関は多くの場合、日本の人材紹介サービスを使わないから」です。
従って、英語で調べる必要があります。
探し方は「自分の探したい仕事×RecruitmentもしくはCareer」などです。中には人材紹介サービスをまったく使わない医療機関もありますので、そんな時には行きたい病院のWebサイトの採用ページを直接覗いたり、「医療機関名×希望するポジション×Career」などと検索するのもよいでしょう。
私の場合はこの方法で行きたい病院を選んで直接電話やメールをしました。英語で電話をするのはなかなかハードルが高いので、最初のうちはメールがいいと思います。ある程度までやりとりが進むと、「WhatsAppで話そうぜ」みたいなメールが来ます。ここからが本当の勝負です。電話での英会話は本当に聞き取りづらいので、イヤホンを使って会話するぐらいの意気込みが重要です。
応募先がまだ具体的決まっていなくて「どこかいいところあったら連絡してみよう」ぐらいの状況であれば、LinkedInなどのアプリケーションをスマホに入れておくのもお勧めです。
海外の有名どころの病院はけっこう登録しています。
たとえばhttps://www.linkedin.com/company/raffles-medical-group/は私が勤めている Raffles Medical Group(以下RMG)のLinkedInのページです。これに登録をしてフォローしておけば自動的に情報が入ってきます。
ただしRegion(地域)やDepartment(部署)ごとに募集ページが分かれていたりすることがあるので注意が必要です。たとえばhttps://www.linkedin.com/company/raffles-medical-international-china/はRMGのChina Regionのページです。
ほかに知り合いにReferral(推薦・紹介)してもらう手もありますが、そもそも海外で働いている日本人の医師は少ないので難易度が高いと思います。FBの友達程度では推薦してもらえません。
さて、行きたい医療機関が決まったら対策を立てましょう。医療機関ごとに細かな違いはありますが、まずは日本人向け医療機関と外国人向け医療機関、それぞれで求められる能力を紹介します。
① 日本人向け医療機関
- 多くの場合、総合診療医的な能力(いわゆる日本の内科や救急)が求められる。ただし中には専門医でも可能な場合がある⇒ 日本にも総合診療医の専門医制度ができたため、今後条件が変化するかもしれません
- 日本でのある程度の勤務経験。多くの場合、医師5年目以降
② 外国人向け医療機関
- 医師としての経験。多くの場合5年から10年以上
- 総合診療(General Practitioner、以下GP)としての能力⇒ 入職時にある程度完成していることが重要。少なくとも入職後半年程度で基準に達していないとクビになることもある⇒ 私の場合は入職後半年はフランス人のMedical Directorにメンターとしてついてもらい、全ての診療のチェックを受けていました
- 海外での留学経験、勤務経験が求められることがある⇒ このため私は最初に①の医療機関で規定の期間が終わるのを待ってました
- 最低限の英語力
①②共通して言えるのは「総合診療医」としての能力があると採用されやすいということです。また、医療機関の規模にもよりますが、小児科や産婦人科、精神科なども募集がかかることがあります。
もちろんこれらの傾向は絶対ではありません。絶対的な判断の基準があるとすれば、「この人を雇うことが医療機関の利益につながるかどうか」だけです。
事実、私自身はもともと日本では泌尿器科専門医/緩和ケアチームリーダーという働き方をしていましたが、①の医療機関に採用されたその1年後には、②の医療機関に入職していました。
中には「日本人の医師だったらそれだけでOK!」という医療機関もあったりしますので、気になるところがあれば、とりあえず問い合わせてみるとよいと思います。
このような医療機関はスタートアップだったり、医者が寄り付かないような条件だったり”破れかぶれ”のこともあるので、数年で潰れてしまうことがあるかもしれませんが、少なくとも海外に出てくるきっかけにはなりますし、履歴書上は「海外勤務経験がある」と書くことができます。うまく次の転職先が見つかればキャリアアップに繋がるかもしれません。
こうした長期的な展望で就職先を選んでいくのが海外で長続きをするコツであり、外資系組織という環境で働く醍醐味ではないかなと思います。
最後に「なぜ海外の民間医療機関で日本人医療者のニーズがあるのか」について説明します。
ここでまず理解しておいていただきたいのは「日本人医師が優秀だから雇いたいのではなく、日本人患者が良質なクライアントだから、彼らを集患するために都合がいいから雇いたい」と医療機関側は考えているということです。
海外の医療機関から見た日本人患者の特性には以下のようなものがあり、日本人医師を雇用すると効率よく集患ができるので、医療機関としては大きな収益が望めます。
- 日本語以外のコミュニケーションを好まない
- 他の国からの労働者に比べて支払い能力が高い。これは良質な海外旅行傷害保険などを持っていることが多いため
- 日本人は日本の医療が世界の中でトップレベルと考えているので、(どんなレベルであれ)日本人医師を好む傾向がある
さて次回からは【外資系医療機関での働き方と海外でキャリアを形成】についてお伝えしようと思います。
次回に続く。
<プロフィール>
中島 敏彦(なかじま・としひこ)
病院総合診療認定医、産業医、泌尿器科専門医
また日本とベトナムの架け橋となるべく、ベトナムにある日系商社Clover plus co.,ltdのアドバイザーとして、日本の医療産業がベトナムに進出するための支援なども行っている。海外勤務歴7年。
新書発売中:グローバル人材に必要なヘルスリテラシー 今注目のベトナムを事例に学ぶ Kindle版
中島 敏彦
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