記事・インタビュー
長崎大学病院リハビリテーション部
准教授 高畠 英昭
新専門医制度ではリハビリテーション科も基本診療科19領域の中の一つに
私が産業医科大学でリハビリテーション科医として仕事を始める少し前から「新専門医制度」が開始されることが議論されていました。それまで、各学会が独自に運用していた専門医制度を、中立的な第三者機関を設立し、専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を統一的に行う制度です。当初2017年度(平成29年度)より新制度による専攻医の募集が開始される予定であったものが、実際には1年遅れて、2018年度(平成30年度)より専攻医の募集が始まりました。
新専門医制度では、基本診療科19領域が定められており、その基本診療科の中にリハビリテーション科も含まれました。あくまで私見ですが、それまでマイナー科の一つであり、整形外科の下部組織であったリハビリテーション科が、一躍他のメジャー科と横並びに置かれるようになった画期的な出来事でした。
長崎大学でも新専門医制度に向けて各科それぞれに準備が行われていましたが、基本診療科の一つであるリハビリテーション科に関しては、専攻医プログラムを作成できないことが問題となっていました。この時点で、長崎大学には専攻医を指導することのできるリハビリテーション科指導医は勤務していませんでしたし、指導施設としての認定もなされていませんでした。県内の初期研修医・後期研修医が勤務する基幹病院の中にも指導施設として認定されている施設は一つもありませんでした。長崎県内のリハビリテーション科専門医指導施設は、いくつかの回復期病院など少数に限られており、新専門医制度下で専攻医プログラムを作成できる体制にはありませんでした。
尾﨑君からの電話
そのような事情は北九州からも薄々察してはいましたし、行く行くは長崎でのリハビリテーション充実のために仕事をしたいと思っていましたが、まだリハビリテーション科専門医にすらなっていない自分にはどうにもならない事情でもありました。整形外科の教授になった尾﨑先生から電話をもらったのはそんな時でした(Vol.4参照)。「長崎に出てきて直接話をしないか」という内容でした。
小高い丘の上にある長崎大学病院のすぐ下に浜口という医学生や病院関係者が良く出かける飲み屋街があります。数十年ぶりに、浜口の焼鳥屋の座敷で、学生の頃を通じても初めて尾﨑君と差しで焼酎を飲みながら長崎のリハビリテーションについて話をしました。同級生とはいえ、相手は古い伝統のある整形外科学教室の教授です。下部組織のリハビリテーション部で、リハビリテーション科専攻医プログラムを作成するための協力をしてほしいというのが話の趣旨だと思っていました。ところが、「これからはリハビリテーションは整形外科の下にあったらいかんのよ。」「整形外科から切り離して、本物のリハビリテーションをする必要があるんよ。」というのが整形外科教授のいきなりの言葉でした。
「えっ!この人、何を言っているんだ?」というのが、その時の自分の偽らざる感想でした。「整形外科の教授が?リハビリを切り離す?」リハビリテーションが担う領域は、整形外科の運動器疾患だけでなく、脳卒中や一般の内科系・外科系疾患など幅広いものだということは自分では思っていましたし、言葉にもしていました。とはいえ、既得権を有する整形外科の教授が、リハビリテーション部門を整形外科の下部組織から切り離して、将来は独立した診療科にするということを、自分から言い出すというのは正直信じられませんでした。同時に、話を進めるうちに、同級生ながら、尾﨑教授のビジョンの広さと正しさに共感し、一緒に仕事をしたいと強く感じました。
この時、長崎大学病院内では、リハビリテーション部に医師のポストはありませんでしたし、新設するという話も決まっていませんでした。先行きがどうなるか全く分かりませんでしたが、長崎で新しくリハビリテーションを始める。二人で描く夢を実現したい。心は決まりました。「自分の人事は全部尾﨑に任せる」と言って、握手ではなく、ハグして分かれました。
長崎大学病院リハビリテーション部
所属先であった産業医科大学リハビリテーション医学教室の佐伯教授や医局員の方々からもお許しをいただき、2017年(平成29年)4月からは長崎大学病院に異動し、リハビリテーション科立ち上げのための仕事を始めることになりました。脳血管内治療に次いで、長崎大学病院では新しい部門を立ち上げるための2回目の仕事です。3年前に長崎を出るときに思っていたよりもずいぶん早いUターンでした。長崎大学病院でリハビリテーション部門の医師としてのポストは新設のポストであり、病院長である増﨑先生はじめ病院運営に携わる方々のご理解のおかげと感謝しています。また、今回の異動には、尾﨑教授だけでなく、私の出身医局である脳神経外科学教室松尾教授にも大変尽力していただきましたし、麻酔科原教授や検査部柳原教授など同級生や、以前から一緒に仕事をさせていただいた複数の先生方にも大変お世話になりました。
新しい部門を始めるときに、おおむね二つの方法があるように思います。一つは、すでにその道で実績のある人物を他所から招聘するというやり方と、もう一つは、実績はなくても内部の事情の分かる人間を育て部門とともに成長させるという方法です。実は、長崎大学病院でもそのような検討が行われた後に、今回最終的に選択されたのは後者でした。
私が長崎大学病院リハビリテーション部で仕事を始めたとき、私はまだリハビリテーション医学会の専門医ですらありませんでした。異動の年に専門医資格を取得し、その後数年で指導医になるという「見込み」があっただけでした。私の上には私をサポートしてくれる尾﨑教授がいましたが、いわゆる同僚や部下はおらず、小さな部屋と古い机と椅子と時計が与えられただけでした。ほぼ、何もありませんでした。とはいえ、私は、「長崎大学らしくて良い」「これでこそ愛すべき我が母校」と感じていました。ここから、何にもとらわれることのない、新しいリハビリテーションが始められる、そんな大きな期待感で毎日が楽しくて仕方がありませんでした。
異動して1年がたち、部屋の中味が充実しただけでなく、予定通り専門医資格も取得し、専攻医プログラムの立ち上げに向け、周辺の大学や病院の先生方にも協力をいただきながら、少しずつ進んでいます。学生の講義や臨床実習および初期研修医の指導も正式に始まり、医師養成における他県からの遅れを取り戻せるように、一歩ずつですが確実に前進しています。
本シリーズはこれで一旦おしまいですが、数年後には、診療科として独立し、さらに成長した長崎大学病院のリハビリテーション部門の様子を皆様にお届けできるように邁進していきたいと思います。最後になりますが、本シリーズを最後まで読んでいただいた多くの方々に心より感謝申し上げます。
<執筆者プロフィール>
長崎大学病院リハビリテーション部准教授
鹿児島県生まれ。脳神経外科学会専門医、脳卒中学会専門医、リハビリテーション医学会専門医・認定臨床医。1993年長崎大学医学部卒業。脳神経外科医・脳血管内治療医として長崎医療センター等に勤務後、2014年より産業医科大学リハビリテーション医学講座講師。2017年4月より現職。専門は嚥下障害のリハビリテーション、地域連携パス。趣味は楽器演奏・トライアスロン。
高畠 英昭
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