記事・インタビュー

2019.09.12

International SOSの業務内容(2)

 

医師としてグローバルな環境で働く International SOS Japan

医師免許が必要な職業は、医療機関以外にも外務省医務官、厚生労働省の医系技官、製薬会社で働くメディカルドクターなどさまざま存在します。今回は「海外医療と渡航安全の統合ソリューション」を提供し、その領域のリーディングカンパニーであるInternational SOS Japan(以下Intl.SOS)でメディカルダイレクターとして勤務されている医師の葵 佳宏先生にお話を伺いました。Intl.SOSの業務内容や、葵先生がIntl.SOSで勤務されることになった経緯、そして医師採用に際しての求める人材像などを3回にわたりお伝えします。

実際の症例を通じて気づくこと

今回は我々が日常的に扱っている症例を3つご紹介します。
どのように判断を下し、Intl.SOS各拠点のスタッフが連携しながら業務を行っているのか、理解していただけるかと思います。

CASE1:小児の異物誤飲(ナイジェリア)
CASE2:作業中の事故(ミャンマー)
CASE3:重症多発外傷(モンゴル)

※画像はイメージ図となっております。

 

CASE1:小児の異物誤飲(ナイジェリア)
状況

ナイジェリア駐在員の帯同家族。数日前にコインを誤飲した模様。症状なし。レントゲンで異物がみつかった。ご両親はフランスに帰国しての処置を希望。

現地主治医の
判断

現地で、緊急内視鏡摘出術の適応。小児のため全身麻酔をかける必要あり。

Intl.SOSの
判断

誤飲したのはボタン電池でなく、コインである。レントゲンで腸閉塞の所見なく、数日経過しても無症状であることから、緊急内視鏡摘出術は必要なし。レントゲンで経過をおっていけば自然排出すると予測。結果として、数日後に便と共にコインが排出された。

考察

医師国家試験では常識問題ですが、腐食性物質や尖っているものの誤飲でなければ、異物は消化されず自然排泄されるため、内視鏡治療は基本必要ありません。小児への手術は、全身麻酔が必要なだけでなく、未熟な手技操作による食道損傷の可能性もあります。

不要な医療リスクを未然に回避することだけでなく、医療費の余計な出費や、帰国に伴う費用、その間に親が仕事できないことによるビジネスへのインパクト(Loss time Work)を最小限に減らします。

 

CASE2:作業中の事故(ミャンマー)
状況

30代日本人従業員。作業中に母指が機械に挟まれた。診断名は右母指完全切断。

現地主治医の
判断

切断部は状態が悪いため、断端形成をすすめられた。

Intl.SOSの
判断

創部の写真を至急送ってもらい、急げば切断指の再接着の可能性があると判断した。しかし、ミャンマーでは高度の技術を要する再建術と術後管理が難しいと考え、国際水準の治療を提供できるシンガポールへの緊急搬送を推奨した。

考察

指の切断、特に親指は掴む動作に不可欠であることから、可能な限り温存をしてあげたい。本件は、労災である。日本であれば救えた指が、途上国でおきた事故であったがために指を失ってしまうことは、企業の管理責任(Duty of Care)が問われかねない。

患者は、シンガポールで再接着術をうけることに成功した。本従業員はまだ若く、断端形成術を受けていたのであれば、今後の仕事内容やプライベートでも大きなハンデを背負うこととなったであろう。

主治医の意見を鵜呑みにせず、適した時間にどこで治療をさせるのがいいのか、応急処置とともに、方針を提案するのがコーディネーティングドクターの腕の見せどころである。

 

CASE3:重症多発外傷(モンゴル)
状況
胸部CT
腹部CT

40代日本人旅行者。交通事故に遭い、現地の医療機関に救急搬送された。意識は清明。腹部の軽度の違和感と、胸の痛みの訴えあり。診断名は、多発肋骨骨折と気胸、腹腔内出血と腸管損傷疑い。

Intl.SOSの
判断

治療は、速やかに医療先進国で受けるべきと考えるが、現状で定期便にのるのは難しい。また、医療専用機を手配するのにも1日は必要である。現在のバイタルは落ち着いているが、腹部臓器損傷が疑われている以上、放っておけば出血性や敗血性ショックに陥りかねない。まず現地で、試験開腹を行ってから、術後の早いタイミングでの緊急の帰国搬送を推奨した。

考察
医療専用機の搬送

試験開腹で、膵損傷と十二指腸、大腸穿孔がみつかり、最低限の安定化手術が行われた。同時進行で、日本側の受入を高度救命センターに確保した。医療情報のやり取りを綿密に行い、術後12時間に医療専用機での搬送がなされた。

医療レベルが国際水準に満たない=医療がゼロ、ではない。今後の病態予測をしながら、限られた時間で持ちうる選択肢の中から最適なものを、順序よく組み立てていかないといけない。本件は、下部消化管穿孔があり、現地で開腹をしていなければ専用機到着までに、汎発性腹膜炎から敗血症性ショックをきたす可能性が極めて高かった。また、出血源がコントロールされていない搬送もリスクを伴う。医学だけでなく、ロジ、現地の医療キャパなどの知識を世界中にいる同僚と協力しながら、「よりベター」な選択肢を提示することが大切である。

 

これらは症例のほんの一部ですが、現地の医師が言うことを鵜呑みにするのではなく、真に必要とされる検査や治療が何か、そのタイミングも含めて判断することがいかに大切な役割であるか、お気付きいただけたと思います。そうすることで、海外での企業活動が停滞するのを防ぎ、ビジネスを予定通り進めていただくことにも繋がります。契約いただいている企業の人事の方や患者さんのご家族に分かりやすく説明することも、アシスタンスセンターで働く医師の重要な業務です。

コストとベネフィットを天秤にかけ、国内から国外への搬送のほか、地方から大都市の病院への国内搬送も行なっています。なお、紛争地域からの医療搬送については、セキュリティチームとも連携をしております。

Intl.SOSの医療チームは、搬送ありきではなく、現地治療も含めた患者にとってベストの選択肢を常に考えております。

医師が担当する業務

Intl.SOSに所属する医師の役割はさまざまです。

  • コーディネーティングドクター
    渡航前の医療アドバイスから、急病時のケースマネジメント、搬送の手配まで幅広い医療アシスタンス業務を担います。多くの国と地域を担当することから、別名「インターナショナルドクター」とも呼ばれています。
  • エスコートドクター
    医療搬送を行う。特に医療専用機で、より高度な医療介入が必要な場合はICUの医師が搭乗する。
  • クリニックドクター
    世界各地にあるIntl.SOS運営のクリニックで診療を行う。
    ※現地の医師免許が必要
  • リモートサイトドクター
    サイトメディックとも呼ばれます。海上掘削装置や鉱山などの僻地で、周辺に医療インフラが皆無の地域へIntl.SOSが医師・看護師を派遣するサービス。コンテナ型のクリニックを設置し、24時間体制で怪我や病気のプライマリ・ケアを行う。また、BLS、ACLS、ATLSなどの資格を派遣前にIntl.SOSのトレーニングセンターで取得することになっている。質の担保の意味でサイトメディックは、アシスタンスセンターと連携することで、緊急対応の判断を仰ぐ仕組みをとっている。サイトクリニックで働くのは、現地の有効な医師免許をもっている医師となる。

仕事のやりがい

病院であっても、 Intl.SOSで働いていても、常に患者にとってベストなソリューションを探す点は医師として共通です。私たちは患者を直接目の前にしませんが、常に「適した時間に、適した場所で、適した医療チームにつなぐ」ためには、どうすべきかを考えています。海外で医療機関にかかるのは心細いものです。医療水準は当然ながら、医療習慣、文化、言葉の壁も大きく立ちはだかります。これらのギャップを埋めることで、患者の命が救われ人生が変わったとすれば、たとえ自分が主治医でなくても非常にやりがいを感じます。

 

 

<プロフィール>

葵 佳宏

葵 佳宏(あおい・よしひろ)
International SOS Japan メディカルダイレクター

2002年に琉球大学医学部卒業後、武蔵野赤十字病院で初期研修を修了(2002-2004)。横浜市立大学で麻酔・救急の専門研修を経て、2011年から沖縄県の浦添総合病院でドクターヘリのフライトドクターとして救急・総合診療に従事する。
2014年よりInternational SOS本社(シンガポール)にて医療搬送、メディカルアドバイザー業務および在外邦人の健康相談に携わる。2016年より現職。

 

キャリアチェンジを考えられている先生は 「民間医局」へご相談ください。

 

医師としてグローバルな環境で働く International SOS Japan

  1. (1)International SOSで勤務するきっかけ
  2. (2)International SOSの業務内容
  3. (3)International SOSが求める医師像

葵 佳宏

International SOSの業務内容(2)

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