アンケート記事
民間医局コネクトは、現在医師が働く環境の中で育児休業(以下、育休)について医師1226人(男性799人、女性415人)にアンケートを実施しました。前編では、医師が育休取得の現状についてまとめました。後編では、今後医師の仕事と子育てを両立していくためにはどんな対策が必要かをアンケートの結果をもとにひも解きます。医師が育休を取得しやすくするためには、職場や上級医による理解を求めるとともに、同僚医師らに負担がかからない仕組みづくりを求める声が多く寄せられました。また、育休の取得を認める上級医らの意識改革を望む声も数多くありました。
「育休」アンケート(前編)記事は、こちらからお読みいただけます。
小さな子どもがいる場合、育休取得を検討したい人は8割超
子どもの有無にかかわらず、すべての医師に現在、小さな子どもがいる場合(もしくは、いると仮定した場合)、育休の取得を検討するかどうか尋ねました。
「積極的に検討したい」(47.9%)と「やや検討したい」(35.6%)を合わせると83.5%(1024人)で、大多数が育休の取得を検討したいと考えていることがわかります。一方、「あまり検討しない」(11.5%)と「全く検討しない」(4.2%)を合わせると15.7%(192人)でした。
Q:国は女性だけでなく、男性の育児休業の取得を積極的に進めようとしています。現在小さなお子様がいる場合、育休の取得を検討しますか。「小さなお子様」がいない方も、いると仮定してお答えください。(回答数1226)
人員補充など、周囲に負担がかからない仕組みづくりが必要と考える声が多数
医師が育休を取得しやすくするために、どんな対策が必要か尋ねました(複数回答可)。
最も多かったのは、「代わりの医師の補充など、周囲に負担がかからない仕組みづくり」で60.7%(744人)でした。以下、「勤務先による制度化」が52.4%(642人)、「国による医師に特化した制度化」が49.6%(608人)、「受け持つ患者の引き継ぎをしやすくする」が39.3%(482人)、「上級医に理解を得られる環境を整える」が36.9%(453人)、「同僚医師に理解が得られる環境を整える」が34.5%(423人)、「外来診療の担当の変更ができるようにする」が34.1%(418人)と続きました。
Q:日本で医師が育児休業を取得できるようにするためには、どんな対策が必要だと思いますか。(回答数1226、複数回答可)
さらに、医師が仕事と子育てを両立するために必要なことについて聞きました(複数回答可)。
最も多かったのは「子どもの急な発熱などでも休みが取れる制度」で66.7%(818人)でした。以下、「当直など、時間外勤務の免除」が64.4%(790人)、「時短勤務ができる制度」が59.2%(726人)、「フレックス勤務ができる制度」が56.9%(697人)、「ベビーシッター代などの補助制度」が41.1%(504人)、「外来診療の担当の変更ができるようにする」が40.4%(495人)という結果になりました。いずれの選択肢も4割以上の回答を集めていることから、どれか一つだけの施策にとどまらず、一般企業では取り入れられている幅広い面での子育てを支援する制度の導入や環境整備が求められていることがうかがえます。
Q:医師が仕事と子育てを両立するために必要なのは、どんなことだと思いますか。(回答数1226、複数回答可)
医師が育休を取りづらい障壁をなくすに、具体的にどんな対策が必要なのか、自由記述形式でも聞いたところ、多くの具体的な意見が寄せられました。以下、回答の一部を紹介します。
【複数主治医制、人員確保などの体制整備について】
・積極的に育休取得者を増やす、代打を立てやすいよう一診ではなく複数診体制にする(美容皮膚科・20代・女性)
・複数主治医制(消化器外科・50代・男性)
・ほかの医師らにしわ寄せがいかないように外来の代診や当直担当の医師を臨時で雇う。医師会が派遣する。その病院OBに応援をしてもらう。しわ寄せがいった人の給料を上げる(精神科・50代・女性)
・誰もがお互いの仕事を代われるような柔軟な働き方、人が減っても問題ないくらいの人材の確保、普段から就業時間を守る意識など(糖尿病科・30代・男性)
・医師であると完全な育休は難しいので、外来のみ出勤するなどフレキシブルな対応が必要(整形外科・30代・男性)
・勤務医の数を増やす。常に100%で勤務するのではなく誰かが欠けても負担にならないように、普段から80%程度で勤務する体制を整えること(糖尿病科・20代・女性)
・カバーする先生の給料アップ。出産した家庭の男性医師は義務で育休を取得させる。良好な人間関係を作る。育休中にフォロー用のバイトを雇用する。男性の育休取得に関して医局や事務側からの教育(放射線科・40代・女性)
・①根本的には、人的不足の改善と、性別によらず給与形態もしくは育休中の収入保証の改善 ②勤続年数や雇用形態によらない育休取得の権利保証(医師は半年~1年単位での勤務地変更が多いが、国の制度上の育休取得管理は勤続年数が1年以上である。いわゆる研修医は非常勤で、福利厚生の対象外のことがある) ③第二子以降妊娠のために産休を取ると、職場の保育所から第一子が退園になることがある(「休業」するため、「勤務者の子供が対象になる保育所」の適応外になる、という理論)(救命救急科・30代・女性)
【給与などについて】
・基本給を低く設定して、医師手当で給与を高くしている病院だと育休を取ると給与がかなり下がってしまうので、基本給自体を上げる事が必要だと思う。あとは、上級医クラスの男性医師が育休を取っていると、下の医師も取りやすくなると思う(リハビリテーション科・20代・女性)
・とにかく前例を作ること。前例が無いことを言い訳にせず、男性医師でも育休を取りやすい職場作りをすべき。でも大学病院は正規職員でもビックリするくらい薄給なので、共働きで医師ならともかく男性医師で単独大黒柱の方は経済的に厳しいと思う(外勤分が全く加味されないので)。 外勤で取得している給与も上乗せした上での育休給付金が出たら良いのですが(小児科・30代・女性)
【義務化・雰囲気づくり】
・強制的に取らせるくらいしないと進まないと思います(救命救急科・30代・男性)
・育休を産休同様必須にすればよい(が、個人的には男性の育休は不要と思っている)(糖尿病科・30代・女性)
・男性医師も育休取得を標準化する。低月齢で復帰することが頑張っていて望ましいという意識をなくす(皮膚科・30代・女性)
・男性も女性も育休が取れる雰囲気、後ろ指を刺されない雰囲気が必要(皮膚科・30代・女性)
・不平を言われにくい人が積極的に取得する(放射線科・30代・男性)
【上司、患者など周囲の理解】
・上司、同僚、勤務先と、育休を取得する医師に関わる人すべての理解が必要だと思います。上司から積極的に育休の取得を勧めるようにしてほしいです(皮膚科・30代・女性)
・マネジメント層の意識の変化、またマネジメント層に明確、適格な提言が出来るトップの存在(男性・40代・産業医)
・院長から上級医に指示を出す(女性・30代・小児科)
・まず、上司が育休について理解し、上司自身が適度に休みを取る、働きすぎないことが大事(小児科・40代・男性)
・自分が積極的に育休を取り、積極的に上の立場に進む(その他・20代・男性)
・育休どころか通常の休みさえとりにくい環境をなんとかした方がいい。主治医制度は廃止すべきだと思う。また、職場の理解が得にくいという以上に、患者や患者家族の理解が得にくい。これはどうにかすべき(精神科・40代・男性)
・事務から、可能なら有給の消化で対応してほしいとはっきり言われた。男性医師の育休取得の前例が少ないため明らかに事務が慣れていない。取得しやすい科の男性医師が積極的に育休を取得することが事務方の「慣れ」にもつながると思う(胸部外科・30代・男性)
【その他】
・育休に限らず、すべての人に休暇を与えることで公平性を保つ(産業医・50代・女性)
・育休よりも、時短や定時で帰れる方が大事だと思う(内科・50代・女性)
・そもそも海外で医療従事者が育休を取る習慣はない。育休を取らずに済む環境整備が必要!(泌尿器科・40代・女性)
・残念ですが男性医師で育休取得は特別な理由がない限り難しいと思います(男性・30代・代謝内科)
多く寄せられた回答は、人員確保など働く職場や制度の整備についての意見でした。職場や他の医師へしわ寄せが行かないような制度が求められていることがわかります。加えて、特に男性医師の育休取得を進めるには上級医・患者(患者家族)の理解が重要であることもうかがえます。
そのほかには、「強制的にとらせないと進まない」「育休よりも時短や定時で帰れる方が大事」「男性医師の育休取得は特別な理由がない限り難しい」という意見もありました。
「児童手当拡充」は好意的に捉えている人が多数
2024年度以降、児童手当が拡充される予定です。具体的な内容は、高校生年代まで支給期間を延長し、多子世帯への増額(第3子以降3万円)、所得制限の撤廃です。ただ、一方で、支給対象を拡充する場合には、扶養控除の見直しも検討されています。この計画への考えについて聞きました(複数回答可)。
多くの支持を集めたのは、児童手当の受給資格で「所得制限がなくなることを評価する」で60.2%(738人)でした。続いて「第3子以降の増額を評価する」が29.5%(362人)と、好意的にとらえているという回答が上位を占めました。
一方で、「児童手当の拡充が少子化対策になるのかどうか疑問なので、評価できない」が29.0%(355人)、「児童手当の拡充で国の負担が増えても、子どもたちの負担が増えるので評価できない」が19.2%(236人)と、評価できないという意見も一定数ありました。
Q:2024年度以降、児童手当の拡充される予定です。支給対象を高校生まで引き上げたり、第3子以降は支給額を月3万円に引き上げられたりします。所得制限もなくなります。この計画について、どのようにお考えですか。(回答数1226、複数回答可)
すべての医師が働きやすい環境づくりのための議論を
育休を取得できるようにするための対策としては、代わりの医師の補充など周囲に負担がかからない仕組みづくりが必要と考える医師が多数いることがわかりました。具体的には、「外来の代診や当直担当の医師を臨時で雇う」「カバーする医師の給料アップ」といった意見が寄せられました。また、なかなか進まない男性医師の育休取得を進めるには、上級医や同僚、患者など周囲の理解が重要であることがうかがえました。
アンケートの最後に、育休についての意見を自由に募ったところ、多様な意見が寄せられました。一部を紹介します。
・ひたすら育児休業の穴埋めをさせられて、感謝もされない独身医師のこともたまには気遣ってほしい(皮膚科・50代・女性)
・そもそも主治医制やオンコール、当直などの制度があり、妊娠しただけでも嫌な顔される。妊娠時期だって辛くて休みたい。産んだ後はシッターや病児保育などサポートがあればなんとかなる。不妊治療している女医も沢山いるが治療に通うのが大変。妊娠前~妊娠中~産後まで一貫してサポート体制を考えるべき(内科・30代・女性)
・育児休業を取得するということは、必ず職場に復帰しなければいけない状況になるので、必ずしも育児休業を取得することが正しいこととは思いません。もちろん、キャリアを失いたくないため育児休業を取得しすぐ職場に復帰しフルタイムで頑張りたい医師もいますし、家庭を大切にするため退職して非常勤勤務や転職を選択する人もいます。近年男性も女性も育児休業を取らせるべきという世論が大きくなっていますが、育児休業を取得することが正義ではなく、色々な働き方が認められる柔軟な世の中になることを希望します(皮膚科・40代・女性)
・小児科医で3人子どもがいます。大学病院に勤務しているときは忙殺され、小児科でさえも、男性医師は誰も育休を取得していなかったので、育休が欲しいと言えませんでした。大学を辞めて赴任した現在の職場は育休制度が充実していますが、すでに対象者ではありませんでした。自分の後輩には、家庭と自分自身を大事にするために、男女問わずきちんと育休を取得してほしいです(小児科・40代・男性)
・結局育児休業の取りやすさは一緒に働く人の理解だと思います。やはり昔の人の理解の低さが若手からすると気になります。特に男性において育児の大変さをもう少し理解されていくことを願います。(小児科・30代・女性)
・13年目の医師です。私たちが学生の頃や医師になりたての頃よりは遥かに育休が取りやすい環境になってきていると感じます。しかし、市中病院で人が足りていない場所では早期の復帰を要求されるなどの局面もあり(市中病院ではそれだけ給付金などの手当ても厚いからかもしれませんが)、働いている環境や専門の診療科によって取りやすさの差が出ていると思います。マンパワーの確保が一番かと思いますが、その辺りを改善できると良いかと思います。(小児科・30代・女性)
・医師には育児休業は現実的ではないです。いまだに勤務体系が昭和と変わらず、まともな働き方ではないことを上の世代が変えようとしないで、当たり前と思っています。(泌尿器科・40代・男性)
今回のアンケートでは、子育て中の医師だけでなく、男性の育休など現実的ではなかった世代や独身の方など、多くの医師から様々な意見が寄せられました。
これまでと同様の職場環境のまま、育休の取得を単に制度として推し進めるだけでは、周囲の理解は進みません。制度だけを進めても、子育てを終えた人や独身の人、子どもがいない人など育休の取得をする人をサポートする人に過度な負担をかけないよう制度を設計する必要があります。
育児中の医師はもちろんのこと、妊活中の女性医師や独身の医師、育休後の医師、家族を介護する医師など、すべての医師が働きやすい職場や風土作りが求められています。2024年には、医師の働き方改革の制度が本格スタートします。これを機に、単に制度に沿った枠組みだけでなく、医師が出産や子育て、介護をしながらでも、キャリアを継続できる環境をどうすれば作れるのか、議論し続けることが必要です。
【アンケートの概要】
調査期間:2023年6月22日~28日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:1226人(男性799人、女性415人、わからない・答えたくない12人)
アンケート中の自由回答には、非常に多くの医師から多様なご意見をいただきました。
ご協力くださった皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
回答を寄せてくださった医師の診療科などの内訳は以下の通りです。