記事・インタビュー
コロナ禍を通じて、保健所の業務が注目を集めました。その最前線で陣頭指揮にあたったのが、各保健所の所長を始めとした公衆衛生医師たちでした。公衆衛生医師として働くことのやりがいや、どんな人が公衆衛生医師に向くのか、全国保健所長会の内田勝彦会長に聞きました。
地域の健康を守るために力を尽くす 「公衆衛生マインド」を持った人にこそ仲間になってほしい
全国保健所長会 内田勝彦会長(大分県東部保健所)
――臨床医と比較して、公衆衛生医師のやりがい、おもしろさはどんな点でしょうか。
病院では当然経営的な視点が求められます。医師であれば、患者さんたちが健康であることは喜ばしいことですが、他方で経営的な観点では患者さんが来院しないと困ります。私が臨床医だったころ、医師という立場である一方で、経営的な視点になった時「患者さんを治したい、健康にしたくて医師になったのに、患者さんが少ない、受診する人が少ないと困るというのはおかしいな」と、ややモヤモヤしたことがありました。
公衆衛生医師は地域の人たちの健康を守ることが仕事です。地域の子どもから高齢者まで、純粋に健康でいてほしいと考え、そのために医師としてできることに力を尽くす。「地域の元気度を高める」こと、それこそが公衆衛生医師の大きなやりがいの一つです。
もう一つ、公衆衛生医師の面白さは、医療関係ではない人たちとの付き合いが非常に多いことです。地域住民の皆さんの健康課題には、医師である自分自身にもわからないことがたくさんあって、その課題をみんなで考えながら最善策を練ることこそ、臨床では味わえない醍醐味です。
全国保健所長会・内田勝彦会長
――「地域の元気度を高める」ためには、知事らの判断にも影響するような助言をする立場ですよね。
そうですね。知事や市長ら行政トップが地域への施策を決定する際に、医師として助言することもあります。また、衛生管理面などで地域の飲食店を営む人や農家の人たちとも、話をすることがあります。職場にとどまるのではなく、地域に出かけていって多くの人たちと繋がって、話し合って地域をよくしていこうとすることが、この仕事の面白さでもあります。
――新型コロナウイルス感染症が流行した時、保健所は非常に大変な状況に置かれました。保健所長は日々、決断の連続だったと思います。
普段、公衆衛生医師は地域の関係者と話し合って最善策を練っています。ただ、コロナ禍で各地の保健所長たちは健康の危機管理を司る者として、「いかに感染拡大を抑えるか」を第一に考えて行動したので、時には地域の方々との厳しいやりとりも必要ですし、即時決断することも必要でした。ただ、そんな時こそ、地域は違っても同じ公衆衛生医師である各地の保健所長たちが普段からのネットワークを生かして、各地でどんな対応を取っているのか、感染拡大の波にどう対応すべきか、積極的に情報共有を行いました。当時は盛んにオンライン会議を開いて「この難局を何としても乗り切ろう」という思いで密に情報交換をしていました。そうした連携こそが、公衆衛生医師の強みでもあります。
――公衆衛生医師を目指す人たちに向けて開催している「公衆衛生サマーセミナー」は、今年ですでに12回目ですね。今年8月にあったセミナーには定員を上回る参加者が集まりました。
参加者だけでなく、所長たちも全国から集まってみんなで討論し合う貴重な場です。私も皆さんと一緒にこの場で成長できていると感じます。各地の所長たちが手作りで運営にあたっていますが、彼らもネットワークを強くする場にもなっています。
ありがたいことでもありますが、今回は参加をお断りせざるを得ないほど参加者が多かったと聞きました。
「公衆衛生 若手医師・医学生サマーセミナー2023」の取材レポートはこちらからお読みいただけます。
――コロナ禍を経験して、公衆衛生医師になりたいという方が増えてきたように思います。どんな人が行政医になって欲しいですか。
公衆衛生分野に関心が高まっていることは、大変うれしいことです。ただ、公衆衛生医師は「公務員だから、9時~5時の楽な仕事」だと思っている人がいるとしたら、おそらく務まらないと思います。コロナ禍を思い出してもらえばわかる通り、保健所は昼夜休日を問わず、これまで経験したことのない病気の感染拡大を食い止めようと全職員がフル稼働していました。公衆衛生医師は、健康面での地域の危機管理の司令塔となる存在です。その意味では「自分こそが、この地域に住む人たちの健康を守るんだ」という情熱、言い換えれば「公衆衛生マインド」を持った方にこそ、私たちの仲間になっていただきたいと考えています。
公衆衛生の魅力を語る!
全国で活躍中の公衆衛生医師の先生方に「公衆衛生の魅力」「公衆衛生医師のやりがい・心構え」などをご紹介いただきました!
大阪府茨木保健所
所長 永井仁美医師
長崎県県南保健所
所長 宗陽子医師
福岡市中央保健所
所長 山本信太郎医師
名古屋市西区保健福祉センター
主幹 田邊裕医師
栃木県保健福祉部医療政策課
主幹 早川貴裕医師
長崎県県央保健所(兼)壱岐保健所
所長 藤田利枝医師
大阪市健康局健康推進部健康づくり課
医長 植田英也医師
新潟県福祉保健部(兼)三条保健所
主任 松澤知医師
宮崎県都城保健所(兼)小林保健所
主査 茅野正行医師
公衆衛生医師に興味をお持ちの方へ
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