記事・インタビュー
医師のSNS利用や活用法についての対談企画、第2弾。
SNSやデジタルマーケティングにも詳しい水野 篤先生(聖路加国際病院)に、Twitterフォロワー数約5万人(2020年1月現在)外科医けいゆう先生(本名:山本 健人)と「医師のSNS」というテーマのもと、SNSを使った情報収集の方法や、情報発信する際の注意点などの内容で対談していただきました。
「医師が知っておきたい、SNSの活用法」
››› 第1弾:伊田 瞳先生×水野 篤先生
けいゆう先生の経歴
水野:まずけいゆう先生の自己紹介ですが、けいゆう先生と私にはかなりの共通点がありますね。神戸市出身、京都大学(以下、京大)、初期研修も神戸中央市民病院ですし、学年は5つ離れているものの、ほぼ一緒ですね。
けいゆう:そうですよね。水野先生は共通点が非常に多く、お会いしたかった方なので今日の対談は本当にうれしいです。
水野:私もです。
ところで、神戸中央市民病院での初期研修、めちゃくちゃ厳しくなかったですか?
けいゆう:水野先生の時ほどではないと思いますが、かなり厳しかったです。特に救急は逃げ出したくなるほど大変でした。最近は変わったのかもしれませんが、当時は馬車馬のように働いていました。
水野:私も同じで、特に記憶に残っているのは、インフルエンザの時期はいくら急いで患者さんを診察しても待っている患者さんの数が減らないという、、、今でこそ言えますが、あまりにもしんど過ぎて、救急のときエコーあてながらうとうとすることすらありました。。。そこから北野病院に異動されたのですね?そのあとはどうされたのですか?
けいゆう:大阪の北野病院で2年間働いた後、卒後8年目から京都大学の大学院に通っています。
水野:臨床は継続していらっしゃいますよね?
けいゆう:はい、週の1−2日は臨床に携わって、オペや外来業務を行っています。
水野:循環器は大学院などの勉強のために、カテーテルなど治療することができなくなることに抵抗ある先生が多いのですが、外科の先生は臨床を4年間みっちりできないことに対して不安や葛藤はないのですか?
けいゆう:正直少しありました。でも、外科医って手技だけでなく、オンコロジーについての考え方を学ぶ必要性もあるなと、7年間たくさんの手術してきた中で感じたのです。毎年何百と手術を行うにつれ、思考の天井にぶち当たる瞬間があり、がんの分子生物学的な思考や、プレゼンテーションの方法を学んだ方がいいと感じて大学院に行くことを決めました。
水野:先生は後期から関西を離れて東京の聖路加国際病院へ行かれていますが、何か理由があったのですか?
水野:けいゆう先生みたいな格好いいストーリーはないのですが、研修医2年目の時、1つ上の武田崇志先生が聖路加に行かれたのが病院を知ったきっかけです。もともと東京にはあこがれとか興味はあったので、単純に「東京いいなぁ」と思い、気付いたら行っていました(笑)
けいゆう先生の生い立ち
水野:けいゆう先生のご著書『もう迷わない!外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』を拝読したのですが、父上は会社員、母上は教師という環境で、なぜ医師になろうと思ったのですか?
けいゆう:あまり覚えていないのですが、小学生のときには自分でも医師になろうと思っていたようで、当時埋めたタイムカプセルを30歳のときに開けたところ、「将来の夢は医師」と書いてありました。
水野:いい話ですね。僕なんかそういうキャリアに対する知識もなく、 周りの勧めというもので選びましたから、、、(失笑)
けいゆう:僕は小さい頃から医学という学問にすごく興味があって、ディアゴスティーニの医学版を毎月買って模型を作っていました。
水野:おおおぉ、、、すごい。。。医学の興味を小さいときから持っていたというのは、、、ちょっと自分の子供なら無茶苦茶うれしいですね。
けいゆう:先生が医者の中でも外科医になろうと思ったきっかけはなんですか?
けいゆう:ドラマ『振り返れば奴がいる』を見て、外科医になりたいと思いました。若い人は知らないかな(笑) 水野先生はどうですか?
水野:僕は外科志望だったのですが、初期研修医の時にした「糸結び」があまりにも苦痛で、やめました(笑)。外科の先生方の根気、あきらめない姿勢はこういう粘り強くされているところから生み出されるのだろうと感じてます。最終的に急性期も慢性期もいろいろ勉強できる循環器内科を選んだのですが、結局最後は直感ですね(笑)
SNSを始めたきっかけ
水野:SNSをやり始めたのはいつ頃ですか?
けいゆう:Facebookを始めたのは医師1年目(2010年)の時です。はじめは、もともと繋がっている友達との近況報告ツールがSNSだという認識でした。Twitterを始めたのはせいぜい2年くらい前です。まずは一般の人向けにWEBサイトを立ち上げ、病気などについて知りたい人が調べられるコンテンツを作りました。
水野:どうして作ろうと思ったのですか?
けいゆう:作った理由は2つあって、
1つ目は「自分自身が忙しくて、外来などで患者さんに伝えたいことを伝えられない」
2つ目は「週刊誌やテレビなどを見て不確かな医療情報を信じている患者さんが多かった」ということがあったからです。
1人当たりの診察時間も限られているので、自分の思いを100%理解してもらうのは無理だと気付き、患者さんに診療前に見てもらうためのWEBサイトを準備しようと思ったのがきっかけです。検索順位を上げる対策(以下、SEO対策)を必死に勉強し、とにかく多くの患者さんに見てもらえるよう努力しました。
水野:一言でSEO対策と言っても一朝一夕では成果は出ませんよね。企業が行っているセミナーなどに参加して勉強されたのですか?
けいゆう:いえ、ほぼインターネットで情報を仕入れました。あと本も2冊くらいですが買いましたね。有料セミナーや有料記事もたくさんありますが、実は有用な情報は無料でたくさんあります。その成果もあって、WEBサイトは約4ヶ月で月間約70万PV見られるサイトになりました。
ところが、WELQ問題※注をきっかけに、2017年12月、Googleが検索アルゴリズムを大きく変えることを発表したのです。その日も朝から普段と変わらずGoogle Analyticでアクセス解析を行っていたのですが、リアルタイムの閲覧者数が明らかに少ないことに気付きました。Googleで検索しても何もわからなかったのですが、Twitterで検索すると阿鼻叫喚で、同じようなサイトの管理者が私と同じ現象に遭っていたのです。
※注:WELQ問題
株式会社ディー・エヌ・エーが運営していたヘルスケア情報キュレーションサイトで、「ブラックシードという健康食品はあらゆる病を治す」、「肩こりが酷いのは霊のせい」など、医学的根拠の無い低品質な記事が次々と暴かれ、大きな批判を浴び、ネットにある医療情報の信頼性を揺るがす一大事件となりました。これを受け、Googleは医療や健康に関わるネットの情報の評価方法を改善。医療情報を扱うサイトは大量の記事を公開することよりも、正確な情報を伝えることに重心が置かれるようになりました。
当時の私は、名前や肩書を使って「この人が言っているから信用できる」と思わせる考え方は危ないと考え、名前も所属も出していなかったのですが、Googleの評価は全く逆でした。
そこで、個人への信頼を高めたい、という思いからTwitterを始めることにしました。その時初めて、Twitterで情報発信している医師がたくさんいることを知ったのです。
水野:既にたくさんいらっしゃったのですか?!
けいゆう:はい、私もビックリでした。特に小児科、産婦人科の先生は、情報のニーズがTwitterユーザーの年齢層に一致するので、フォロワーがとても多く驚きました。
私が専門の消化器でお役に立てるかどうか分からず、案の定、最初は苦労しました。ただ、先駆者の先生方のツイートを見ていく中で、Twitterはブログと違って短文で情報収集したいユーザーが多いので、長文リンクではなく、エッセンスを短文で伝えることが重要だと気付きました。
水野:ブログで一回落ちたのに、そこからTwitterをやろうというモチベーションがすごいですね。個人で発信することに懸念を持つ人も多いと思いますけど、個人としてどう情報発信するかは大事ですよね。プラットフォームとしても、どれがいいか考える時代に来てるんですね。
けいゆう:Twitterを始めた時に衝撃的だったのが、Twitterを情報収集ツールとして使っている人が多くいるということです。「SNSが便利な情報収集ツールだ」という事実に驚いたのです。
FacebookはTwitterと同じSNSで括られますが、情報収集ツールとは言えません。よく知っている知人と情報交換するのが目的ですから、同じSNSと呼んでいいのかどうか、というくらい目的が違います。
水野:Facebookは近況報告ツールで、リアルタイム性に少し欠けるような印象を持っています。
けいゆう:そうですね。Twitterには、多くの医師をフォローして情報リテラシーを高めようとしている人が多い気がします。今となっては私自身もTwitterで仕入れた情報がとても貴重です。
水野:Twitterを始めた当初は何を考えてつぶやきましたか?
けいゆう:最初は何も意識していなくて、当時のツイートを見ると、本当にヘタだなぁと思います。ただ、今は「Twitter=140文字で情報を伝えるフロー型メディア」と考えを改め、流し読みしても頭に入ってきやすいことを意識してツイートを作っています。
<プロフィール>
山本 健人(やまもと・たけひと)
水野 篤(みずの・あつし)
聖路加国際病院循環器内科・QIセンター 副センター長/
聖路加国際大学看護学部 臨床准教授
医学教育イベントの開催や、QIセンターに所属し医療の質を改善させるための行動経済学的アプローチなどを研究している。2019年の『第83回 日本循環器学会学術集会』においては、日本循環器学会の公式Twitter(@JCIRC_IPR)から情報広報部員の一員として日本国内の医学系学会では初めて学術集会中の発表内容を発信して話題を呼ぶなど、マーケティング・広報にも精通。
››› 著書や執筆も多数(Amazonのサイトへ)
››› 学術集会Twitter論文
››› Twitter
››› Researchmap
››› LinkedIn
››› Facebook
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世の中には様々な医療情報があふれていますが、その中身は玉石混淆。私たちはどうしたらベストな治療を受け、命を守ることができるのでしょうか。正しい医療情報をわかりやすく発信することで多くの人から信頼される現役外科医けいゆう先生が、風邪からガンまで、知っておくと得する60の基本知識を解説します。
『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』クリニカル・ベース・レジデント シリーズ/山本 健人(著)
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山本 健人、水野 篤
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