アンケート記事

2023.08.23

医師の育休取得、女性は8割超も男性医師の取得は約16%  ~「育児休業」アンケート(前編)~

育児休業(以下、育休)の取得は会社員にとっては当たり前になりつつありますが、医療の現場ではどうなっているのでしょうか。民間医局コネクトは、現在医師が働く環境の中で育休について医師1226人(男性799人、女性415人)にアンケートを実施しました。前半は育休取得しやすいのか、また育休取得を妨げている要因は何かといった現状についてまとめます。

育休の取得経験 女性医師は半数超、男性医師は1割程度

まず、育休の取得経験について尋ねました。回答した1226人のうち、子どもがいると答えた人は824人(男性は555人、女性は269人)でした。

子どもがいると答えた男性で「現在育休中である」と回答したのは1.6%(9人)、「過去、育休を取得したことがある」は15.1%(84人)、「これまで育休を取得したことはない」は83.2%(462人)でした。女性医師269人のうち「現在育休中である」と回答したのは14.1%(38人)、「過去、育休を取得したことがある」は68.8%(186人)、「これまで育休を取得したことはない」は17.1%(46人)でした。

現在育休中の人も含めると、子どもがいる女性の8割以上が育休の取得経験があるのに対し、男性医師では16.8%でした。

各診療科目ごとに育休を取得した人の割合から取得しなかった人の割合を引いて比べてみました。育休の取得割合が高かったのは、男性医師は総合診療科、救命救急科、精神科、放射線科、呼吸器外科の順でした。女性は精神科、糖尿病科、呼吸器内科、形成外科、消化器内科、産婦人科、整形外科、救命救急科、麻酔科の順でした。

Q:先生ご自身の育児休業の取得状況を教えてください。(男性医師対象、回答数555)

Q:先生ご自身の育児休業の取得状況を教えてください。(女性医師対象、回答数269)

職場で育休取得した人がいるのは女性医師で6割、男性医師は2割ほど

現在勤務中の医療機関で、育休を取得した/取得している人がいるかどうかについて聞きました。

男性医師799人に聞いたところ、勤務先の女性医師では、「育休を取得した/取得している人がいる」で59.4%だったのに対し、自分以外の男性医師で28.5%でした。男性医師の多くが「育休を取得していない」(51.6%)という状況でした。

女性医師415人に聞いたところ、「育休を取得した/取得している」女性医師は69.9%だったのに対し、男性医師では17.6%で、「育休を取得していない」が61.2%と、最も多くの回答を集めました。

男性医師・女性医師ともに、現在の職場で「女性医師が取得した/取得している」と答えた人は6割前後いましたが、「男性医師が取得した/取得している」と答えたのは2割前後にとどまりました。「男性医師が取得した/取得している」と回答した医師の属性を見てみると、比較的大規模な病院に勤務している人が多いようです。男性医師でも比較的育休が取得しやすい大規模病院などの勤務先では取得している人がいるものの、医師の数が限られる規模の小さな病院ではまだまだ男性医師が育休を取得しにくい状況ではないかということが読み取れます。

Q:先生の身の回りの方の育児休業の取得状況を教えてください。(男性医師対象、回答数799)

Q:先生の身の回りの方の育児休業の取得状況を教えてください。(女性医師対象、回答数415)

会社員と比べた育休の取得しやすさ、 女性医師は半数以上が「取得しやすい」 男性は取りづらいととらえる人が8割超

回答者1226人全員に対して、一般企業の会社員と比べた場合の医師の育休取得がしやすいかどうかについての考えを聞きました。

女性医師の育休取得については「とても育休を取得しにくいと思う」と「やや育休を取得しにくいと思う」を合わせると53.3%(654人)で、「とても育休を取得しやすいと思う」と「やや育休を取得しやすいと思う」を合わせると46.7%(572人)という結果になりました。女性医師の場合は、「取得しやすい」と考える人の方がわずかに多くなりました。

一方、男性医師の育休取得については「とても育休を取得しにくいと思う」は58.8%、「やや育休を取得しにくいと思う」は27.3%、「やや育休を取得しやすいと思う」が10.3%、「とても育休を取得しやすいと思う」は3.6%でした。

男性医師の育休取得については、8割以上が取得しにくいと考えていることがわかりました。一方で、女性医師については、取得しやすい(53.3%)と取得しにくい(46.7%)で回答がほぼ半々に分かれました。女性医師にとっては、職場環境によっては取得しやすいととらえている人も少なくないことがうかがえます。

Q:一般企業の会社員と比べた場合、医師の育児休業の取得状況についてご自身のお考えを教えてください。(回答数1226)

医師が育休を取得することについて「とても取得しにくいと思う」「やや取得しにくいと思う」と回答した人に対して、医師が育児休業を取得しにくい職業だと思う大きな要因について尋ねました(複数回答可)。

「男性医師が育休を取得しにくい」と思う要因について、最も多かったのは「同僚にしわ寄せがいく」で67.3%でした。以下、「医師が取得する前例がない」(62.3%)、「外来担当など、すでに予定が決まっている」(54.7%)、「上級医の理解が得にくい」(52.5%)、「取得しづらい職場の雰囲気」(43.1%)、「同僚医師の理解が得にくい」(42.6%)、「主治医制で患者を引き継ぎにくい」(40.9%)、「育休取得することへの周囲の理解が得られない」(31.7%)と続きます。

「女性医師が育休取得しにくい」と思う要因について、最も多かったのは男性医師と同じく「同僚にしわ寄せがいく」で66.5%でした。以下、「外来担当など、すでに予定が決まっている」(46.3%)、「主治医制で患者を引き継ぎにくい」(38.2%)、「取得しづらい職場の雰囲気」(34.6%)、「同僚医師の理解が得にくい」(30.0%)、「上級医の理解が得にくい」(28.9%)と続きます。

男性医師が女性と比べて、「取得しにくい」として特に多く挙がったのが、「医師が取得する前例がない」「上級医の理解が得にくい」の2つでした。男性医師の育休取得は女性医師に比べて、周囲の理解を得られにくい状況であることがうかがえます。

Q:医師が育児休業を取得しにくい職業だと思う大きな要因はどんなことですか。(回答数男性医師の育休取得1056、女性医師の育休取得654、複数回答可)

診療科目特有の出産・子育てにおけるメリット・デメリットは

診療科目を選ぶ際、「将来的に子育てしやすいかどうか」を科目選択の基準に入れたかどうかを尋ねました。

最も多かったのは「全く基準に入れなかった」で36.6%(449人)でした。次いで「少し基準に入れた」24.8%(304人)、「あまり基準に入れなかった」21.5%(264人)、「基準に入れた」17.0%(209人)という結果になりました。

「あまり基準に入れなかった」「全く基準に入れなかった」が合わせて58.1%と、約6割が基準に入れずに科目選択をしたことがわかります。

Q: 診療科目を選ぶ際、「将来的に子育てしやすいかどうか」を科目選択の基準に入れましたか。(回答数1226)

自分の診療科目が、出産・子育てをするうえでメリットだと思うこと、逆にデメリットだと思うことについて、自由記述形式で聞きました。以下、回答の一部を紹介します。

【自分の診療科のメリット】

シフト制であること(救命救急科・30代・男性)

比較的休みが取りやすい(精神科・30代・男性)

始業終業時間がきっちりしており、在宅ワークも可能なところ(産業医・30代・女性)

勤務時間がフレキシブル(美容皮膚科・20代・女性)

夜勤がないので楽(心療内科・30代・男性)

呼び出しや急変が少なく、子育ての時間がとれる(代謝内科・30代・男性)

全国的に需要があり転職しやすいので、ある程度スキルがあればクリニックや非常勤なども選択できる柔軟性が高い科だと思う(消化器内科・40代・男性)

一旦休みをとっても復職しやすい(脳神経内科・30代・男性)

メジャー科で同じ科の医師が複数いるため、家族の病気などで急な休みがとりやすい(循環器内科・40代・男性)

男性が多いため、自分が抜けたときの代理が立てやすい(消化器外科・40代・女性)

女性が多く子育て中に理解がある(耳鼻咽喉科・30代・女性)

外来がメインで緊急入院が少ない。手技が少ないので産休中に手技を忘れる心配がない。女医が多いので、子どもの熱で休むときはお互い様(糖尿病科・30代・女性)

産婦人科なので、出産育児に知識があること。妊娠中、少しの異常があっても自分で病院に行かなければいけないか判断できること(産婦人科・30代・女性)

子どもの病気等に理解があるので、お休みや時短勤務の理解が得やすい(小児科・30代・女性)

【自分の診療科のデメリット】

オンコールで休日が少ない、連休がとれない、帰宅時間が遅い(内科・男性・40代)

手術があると帰れないこともある(脳神経外科・40代・男性)

緊急呼び出しが多い(脳神経外科・40代・男性)

若者が少ない、手術時間が長い、緊急が多い(心臓血管外科・40代・男性)

残業が多い、人が少ない(感染症科・20代・女性)

夜中の呼び出しなどがあり、子育てに参加しづらい(循環器内科・40代・男性)

休みづらい(呼吸器内科・30代・男性)

女性だと妊娠すると骨折手術ができなくなる。被曝のため(整形外科・30代・男性)

 

続いて、各診療科のメリットとデメリットをそれぞれどう考えているのかを見てみましょう。

【自分の診療科のメリット/デメリット】

小児の扱いに慣れている/不規則な勤務(外科・40代・女性)

定期外来があまりない(外来主治医なし)。入院患者も完全主治医制ではなくチーム制であり、急な休みなど取りやすい/夜勤が多い。オンコールが多すぎる(救命救急科・40代・男性)

循環器、脳神経外科、消化器外科などと比較して緊急手術が少ない/手術が一日2件の日は定時に終わらない可能性がある(胸部外科・30代・男性)

女性が比較的多く、共感を得られやすい/人数が少ない診療科のため、人員確保が難しい(形成外科・30代・男性)

メリハリがある/治療内容によっては急変しやすく時間外の業務が多め(血液内科・30代・女性)

内科なので人数が多く、自分が抜けてもなんとか回る/感染症に立ち向かうことが多いので、家族に感染するかもしれないという恐怖があった(呼吸器内科・30代・女性)

産科なので出産については知識がある/知識がある分、悪いシナリオを考えるときりがない(産婦人科・40代・女性)

子どもを産むところなので、休みなど理解を得やすい/当直が欠かせない(産婦人科・30代・女性)

女性が多く子育て中に理解がある/季節による患者数の変化が多い(耳鼻咽喉科・30代・女性)

同科のスタッフが多いため、業務分担しやすい/時間外診療や当直業務が多い(循環器内科・30代・男性)

普段から子どもの診療に当たっているので、不安は少ないと思う/風邪の子どもを診療するので、自分の子どもにうつしてしまう可能性が高い(小児科・30代・男性)

男性が多いため、自分が抜けたときの代理が立てやすい/自分が執刀した患者が時間外に急変した際に、他医師に対応してもらうことに申し訳なさを感じる(消化器外科・40代・女性)

外来や内視鏡業務など、子育て中でもできる業務が豊富/透視下の検査は妊娠中行えないこと(消化器内科・30代・女性)

夜勤がないので楽/収入が少ない(心療内科・30代・男性)

慢性疾患も多く、外来管理がメインの働き方も選択できる/脳血管障害など急性疾患の対応のため、市中病院ではオンコールなどの対応が必要な点(神経内科・30代・女性)

オンオフがはっきりしていること/オンコールや緊急手術・呼び出しがしばしばあること(整形外科・50代・男性)

経過がゆっくりであるため、緊急の対応が少ない/暴力などのリスクは高いので、身の危険については常に考える必要がある(精神科・30代・女性)

一般内科さえできれば働く場所はクリニックから病院まで様々選べるので自分の状況に合わせて勤務先を選べるのはメリットだと思う/専門医をとるまでの症例数がかなりの数が必要なので、女性の場合出産、育児で離れると大変だと思う(内科・30代・男性)

一旦休みをとっても復職しやすい/担い手が少なくそもそも休みがとりにくい(脳神経内科・30代・男性)

QOLが高めの科/マイナー科であり、非常勤のみのパート医としての働き方は難しい(泌尿器科・40代・男性)

女性が多いため理解されやすい/女性が多いため、独身者や男性の仕事が大変になる(皮膚科・40代・女性)

金銭面での苦労は少ないと思われる/当直業務など、家を不在にすることが多く家事が難しい(放射線科・30代・女性)

病棟や手術は自分一人で完結できないが、訪問診療は全て自分で完結できる/キャリア形成、訪問診療に対する誤解がまだあると感じる(訪問診療・30代・女性)

勤務終了時間がきたら交代しやすい。主治医制ではないので呼び出しがない/長いオペ時間になる症例につけない。専門医維持に週3同じ病院が必要なので、勤務先が限られる(麻酔科・40代・女性)

当直がない/有害物質を取り扱うこと(病理学・30代・男性)

メリットで多く寄せられたのは、勤務時間が一定であることや、夜勤や急患対応がないこと、働く場所や時間に融通がきく、といった働き方についての利点でした。

また、女性医師が多いことで互いに理解が得やすいことなど、子育てと仕事を両立しやすい風土・環境があることも重要なポイントのようです。産婦人科や小児科の医師からは「妊娠・出産、子育てに対しては理解がある」という声が多く挙がりました。

一方、デメリットで目立つのは、勤務時間(拘束時間)の長さや、急患対応・当直があること、休みが取りにくいという回答でした。そのほかには、放射線を扱う業務があるなど、診療科目特有の特徴があることもわかりました。

男性医師の育休取得の理解・浸透に課題

今回のアンケートでは、女性医師の8割以上が育休の取得経験があるのに対して、男性医師は16.7%ほどであることがわかりました。「男性医師は一般会社員よりも育休が取りづらい」と考えている人が86.1%にのぼるなど、特に男性医師の育休取得に対する理解がなかなか進んでいないという課題が浮き彫りになりました。また、同じ医師であっても診療科目によって異なる勤務体系や環境から、仕事と子育ての両立のしやすさに差があることもわかりました。

【アンケートの概要】
調査期間:2023年6月22日~28日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:1226人(男性799人、女性415人、わからない・答えたくない12人)

回答していただいた医師の診療科などの内訳は以下の通りです。

医師の育休取得、女性は8割超も男性医師の取得は約16%  ~「育児休業」アンケート(前編)~

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